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9/28/2024, 11:19:56 AM

 私の名前は、岡田 研子!
 長い黒髪が似合う、こう高校二年生。
 最近の悩みは、母親から髪を切れと言われていること。

 そんな私は、オカルト研究会に所属しているわ。
 毎週心霊スポットを調べて、調査結果を校内新聞に載せているの。
 反応も上々で、『ここを調べて欲しい』と私たちの元にいろんな情報が寄せらるわ。

 そんな情報の中で、とても興味深いものがあったの
 それはバス停に現れる長い髪の女性の幽霊。
 雨で視界が悪い日に、車に撥ねられて死んでしまった女性らしいわ。
 
 この幽霊に興味を持ったのは、この幽霊が『走って来る』という点。
 『いつの間にかいた』系の幽霊は良くいるが、『こちらに向かって走って来る』系の幽霊は珍しい。
 想像するだけで、寒気がするわ。

 けれど、気になったことが一つ。
 このバス停、私の家の近くにあるの。
 バス通学なので毎日使っているけど、どういうわけか一度も見たことがない……
 この幽霊、本当にいるのかしら?
 けれど噂と判断するにも、目撃情報が多すぎるのも事実……

 私たちは話し合った結果、この心霊スポットを土曜日に調査することを決定。
 私以外のメンバーは遠方住まいなので、バスで来ることになった。
 いろいろ気になるけれど、土曜日が待ち遠しい。
 遅刻しないようにしないとね。

 ◆

 調査当日、私は寝坊した。
 起きた時には、待ち合わせの時間まであと少し。
 私は急いで支度を済ませ、家を出る。

 だけど、不幸は重なるもの。
 バス停に向かう途中、雨が降り始めた。
 家に戻って傘を取りに帰るべきかを迷う。

 けれど遠くの空は明るく、これはすぐ止む通り雨だろうと判断。
 濡れることも気にせず、そのまま走ってバス停に向かう。

 バス停の手前にあるコンビニまで来た時、バスから仲間たちが下りてくるのが見えた。
 どうやらギリギリ間に合ったようだ。

「みんなー!」
 私は走り寄りながら、声をかける。
 だが――

「「「「きゃあああああ」」」
 私を見るなり、みんなが悲鳴を上げる。
 中には腰を抜かしてしりもちをつく子もいた。

「お化け!」
「来ないで」
「許してー」
 まさに阿鼻叫喚。
 みんな私を幽霊だと思っているようだ。
 なんで――
 
 そこでハタと気づく。
 長い髪、女性、走って来る……
 まさか!

 私は、近くにあるコンビニに走り寄る。
 そしてガラスを鏡にして、自分の姿を見ると……
 なんと、そこにはずぶ濡れの女性の幽霊が。

 幽霊の 正体見たり 私だよ。
 どうりで幽霊を見たことないはずだ。
 だって私だもん。

 心当たりはある。
 遅刻しそうな時、雨の日でも傘を差さずに走る。
 それを見た人間が、幽霊と間違えたのだろう。

 そして脳裏に浮かぶのは、『髪を切れ』という母の言葉。
 母は正しかった。

 私が落ち込むのとは対照的に、空はからっと晴れ渡るのだった

9/27/2024, 4:54:34 PM

 『悪魔は秋に現れる』
 そんな言い伝えが、この村には残っている。

 悪魔は誰にも気づかれず村に忍び込み、村人たちに呪いをかける。
 呪われた人々は、常に飢えるようになり、どれだけ食べても満たされなくなってしまうのだ。
 そして食べまくった村人は醜く太り、周囲から嘲笑《ちょうしょう》される。
 その様子を、悪魔は影から見て大笑いするという。
 子供の頃、よく親から聞かされたものだ。

 言わなくても分かるとは思うけれど、『食べすぎに注意しろ』という教訓を昔話の形にしているものだ。
 食べ物がおいしいいこの季節。
 食べすぎて苦しまないように、この昔話は忠告している

 もっとも効果のほどは疑問だ。
 村の人間なら全員知っている話のなのだが、毎年食べすぎる村人が後を絶たない。
 中には食べすぎて、昔話のように太ってしまう者もいる。
 
 俺の妻であるクレアも例外ではなかった
「おのれ、悪魔……
 許すまじ!」
 クレアが慟哭《どうこく》する。
 言葉にこそ出さないが、どうやら太ったらしい。

 モチロン俺からは『太った?』なんて聞かない
 わざわざ虎の尾を踏みに行くほど無謀ではない
 俺も命が惜しいのだ

「バン様も、悪魔は残虐非道だと思いますよね」
「……そうだな」
 妻が同意を求めてきたので、俺はクレアに同調する。
 
 スマンな、悪魔。
 お前は悪くないと思ってるけど、お前のせいにさせてもらう。
 ここで否定しても、誰も幸せにならないからだ……

「しかし、この焼き芋美味しいですね。
 悪魔の呪いが無くても、手がとまりそうにありません」
「……そうだな」

 クレアはさらに新しい焼き芋に手を伸ばす。
 どう考えても食べ過ぎであり、太るのは目に見えていた。
 だが俺はなにも言わない。

 焼き芋以外にも、秋の味覚を食べまくっている。
 焼き芋を一つ減らしたくらいでは、何も変わらない
 もはや手遅れだ。

 だが救いはある。
 実はこの昔話には続きがあるからだ。

 村人たちが太ってしまうと、その事を憂いた女神様が村にやって来る。
 そう!
 この女神は太った人々を救う、救いの女神なのだ。

 だがそんなにうまい話はない。
 女神は、太った人たちを集め走らせる。
 しかも、とんでもなく長い距離を……
 人呼んで『運動の女神』。
 方法はどうあれ、救いの女神ではある

 もう少し日が経てば、女神に導かれた人たちが、村のあちこちで運動会を開催することだろう。
 色々言いたいことはあるが、誰もなにも言わない。
 毎年恒例の行事なのだ。
 『もうそういう時期か』としみじみ感傷に浸るだけである。

 おそらくクレアも、女神に救いを求めるのだろう。
 それが悪いとは言わない。
 だが――

「一緒に走らされるんだろうなあ……」
「何か言いましたか?」
「独り言だよ」

 俺は『巻き込まれませんように』と、信じてもいない女神に救いを求めるのだった。

9/26/2024, 1:45:13 PM

「いたっ」
 朝、朝食をとろうとリビングに行こうとした時、ドアの鴨居に頭をぶつけてしまう。
 ここは出張先の寮。
 不慣れとはいえ、毎朝頭をぶつけている。
 衝突するたびに、『次は気を付けよう』と思うのだが、未だに改善しない。
 次こそはぶつけないようにしようと心に誓う。

 頭をさすりながら顔を上げると、窓際に座っている飼い猫のオリオンが見える。
 体の模様が星空みたいだったから、『オリオン』と名付けた私の愛猫。
 だけど私に対しかなり薄情で、自分の飼い主が頭をぶつけて悶絶しているというのに、『またか』と言った顔で睨んだ後、すぐに視線を外の景色に戻す。
 この猫は飼い主の危機より、外の監視が重要らしい。
 本当につれない子。

 だけど、怒るつもりはない。
 というのも、私が出張するとき、寂しかったので無理矢理付いてきてもらったのだ。
 彼女の都合を完全に無視した、嫌われても仕方がない所業……
 だけど、とくに不満を言うことなく、こうして見下されるだけなので安いもんである。

 そんな彼女は、今日もお気に入りの場所で外の景色を眺めていた。
 だけど、窓から見える景色は、これといって面白いわけではない。
 外に広がるのは、暗闇に満たされた世界。
 かろうじて、ぽつぽつ光の点が見えるのみ。
 人間では数分で飽きてしまう風景を、オリオンは飽きずに毎日眺めている。

 何が楽しいのか分からないが、彼女が楽しいのならば文句は無い。
 私は、オリオンが側にいてくれるだけで幸せなのだ。

 まてよ。
 そういえば『猫は、人間に見えないものが見える』と聞いたことがある。
 じゃあ、今オリオンが見てるのは……
 よし、この話は止めよう。
 私はお化けが苦手なのだ。

 こんな怖い思いをしたときは、オリオンと遊ぶに限る。
 猫はどんな症状にも効く万能薬なのだ。
 私はおもちゃ箱から、オリオンの好きな猫じゃらしを取り出す。
 
「オリオン、遊ぼう」
 私は猫じゃらしをフリフリして、オリオンを遊びに誘う。
 だがオリオンは、尻尾を少し動かしただけで、私の方を見ない。
 えー、私って何も無い景色に負けたの……
 ちょっとショック……

「オリオン~」
 もう一度、私はオリオンに呼びかける。
 すると思いが通じたのか、オリオンは『やれやれ』と私に体を向けた。
 遊んでくれる気になったらしい。
 オリオンてば焦らし上手なんだから。

 オリオンは、私に向かって跳躍する。
 距離はかなり離れているが問題ない。
 彼女は地面を落下することなく、『空』を泳いでやってくる。
 そして私の胸に着地したオリオンは、『褒めろ』とばかりにニャーと鳴く。

「オリオンも、無重力に慣れたねー。
 偉い偉い。
 オリオンも、立派な猫の宇宙飛行士だね」

 『私よりも上手な』と言外に付け加える。
 私は未だに慣れず頭をぶつけるというのに、オリオンは優雅にこの宇宙ステーションで暮らす。
 宇宙遊泳に関しては、オリオンのほうが上手なのだ。
 さすがうちの子、天才である。

 と、オリオンをほめちぎっていると、急に周囲が明るくなる。
 窓に視線を向ければ、地球から太陽が姿を現していた。

「見て、オリオン。
 太陽だよ」

 太陽の光を反射して、オリオンの瞳はキラキラと輝くのだった。

9/25/2024, 1:03:33 PM

 俺の名前は、井伊・カカリ=ツケル。
 プロのクレーマーだ。
 企業にイチャモンをつけては、商品、金品をせびり、それで生計を立てている。

 俺の事を悪く言うやつがいるが、それは誤解だ。
 どんな手段であっても、お金を稼ぐ事が悪いわけがない。

 それにこの仕事は効率がいい。
 なにせ短い間だけ大声で怒鳴り散らせば、簡単にお金が手に入る。
 さらに『可哀そうな被害者』を演じていれば、向こうも強気には出ることなはい。

 楽して金を稼ぐが俺のモットー。
 真面目に働くなんて、バカのすることだね。

 そして今日もとある家電量販店に赴き、言いがかりをつける。
 さあ、楽しい時間の始まりだ。

「だーかーらー、謝って済む問題じゃないって言ってるでしょ?」
「井伊様、もうしわけありません」
「そんな謝罪じゃ、全然足らないね!。
 俺、ここで買った商品で怪我したんだよ?
 誠意見せろよ、誠意を!」

 ダンと机を叩くと、机の向こうの店員が体を震わせる。
 今回は当たりのようだ。
 下手に気概があるやつが相手だと、話が長引くから嫌いだ。
 だが今回は気弱な店員だし、他の仲間も助けに入ろうとはいない。
 このままいけば何事もなく慰謝料が手にはいるだろう。
 まったく楽なもんだぜ

「さっきから言ってるだろ。
 誠意を見せてくれよ、せ・い・い。
 分かる?」
「この度は申し訳ありませんでした」
「分かんねーな、あんたも……
 謝罪なんて、形の無いものじゃ、俺の気が済まないって言ってんだよ」

 だが店員は、未だに金を出す気配はない。
 ビビりすぎて頭が回らないのか、そもそも『誠意』をしらないのか……
 どっちにせよ、簡単にいきそうという目論見は外れたようだ。

「申し訳ありません!」
「……ハア」

 このままじゃ埒が明かない。
 しかたないから、少しヒントを出すことにしよう。

「俺が欲しいのはこれだよ」
 俺は店員に見えるように、人差し指と親指を付けて『円』を作る。
 つまり、お金のジェスチャー。

 これで、俺の意図が分からないやつはいない。
 案の定、店員はハッとした表情で俺を見る。

「俺の欲しいものが分かったか?」
「はい井伊様。
 私の理解が及ばなかったようで、申し訳ありません」
「いいさ、分かってくれたんならな。
 じゃあ、早速――」
「では、井伊様。
 ご案内しますので、こちらへ」

 俺の返事を待たないまま、定員は立ち上がって歩き出す。
 店員の態度の豹変ぶりに、俺は一瞬呆けるが、慌てて店員の後を付いて行く。

「井伊様が、そのような物をご所望とは気づきませんでした。
 気付くことが出来ず、誠に申し訳ありません」
「そ、そうか……
 まあ、分かってくれればいい」

 感情の無い声で、話しかけてくる店員。
 どことなく不穏な空気を感じつつも、俺は平静を装って店員に付いて行く。
 こういう時、弱みを見せてはいけない。
 舐められるからだ。

 しばらく歩くと、店員が立ち止まった。
 そこには『従業員用』と書かれたエレベーターの扉があり、店員は端末を操作して扉を開ける。

「こちらにお乗りください。
 この先に、井伊様の望むものがあります」
 背中に冷たい汗を感じつつも、店員と一緒に乗る。
 嫌な予感がするが、お金をくれるというんだ。
 ここで引き返す理由はない。

 それにだ。
 何かあったらあったで、それを理由に莫大な慰謝料を請求すればいい。
 何も問題ない。
 何も……

 店員がボタンを押すと、エレベーターは地下へと動き出す。
 『地下があったのか』と驚きながら、待つことしばし。
 体の浮遊感が無くなって、目的に着いたことを感じる。

 そして扉が開いた瞬間、俺はとんでもない光景を目にした。
 扉が開いた先にあったもの。
 それは漫画でしか見たことがないような闘技場だった。

「お、おい!
 なんだよ、これ!!」
「何って……
 井伊様は、この地下闘技場で、決闘をなさりたいのですよね」
「なんでそうなる!」
「井伊様は、こう指でジェスチャーなされたでしょう?」

 店員は人差し指と親指をくっつけて『円』を作る。
 お金のジェスチャーだ。
 だが――

「このジェスチャーは、この円形の闘技場を表します。
 すなわち、この闘技場に参加するという意思表示です。
 ご存じではなかったので?」
「ば、ばか!
 俺が欲しいのは闘争でなくて、金だ!」
「なら良いではありませんか?
 勝てばお金が手に入りますよ。
 負けても病院代は出ます」
「帰らせてもらう!」
「一度参加を表明した以上、一度でも試合に参加しない限り帰れませんよ。
 ……ああ、それと――」

 店員は血走ってた目で、俺を見る。
 逃げよう。
 そう思うのに、体が少しも動かない。
 なんでこんなところに来てしまったんだ!

「対戦相手は私です。
 誠意を尽くしたオモテナシ、存分に味合わせてあげますよ」

9/24/2024, 1:38:44 PM

 数か月前、考古学者である私の元に、ある情報がもたらされた。
 それはジャングルの奥地に、誰も踏み入れたことがない遺跡があるということ。
 聞いた時は半信半疑であったが、もし本当なら人類史をひっくり返す大発見である。
 私は数日悩んだ末、まだ見ぬ遺跡へと旅立つことにした。

 だがジャングルは危険だ。
 そこで私は、不測の事態に備えるため、あらゆるジャンルのエキスパートを集めた。
 何があっても対応できると太鼓判を押せるドリームチーム。
 これだけの天才が集まれば、ジャングルの踏破は簡単だと思われた。

 だが認めよう。
 ジャングルをなめていたと。

 獰猛な猛獣、未知の疫病、毒性をもつ植物、危険な地形……
 ありとあらゆる困難に、我々のチームは一人、また一人数を減らしていく。
 だが弱音は吐くものはいない。
 我々は使命を帯びているからだ。

 そして遺跡にたどり着いた時、たくさんいたチームは私一人しかいなかった。
 急に心細くなるが、自らを振るい立たせ、移籍へと歩を進める。
 途中で脱落した者たちのためにも、この遺跡を調査する義務があるのだ。

 だが私は遺跡を見て、奇妙な点に気づいた。
 その遺跡は、他の遺跡では見たことがない構造だった。
 金属の棒だけで構成され、まるで立方体を積み上げているかと錯覚するような意匠。

 なんらかの目的で作られたことは明白。
 しかし考古学のエキスパートである私であっても、その目的までは見当がつかない。
 実に奇妙で、不思議な遺跡。
 しかし答えは意外なところからやって来た。

 どこからともなくサルたちがやって来て、この遺跡に登り始めたのである。
 生物学者ではないので断言できないが、まるで遊んでいるように見えた。
 その様子を眺めていた私は、雷に打たれたように閃いた。

 これは古代におけるジムのような、運動を運動をする施設なのだ。
 なんてことだ。
 古代にこんなものがあったなんて……

 世紀の発見である。
 私は世に知らしめなければいけない。
 そのために、私はこの遺跡に名前を付けることにした
 これに名前をつけるとすれば――

「そうだな、ジャングルにあるジムだから、『ジャングルジム』と名付けよう」


 ◆

「これがジャングルジムの由来です。
 また一つ偉くなったね」
「今日は四月一日じゃねーぞ」

『とある姉弟の会話』

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