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 今、私が住んでいるアパートは、ペット禁止だ。
 理由はアパートのオーナーが生き物をが嫌いだからと、契約時に聞かされた。
 予算と駅へのアクセスの都合によりはこの部屋に決めた。
 本当はペットを飼いたかったけれど、泣く泣く断念。
 なかなかうまい話はないものだ。

 とはいえ、それ以外に不満なことは無い。
 静かだし、部屋はきれいだし、家賃は安い。
 職場へのアクセスも良好。
 デパートにも近いと来てる。
 本当に『ペット禁止』以外は文句のつけようがない。

 だけど、この部屋に越してからペットを飼いたい衝動は増すばかり……
 されど、この居心地のよい部屋を手放すのも惜しい……
 すさまじいジレンマ。
 どうにかしてこの二つの命題を解決できないだろうか……

 そこで私は妙案を考えた。
 ペットを飼っているという設定で、生活すればいいのだ。
 エアペットというやつである。
 これならばペットを飼うことが出来て、かつこの部屋に住み続けることが出来る。
 もはや末期であるという自覚はあったが、もう止まれない。
 私はエアペットを飼うことに決めたのだ。

 思い立ってすぐ、私はホームセンターへ行く。
 とくにエアペットの種類は決めていない。
 とりあえずホームセンターで物色して、それから決めようと思ったからだ。
 犬にするか、猫にするか……
 私がペット用品の商品棚で悩んでいると、見切り品コーナーの鳥かごが目につく。

 鳥かごは、見切り品だけあって、お値打ち価格。
 デザインも、実に私好み。
 私はコレを買うことに決め、エアペットもエアインコを飼うことにした。

 私はホームセンターから戻り、鳥かごをリビングの目につくところに置く。
 殺風景だったリビングも、鳥かごを置くだけで随分と華やかになる。
 私はウキウキしながら、その日は寝た……

 それから私は変わった。
 仕事にもやる気がみなぎるようになり、私生活はうまくいくようになった。
 今までのペットを飼いたいと言う衝動も、エアインコを飼うことで解消された。
 やはりペットはいいものだ。
 人生を豊かにする。
 
 でもエアインコは、本当のインコの様に鳴きはしない。
 けど、それに何の問題があるだろうか?
 そこにいるだけで十分なのだ。
 偽物のインコだったとしても、私は幸せだった。

 しかしそれも長くは続かなかった。
 アパートのオーナーが突然やってきたのである。
 私が規約に反し、ペットを飼っていると言うのだ。
 どうしてそう思ったのかは知らないが、酷い言いがかりだ。
 なぜなら私はペットを飼っていないから。

 幾ばくかの言い争いの後、私は身の潔白を証明する手段として、オーナーを部屋の中に招き入れた。
 オーナーは鼻息荒く、部屋に入り込む。
 玄関廊下台所と、オーナーは痕跡一つ見逃すまいと探索する。
 無駄だと言うのに、熱心なことである。
 さぞペットが憎いのだろう。

 そうこうするうちに、オーナーはリビングに入り込む。
 そしてリビングに入るや否や、オーナーは勝ち誇ったような顔をする。
 コレが証拠だと言わんばかりに、鳥かごを指さす。
 どうやらこれがペットを飼っている証拠だと言うつもりらしい。

 しかし片腹痛い。
 その鳥かごの中に何もいないと言うのに、何が証拠だと言うのか!
 私は反論する。
 その鳥かごは買ったままの新品の様に綺麗だろう?と……
 生き物がいないから、汚れようが無いのだ。
 そして若干の埃が被っているのも決め手だ。
 なにせ飼っているのはエアインコなので、埃が舞わないのだ。
 
 私の言葉を聞いて、オーナーは驚愕する。。
 そしてオーナーは叫ぶ。
 『ならなぜここに鳥かごがあるのか』と……

 確かに当然と言えば当然である。
 普通、鳥も飼いもしないのに鳥かごなんて飼わないからだ。
 だから私は言ってやった。
 エアインコだと。
 ペットは禁止だろうが、エアペットまでは禁止されていないだろう、と

 その時のオーナーの顔は傑作であった。
 口をだらしなく開き、目は驚愕で見開いていた。
 それも仕方あるまい。
 なにせ自信満々で来たのに、ペットを飼っていないことが確定したのだから。

 私がいい気分で、勝ち誇ったのも束の間。
 急にオーナーが挙動不審な事に気づく。
 なにかに怯えているような、そんな様子である。
 私はあたりを見回すが、特にこれと言って何かがあるわけではない。

 不審物を探すため見回していると、玄関からバタンとドアが閉まる音が聞こえる。
 どうやらオーナーは出ていったようだ

 なんてオーナーだ。
 人として、あるまじき行為だ。
 人を疑って、それが間違いが判明したにもかかわらず、謝りもしない。
 そして帰るときにも、一言も言わず去る。
 ありえない!

 こうしてはいられない。
 こんなオーナーのアパートにはこれ以上住めない。
 引っ越さなければいけない。
 私がパソコンで、調べようとした瞬間、ドアの呼び鈴がなる。

 なにかと思って出てみれば、オーナーが菓子折りとお金を持って、ドアの前に立っていた。
 オーナーは言う、『これを黙って受けとって、すぐに引っ越してほしい』と……
 文句を言ってやろうとも思ったが、お金の入った封筒が結構厚い事に気づき、私は快く快諾する。

 これだけあれば、引っ越し代や敷金礼金を払っても、おつりがくるだろう。
 便利な場所を捨てるには惜しいが、これだけのお金を貰えば逆に得した気分だ
 まだ給料には不安が残るので、次もペット禁止のアパートになるだろうが仕方あるまい。

 新しいアパートで友人関係を構築しないといけないが、不安はない。
 私には、エアペットのエアインコがいるからだ。
 この子さえいれば、どんな場所であろうとも楽しいものになるだろう

 そうだ。
 せっかくだからエアペットを増やすのもいいかもしれない。
 そうすれば留守番の時も、寂しくないだろう
 次はエアわんこでも飼おうかな

7/26/2024, 11:02:13 PM