神様が舞い降りてきて、こう言った。
「とりあえず生」
「俺も」
「ヘイ、喜んで!」
ここは神様居酒屋。
神様が集い、酒を飲み交わす場場所である。
時に互いを労い、時に情報共有し、時にただ酒を飲み交わす。
神様の仕事も楽ではない。
神様も人間と同じように、飲みニケーションへと赴くのである。
今日も二人の神様が居酒屋へきて、酒を飲み交わしていた。
活発な神様と、大人しそうな神様。
性格が正反対の二人は、神様養成学校を卒業した同期。
仲の良い二人は、しばしば居酒屋で酒を飲み交わしていた。
「プハア。
仕事終わりの生は最高だぜ!」
「ゴクゴク……
ウマい……」
ジョッキに注がれたビールを飲み干す二人。
神様と言うのは無類の酒好きである。
どれくらい好きかと言えば、管理する人間界に、捧げものとしてお神酒を要求するくらいである。
人間に質のいい酒を造らせ、それを飲む。
それは神様にとって至福の時だった。
だが大人しい方の神様は、浮かない顔をしていた。
「なんだよ、元気ねえな。
うまくいってないのか?」
「うん……」
大人しい神様は、泣きながら友神に語り始めた。
「最近、僕が管理している世界、信仰が薄くなっているんだ」
「あー、最近そう言うトコ多いらしいな。
お前のとこもそうなのか……」
「うん……
最初は良かった。
神様神様って言って、僕を崇めてくれたのに……
貢物もくれてさ
でも、最近じゃあ、神なんていないって言うんだよ」
「そりゃ大変だな」
「人間どもが勝手に願い事してくるのがウザいと思った事もあるよ。
貢物したから、雨を降らせろとかさ
けど今みたいに無視されると、無茶を言われる時が一番やりがいがあったと思うよ。
なあ、どうしたらいいと思う?」
「うーん」
大人しい神様の悩みに、活発な神様は考えます。
酒のせいでうまく頭が回りませんでしたが、活発な神様は妙案を思いつきました。
「簡単な方法がある。
ガツンと言えばいいのさ」
「というと?」
「はっきり言うぞ。
お前、舐められれるんだよ。
人間どもにきちんと力の差を見せつけないとダメだ。
アイツらバカだからな」
「でも、いい人ばかりなんだ」
「分かってる。分かってるよ。
けどさ、実際にはお前のこと舐めてるわけ。
お前優しすぎるから、恐くないんだよ。
けど神様は、畏怖されてなんぼだ。
ほら、もう一杯飲んだら行くぞ」
「どこへ?」
「お前の管理する世界にだよ。
そうだ。
今の内に、人間界に行ったら時の計画を考えようぜ……」
◆
人間界。
神が住まうと言われる神聖な場所で、天変地異が巻き起こっていた。
人間たちは恐れおののき、神職たちが必死に祝詞を唱え、怒りを鎮めようとしていた。
誰もが世界の終わりを覚悟したとき、神様が舞い降りてきて、こう言った。
「お前たちの傲慢な物言いには、あきれ果てた。
よって天罰を加えることにした。
もう我慢ならん」
人間たちは、神様が怒り狂っているのを見て、知らず知らずのうちに増長していたことに気づいた。
だが後悔先に立たず。
目の前の神はもはや止められず、人々は世界の終わりは近いと絶望する。
そんな中、勇気ある一人の若者が前に出て、神に許しを乞い始めた。
「申し訳ありません、神様。
我々は心を入れ替えます。
どうぞお許しください」
何の変哲もない、謝罪の言葉。
だが、きっと心からの言葉なのだろう。
男は土下座していた。
しかし神様は、信用できないとぎろりと睨みつける。
「言葉ならどうとでも言える」
「いいえ、今度こそ心を入れ替えます。
なにとぞご容赦を」
「神様、ご容赦を」
「お許しください」
男の言葉に続き、その場にいた人間すべてが、土下座する。
神様はその光景に満足し、怒りの矛を収める事にした。
「よかろう。
今回はコレで許してやる。
だが本当に許してほしければ、態度で示せ。
捧げものや酒を欠かすなよ」
「はは、これからは御神酒を欠かさないようにします。
ところで神様、酒の種類に希望はありますでしょうか?」
男の言葉に、神様は少しだけ考え、そしてこう言った。
「とりあえず生で」
誰かのためになるならば
仕事というのは、基本的には誰かのためにするもの。
自分が誰かのために働き、その誰かも誰かのために働き、その誰かも誰かのために働いている……
そしていつしか、誰かが自分のために働いてくれるのだ。
そうやって社会は廻っている。
●
しかし、必要だが誰もやりたがらない仕事がある。
そんな仕事は、必然的に人は集まらない。
普通は派遣会社に頼むが、それでも集まらない事がある
そんな時、お呼びがかかるのが、俺達探偵だ
というわけで、俺は助手を伴って、公園の掃除をしていた。
前日花火大会が有り、とんでもなくゴミで散らかっている。
広い範囲を人海戦術で行うため、たくさんの人間が集められた。
派遣会社にも声をかけたらしいが、人が十分集まらなかったらしく、俺達に依頼が来たということだ。
最初は、『この暑い中やりたくない』と思って、やんわりと断った。
しかし猫の手も借りたい状況だったらしい。
依頼料を奮発してくれるとのことで、快く引き受けた次第である。
そんな理由も有って、俺は勤労精神を発揮し、朝からゴミ拾いに勤しんでいた。
ところが……
「先生、これ探偵の仕事ですか?」
刺々しく俺に文句を言うのは助手だ。
コイツも依頼金に目がくらみ、付いてきたクチである。
買いたい物があり、金が必要なのだそうだ。
けれど思ったより暑くやる気が出ないのか、朝からブツブツ愚痴を言っていた。
それでもちゃんとゴミを拾うあたり、助手はマジメである。
「これ、便利屋の仕事ですよね。
探偵の仕事じゃない」
「仕事に貴賎はない。
誰かのためになるならば、法と倫理に触れない限り何でもするのが、探偵というものさ」
「そうかもしれませんが……」
頭ではわかっているけど、感情が理解できない。
そういった顔だ。
若いなあ。
「先生、私は難事件とか解決したくて探偵事務所に入ったんです
もっと探偵らしいことしましょうよ」
「そうは言ってもな。
ウチみたいな木っ端探偵事務所に難事件を依頼する人間なんていないよ。
せいぜい浮気調査くらいさ」
「……他の事務所に移ろうかなあ」
「やめて!
報酬上乗せするから!」
助手には主に事務仕事を任せているのだ。
もし助手がいなくなったら、地獄の事務仕事を俺がしないといけなくなる。
それは避けたい。
助手がその気になる前に、話を変えよう。
「それにしても拾っても拾ってもゴミが無くならない……
祭りの後とはいえ、これだけ散らかるのも凄いな」
「ゴミを捨てる人は何を考えているんでしょう?
むしろゴミを捨てる人間を攫って処分すれば、コスパがいいのでは?」
「物騒なことを言うのはやめなさい……
ん?」
俺達の進行方向から、缶が転がる音が聞こえる。
音の方向に目線を向けると、チャラチャラした男がベンチに座って缶ビールを飲んでいた。
しばらく見ていると、チャラ男はビールを飲み干し、空になったビール缶を投げ捨てる。
「あんにゃろー。
私たちがゴミ拾いしてる前で、ポイ捨てだと!?
ゆ゛る゛さ゛ん゛」
「待て、ステイ、ステイだ。
殴りかかろうとするな」
「止めないでください。
仕事を増やすやつは殺す」
「落ち着けっての」
「ああん」
チャラい男が騒ぎに気づいたのか、こっちを見る。
「あー、ゴミ拾いご苦労っす。
てことでホイ」
チャラ男は、新しく飲み干した缶ビールを投げ捨てる。
「ついでに回収しけよ。
ゴミ拾いなんだから」
俺達は唖然とした。
酔っているとはいえ、常識ある人間の行為ではない。
一瞬自分の中に怒りが巻き起こるが、なんとか抑える。
ここで激昂しても、なんの儲けにもならないからだ。
俺、そう思って受け流すが、助手は違ったらしい。
「舐めやがって」
助手が一歩前に踏み出す。
この暑さのせいで、怒りのリミッターが壊れたよいだ。
いつものクールな助手よ、戻ってきてくれ。
「あの野郎、社会のゴミとして回収してやる」
「やめろ、酔っ払いの言うことを真に受けんな」
「ああ、ゴミだって言うなよ。
傷つくだろ
クレームつけるぞ、ガハハ」
「お前もいらんこと言うな」
チャラ男の言葉に、助手が更にヒートアップする。
「先生、あいつを許すって言うのですか。
情けは人の為ならず。
ここでブチのめしたほうが、世のため人のためになります」
「やめろって言ってるだろ」
「はっ、ゴミ拾いサボんなよ。
そうだ、動画撮ってやろ」
そう言って、新たに飲み干した缶ビールを投げ捨てる。
スマホを操作するのに邪魔なのだろう。
しかし、チャラ男はスマホを取り出すことができなかった。
「君、ちょっといいかな」
「なんだよ、今いいところなんだよ」
「ほらこっち向いて」
「しつこいぞ、殺してやろ……うか?」
チャラ男が振り返った先、そこにはお巡りさんがいた。
パトロール中の警察官が騒ぎを聞きつけて来たのだろう。
正直助かった。
「スイマセン、お巡りさん。
さっきの『殺す』っていうの冗談で……へへ」
「ああ、分かっているよ。
気にしてはないさ」
酔って常識を失ったチャラ男も、さすがに警察官に逆らってはいけないことは覚えているらしい。
啖呵も、勢いがなくなっている。
対してお巡りさんは、よくあることなのか、チャラ男の暴言にも笑顔だった。
助手とは大違いだ。
「じゃ、じゃあ俺は忙しいのでコレで……」
「待ちなさい」
チャラ男が立ち去ろうとするが、警察官はそれを制止する。
「あの、なんスカ」
「君、これ読める?」
その場にいた全員が、警察官が指差す先をみる。
そしてそこにあったのは『ポイ捨て禁止』の看板。
『五年以下の懲役もしくは1千万の罰金が課されます』と書かれている。
再び一同が、警察官の方を見ると、警察官は満面の笑みを浮かべていた。
「話は署で聞こうか」
あれよあれよと言う間に、パトカーに詰め込まれるチャラ男。
見事な職人芸に、俺達は見ているだけしか出来なかった。
「では本管はこれで失礼します。
お仕事頑張ってください」
そしてあっと言う間に去っていくパトカー。
これから、チャラ男は警察官に執拗な取り調べを受けるのだろう……
それを想像すると俺は……
ざまあみろと、清々しい気分になる。
俺がいい気分でいると助手が口を開いた。
「警察官に転職しようかな。
犯人ボコれそう」
「やめなさい
ほら、ゴミ拾い続けるぞ」
「はーい」
ゴミ拾いを再開しようとした、まさにその時。
「あの」
後ろから声をかけられる。
助手と一緒に振り向くと、そこには幼い男の子がいた。
「ゴミ拾い、お疲れ様です」
「え、うん。どういたしまして?」
「手を出して」
男の子の言葉を不思議に思いつつ、俺たちは手を出す。
「これどーぞ」
男の子が、俺達の手の上に飴を置く。
「公園をキレイにしてくれてありがとう。
お仕事頑張ってください」
そう言って男の子は、母親と思わしき女性に走り、そのまま一緒に立ち去った。
「褒められちゃいましたね」
「ああ」
「人類があの子みたいだったら良かったのに」
「全くだ」
「そしてチャラ男は滅べ」
「全くだ」
助手と少し笑い合った後、もらった飴を口に含み、ゴミ拾いを再開する。
「それじゃ、張り切ってお仕事しますか」
●
仕事というのは、基本的には誰かのためにするもの。
自分が誰かのために働き、その誰かも誰かのために働き、その誰かも誰かのために働いている……
そしていつしか、男の子が俺達に飴をくれるのだ。
飴を貰った俺達は、再び誰かのために働く
そうやって社会は廻っている。
今、私が住んでいるアパートは、ペット禁止だ。
理由はアパートのオーナーが生き物をが嫌いだからと、契約時に聞かされた。
予算と駅へのアクセスの都合によりはこの部屋に決めた。
本当はペットを飼いたかったけれど、泣く泣く断念。
なかなかうまい話はないものだ。
とはいえ、それ以外に不満なことは無い。
静かだし、部屋はきれいだし、家賃は安い。
職場へのアクセスも良好。
デパートにも近いと来てる。
本当に『ペット禁止』以外は文句のつけようがない。
だけど、この部屋に越してからペットを飼いたい衝動は増すばかり……
されど、この居心地のよい部屋を手放すのも惜しい……
すさまじいジレンマ。
どうにかしてこの二つの命題を解決できないだろうか……
そこで私は妙案を考えた。
ペットを飼っているという設定で、生活すればいいのだ。
エアペットというやつである。
これならばペットを飼うことが出来て、かつこの部屋に住み続けることが出来る。
もはや末期であるという自覚はあったが、もう止まれない。
私はエアペットを飼うことに決めたのだ。
思い立ってすぐ、私はホームセンターへ行く。
とくにエアペットの種類は決めていない。
とりあえずホームセンターで物色して、それから決めようと思ったからだ。
犬にするか、猫にするか……
私がペット用品の商品棚で悩んでいると、見切り品コーナーの鳥かごが目につく。
鳥かごは、見切り品だけあって、お値打ち価格。
デザインも、実に私好み。
私はコレを買うことに決め、エアペットもエアインコを飼うことにした。
私はホームセンターから戻り、鳥かごをリビングの目につくところに置く。
殺風景だったリビングも、鳥かごを置くだけで随分と華やかになる。
私はウキウキしながら、その日は寝た……
それから私は変わった。
仕事にもやる気がみなぎるようになり、私生活はうまくいくようになった。
今までのペットを飼いたいと言う衝動も、エアインコを飼うことで解消された。
やはりペットはいいものだ。
人生を豊かにする。
でもエアインコは、本当のインコの様に鳴きはしない。
けど、それに何の問題があるだろうか?
そこにいるだけで十分なのだ。
偽物のインコだったとしても、私は幸せだった。
しかしそれも長くは続かなかった。
アパートのオーナーが突然やってきたのである。
私が規約に反し、ペットを飼っていると言うのだ。
どうしてそう思ったのかは知らないが、酷い言いがかりだ。
なぜなら私はペットを飼っていないから。
幾ばくかの言い争いの後、私は身の潔白を証明する手段として、オーナーを部屋の中に招き入れた。
オーナーは鼻息荒く、部屋に入り込む。
玄関廊下台所と、オーナーは痕跡一つ見逃すまいと探索する。
無駄だと言うのに、熱心なことである。
さぞペットが憎いのだろう。
そうこうするうちに、オーナーはリビングに入り込む。
そしてリビングに入るや否や、オーナーは勝ち誇ったような顔をする。
コレが証拠だと言わんばかりに、鳥かごを指さす。
どうやらこれがペットを飼っている証拠だと言うつもりらしい。
しかし片腹痛い。
その鳥かごの中に何もいないと言うのに、何が証拠だと言うのか!
私は反論する。
その鳥かごは買ったままの新品の様に綺麗だろう?と……
生き物がいないから、汚れようが無いのだ。
そして若干の埃が被っているのも決め手だ。
なにせ飼っているのはエアインコなので、埃が舞わないのだ。
私の言葉を聞いて、オーナーは驚愕する。。
そしてオーナーは叫ぶ。
『ならなぜここに鳥かごがあるのか』と……
確かに当然と言えば当然である。
普通、鳥も飼いもしないのに鳥かごなんて飼わないからだ。
だから私は言ってやった。
エアインコだと。
ペットは禁止だろうが、エアペットまでは禁止されていないだろう、と
その時のオーナーの顔は傑作であった。
口をだらしなく開き、目は驚愕で見開いていた。
それも仕方あるまい。
なにせ自信満々で来たのに、ペットを飼っていないことが確定したのだから。
私がいい気分で、勝ち誇ったのも束の間。
急にオーナーが挙動不審な事に気づく。
なにかに怯えているような、そんな様子である。
私はあたりを見回すが、特にこれと言って何かがあるわけではない。
不審物を探すため見回していると、玄関からバタンとドアが閉まる音が聞こえる。
どうやらオーナーは出ていったようだ
なんてオーナーだ。
人として、あるまじき行為だ。
人を疑って、それが間違いが判明したにもかかわらず、謝りもしない。
そして帰るときにも、一言も言わず去る。
ありえない!
こうしてはいられない。
こんなオーナーのアパートにはこれ以上住めない。
引っ越さなければいけない。
私がパソコンで、調べようとした瞬間、ドアの呼び鈴がなる。
なにかと思って出てみれば、オーナーが菓子折りとお金を持って、ドアの前に立っていた。
オーナーは言う、『これを黙って受けとって、すぐに引っ越してほしい』と……
文句を言ってやろうとも思ったが、お金の入った封筒が結構厚い事に気づき、私は快く快諾する。
これだけあれば、引っ越し代や敷金礼金を払っても、おつりがくるだろう。
便利な場所を捨てるには惜しいが、これだけのお金を貰えば逆に得した気分だ
まだ給料には不安が残るので、次もペット禁止のアパートになるだろうが仕方あるまい。
新しいアパートで友人関係を構築しないといけないが、不安はない。
私には、エアペットのエアインコがいるからだ。
この子さえいれば、どんな場所であろうとも楽しいものになるだろう
そうだ。
せっかくだからエアペットを増やすのもいいかもしれない。
そうすれば留守番の時も、寂しくないだろう
次はエアわんこでも飼おうかな
2024年某日 地球上空。
そこに不気味に漂う物体があった。
UFOである。
彼らの目的は何か。
それは地球侵略である。
彼らは枯渇した貴重な鉱物資源を求め、地球に狙いを定めたのだ。
今日もUFOでは、地球侵略のための会議が行われていた。
綺麗に整列された宇宙人の前に、貫禄がある宇宙人がやって来る。
このUFOの船長――つまりボスである。
彼はこの地球侵略が成功すれば、さらなる昇進が約束されていた。
それゆえにこのUFO内のどの宇宙人よりも、やる気に満ちていた。
ボスは集まった宇宙人をゆっくり見回しながら、言葉を発する。
「では諸君、時間になったので始めよう。
我々は地球侵略のため、かねてより進めていた地球人の調査の結果が出た。
博士、前に出てくれ」
「はい」
博士と呼ばれた宇宙人が、列の前に歩み出る。
彼は若いながらも分析班の班長であり、かねてよりボスの命令で地球の研究をしていた。
「それでは、我々分析班の報告をさせていただきます。
調査結果を分析した結果、我々は『地球侵略は不可能』と結論しました」
「なに!?」
「何かの間違いだ!」
「そんなはずは……」
宇宙人から同様の声が漏れ始める。
だれも想像だにしなかった結論だったからだ。
そしてそれはボスにとっても同様であった。
「どういうことだ。
地球と我々の技術差は歴然。
このまま攻め込んでも蹂躙できるはず。
調査も念のためにしているにすぎん!」
「はい、ボス。
それを今から説明いたします」
ボスが怒気を含みながら、博士を問い詰める。
しかし博士は少しも怯えず、淡々と説明する。
「先行調査で報告された、『地球人には、我々にはない友情という概念を持っている』を覚えていますか?」
「うむ、そういう報告があったのは覚えている。
しかし、『アレは弱者のなれ合い』と言うことで結論されたのではなかったか?」
「その通りです、ボス。
あの時点では、そう結論付けられました。
ですが調査を進めて、驚くべき事実が判明しました」
「ほう、なんだ」
「地球人は、深い友情で結ばれたものは『合体技』なるものを使えるようになるのです」
「がったい……わざ……?」
ボスは、理解できないとばかりに、オウム返しに言葉を返す。
そしてボス以外も、他の宇宙人たちは聞きなれない言葉に首を傾げていた。
「その、なんだ。
合体技というのは?」
「友情の深まった地球人が二人以上集まると使う事の出来る、不可能を可能にする現象です」
「よく分からんな」
「具体例を示しましょう。
仮に地球人の現存兵器では、傷すらつけられない生物がいたとしましょう。
普通なら為す術もありません。
しかし合体技を使えるものがいれば、打ち勝つ可能性が出てくるのです。
この合体技を我々に向けられれば、被害は少なくないでしょう……」
UFO内でざわめきが起こる。
今まで何の障害にもならないと思われた地球侵略に、大きな不安要素が出てきたからだ。
「なるほど。
これは地球侵略を行うに当たって、大きな障害になるな……
しかし不可能とまで断じるのは無理がないか?」
「ボスの言う通りです。
合体技だけだったら、不可能とは判断しませんでした」
「まだあるのか?」
「はい」
博士は持っていた報告書をめくる。
「友情が深まると、合体技のほかに『身体能力の向上』『限定的なテレパシー能力』『卓越した連携技能』『トレーニング効果の向上』……」
「いろいろあるのか……」
「これら一つ一つの影響は小さいですが、全てが積み重なると無視できなくなります。
そしてこれが重要なのですが、『戦いの中で友情イベントが発生すると、その戦いに勝利する』というものです」
「友情イベント?
なんだそれは?」
「色々なパターンがあるのですが、簡単に言えば『お互いの友情を確かめ合い、さらに友情を深める』ことです」
「よく分からんが……
これは絶対に勝つのか?」
「絶対とまではいきませんが、我々が確認したパターンでは、ほとんどの場合が当てはまります」
「ううむ」
ボスは腕を組んで、考え始めた。
最初は楽な仕事だと思って進めた地球侵略……
ここにきて新情報が出てきて、危険度が跳ね上がってしまった。
ボスは自らの地位のため、今後の計画を考え直す必要が出てきた。
ボスは考える。
このまま進めて成功しても、もし被害が多ければ自分の責任を問われるだろう。
しかし、引き下がっても臆病者呼ばわりされるだけ……
ここまま進める……
それとも撤退か……
ボスは重要な決断を迫られていた。
「ボス、この件について提案があります」
「言ってみろ」
「我々分析班も、地球に派遣してください」
「なぜだ?」
「正直に言えば、我々分析班は、調査班の報告に懐疑的です。
いくら新しく発見された生物とはいえ、意味不明過ぎます。
それならば自分たちの目で確かめたいと思います。
それに現地に行く事で、分かる事も多いでしょう」
「ふむ、確かにな。
いいだろう、行ってこい」
「ありがとうございます」
博士は、ボスに対し恭しく礼をして、その場から立ち去るのであった
◆
博士は会議の後、まっすぐ分析班の研究室に戻る。
会議の結果を報告するためである。
博士が部屋に入ると、分析班のメンバー全員から視線を向けられた。
彼らは沈黙し、自分たちの班長の言葉を、待ちわびていた。
「諸君……
地球に派遣されることが決まった。
早く準備をしたまえ」
「「「いやっほおぉぉぉ」」」
部屋の中で待機した宇宙人たちは例外なく、喜びの雄たけびを上げる。
彼らは、地球への派遣の準備をするため、我先へと自室へ戻っていった。
分析班のメンバーは地球に赴きたかったのだ。
事の発端は、地球に赴いた調査班から、地球人たちの
色々な娯楽品が入っており、分析班は大いに興味をそそられた。
その中でも特に興味を惹かれたのが、ゲーム類である。
彼らは、自分たちの文化になかったゲームに嵌まり、いつしか地球に行きたいと思うようになったのだ。
博士に、ボスを騙したつもりは毛頭ない。
ただ話した内容は、地球の事ではなく、地球のゲームの話だっただけである。
もちろん十分に分析した結果なので、嘘ではない。
飛び出していった部下たちを見送り、博士は部屋で一人呟く。
「地球人は滅ぼすには勿体ない。
手を組むだけの価値がある」
もし手を組むことが出来れば、お互いに大きな恩恵を得ることが出来る。
そうすれば、誰も見たことがないいゲームを作る事も可能だろう。
しかし言葉で言うほど簡単ではない。
異なる文化が手を取り合う。
それはいばらの道だ。
しかし――
「それでも、我々は成し遂げる。
我々と地球人との、『合体技』でな」
『花咲いて』
ここは、とある荒野。
草木すら生えない不毛の地。
人どころか、虫一匹いない死の大地。
限りある土地を巡って、人間と魔族との間に戦争が起こっても、この土地を占領しようとしなかった。
ここは見捨てられた土地なのだ。
訪れる者もおらず、風だけが吹く寂しい風景……
しかし、そんな荒野に来訪者が洗われる。
突如光の玉が出現し、辺りを明るく照らす。
この光の玉は、勇者だけが使える転移の呪文によるもの。
光の玉はしばらく静止した後、徐々に小さくなっていき、その中から2つの人影が現れた。
「ほら魔王、着いたぞ」
「ああ、助かる」
勇者と魔王である。
魔王は、勇者の肩を借りながら荒野を歩き始める。
彼らは、一見友人同士にも見えるが、そうではない。
彼らは、憎しみあっており、先ほどまで殺し合った仲である。
その証拠にお互いの体は傷だらけであり、所々に血の跡が見える。
特に魔王は血を流し過ぎたのか、顔には血の気が無く、魔王に死の影が迫っているのは誰の目にも明らかだった。
魔族と人間、相容れない二人
敵同士の二人が、なぜ荒野にいるのか……
「魔王よ、本当にいいのか?
最期の場所が、こんな寂しいところで……」
「ここでいい。
こんな寂しい場所でも、我の生まれた場所だ」
魔王は力なくずるりとその場に崩れる。
魔王には、もはや立っている力すら残っていない。
このままいれば、魔王は死ぬことだろう……
「勇者よ、礼を言う。
敵である我の我がままに付き合ってくれて……
勝手だとは思うが、最期の場所はここだと決めていたのだ」
「他人の勝手に付き合うのが勇者の仕事だ。
気にするな。
死に際に呪いをまき散らされても困るしな。
このくらい安いもんさ」
勇者は皮肉げに笑う。
対する魔王は、言い返す気力が無いのか空を見ているだけだった。
「勇者よ、一つ尋ねたい。
そこに花壇があるはずだ。
花は咲いているか?」
「自分で見ればいいだろう」
「我はもう目が見えぬ。
見てきて欲しい」
「本当に勝手だ。
こんなに扱き使うのは、俺を送り出した王様以来だ」
勇者は肩をすくめ、辺りを見回す。
花壇はすぐ近くにあったので、すぐ見つけることが出来た。
しかし――
「おい、魔王。
花どころか、雑草すら生えてないぞ」
「そうか。
駄目だったか」
「どういうことだ」
勇者は、倒れている魔王を見下ろす。
なにも無い花壇を見て、もしや罠かとも思ったが、今の魔王にそんな気配はない。
勇者は、魔王の時間が少ないこと悟る。
「我はこの荒野を花いっぱいにしたかったのだ」
「それは魔王に似合わずメルヘンな夢だ」
「そうだ、我の夢だ」
魔王はゴホっと口から血を吐く。
「こんな寂しい景色でも、我の生まれ故郷なのだ。
いつかはこの場所を華やかにしたいと思っていたのだが……
最期までダメだったようだ……」
「ふーん。
まあ、土に栄養なさそうだもんな」
「……勇者よ、貴様には分かるのか?」
「いや、聞いたことあるだけで全く詳しくないし、適当に言っただけ。
素人だよ」
「勇者よ、頼む。
どうかこの場所を花でいっぱいにしてくれ」
「だから、素人だって言ってるだろ。
そんな頼みは受けれないぞ」
「……」
「おい、魔王聞いて――
死んだか」
勇者は、魔王が死んだことを確信し、何も起こらないことに安心する。
そして、そのまましばらく立ち尽くした後、勇者は大きなため息を吐いた。
「全く、勝手な奴だ。
特別だぞ。
お前の最期の依頼、受けてやるよ」
勇者は魔王の亡骸に向かって、笑いかける。
「他人の勝手に付き合うのが勇者の仕事、だからな」
🌸 🌸 🌸 🌸
100年後。
この場所に、多くの人が訪れていた。
人々の目的は、この場所に植えられた色とりどりの花。
元々荒野だったこの場所は、今や面影はない。
見渡す限り花ばかりだ。
勇者は、魔王討伐の褒美に、この死の土地を希望した。
だれも欲しがらない土地を欲しがる勇者に、誰もが不思議に思った。
しかし数年後、この土地を緑が溢れる場所にし、世界を驚かせた。
誰もが無理だと思ったこの偉業を、魔王の討伐を含めて、『勇者の奇跡』と呼んだ。
勇者亡き後も、有志たちがこの花畑を管理している。
そして花畑の中心には、花に隠れるように小さな墓があった。
その墓には、こう刻まれている。
「魔王、ここに眠る。
一面の花畑を夢見て」