神様が舞い降りてきて、こう言った。
「とりあえず生」
「俺も」
「ヘイ、喜んで!」
ここは神様居酒屋。
神様が集い、酒を飲み交わす場場所である。
時に互いを労い、時に情報共有し、時にただ酒を飲み交わす。
神様の仕事も楽ではない。
神様も人間と同じように、飲みニケーションへと赴くのである。
今日も二人の神様が居酒屋へきて、酒を飲み交わしていた。
活発な神様と、大人しそうな神様。
性格が正反対の二人は、神様養成学校を卒業した同期。
仲の良い二人は、しばしば居酒屋で酒を飲み交わしていた。
「プハア。
仕事終わりの生は最高だぜ!」
「ゴクゴク……
ウマい……」
ジョッキに注がれたビールを飲み干す二人。
神様と言うのは無類の酒好きである。
どれくらい好きかと言えば、管理する人間界に、捧げものとしてお神酒を要求するくらいである。
人間に質のいい酒を造らせ、それを飲む。
それは神様にとって至福の時だった。
だが大人しい方の神様は、浮かない顔をしていた。
「なんだよ、元気ねえな。
うまくいってないのか?」
「うん……」
大人しい神様は、泣きながら友神に語り始めた。
「最近、僕が管理している世界、信仰が薄くなっているんだ」
「あー、最近そう言うトコ多いらしいな。
お前のとこもそうなのか……」
「うん……
最初は良かった。
神様神様って言って、僕を崇めてくれたのに……
貢物もくれてさ
でも、最近じゃあ、神なんていないって言うんだよ」
「そりゃ大変だな」
「人間どもが勝手に願い事してくるのがウザいと思った事もあるよ。
貢物したから、雨を降らせろとかさ
けど今みたいに無視されると、無茶を言われる時が一番やりがいがあったと思うよ。
なあ、どうしたらいいと思う?」
「うーん」
大人しい神様の悩みに、活発な神様は考えます。
酒のせいでうまく頭が回りませんでしたが、活発な神様は妙案を思いつきました。
「簡単な方法がある。
ガツンと言えばいいのさ」
「というと?」
「はっきり言うぞ。
お前、舐められれるんだよ。
人間どもにきちんと力の差を見せつけないとダメだ。
アイツらバカだからな」
「でも、いい人ばかりなんだ」
「分かってる。分かってるよ。
けどさ、実際にはお前のこと舐めてるわけ。
お前優しすぎるから、恐くないんだよ。
けど神様は、畏怖されてなんぼだ。
ほら、もう一杯飲んだら行くぞ」
「どこへ?」
「お前の管理する世界にだよ。
そうだ。
今の内に、人間界に行ったら時の計画を考えようぜ……」
◆
人間界。
神が住まうと言われる神聖な場所で、天変地異が巻き起こっていた。
人間たちは恐れおののき、神職たちが必死に祝詞を唱え、怒りを鎮めようとしていた。
誰もが世界の終わりを覚悟したとき、神様が舞い降りてきて、こう言った。
「お前たちの傲慢な物言いには、あきれ果てた。
よって天罰を加えることにした。
もう我慢ならん」
人間たちは、神様が怒り狂っているのを見て、知らず知らずのうちに増長していたことに気づいた。
だが後悔先に立たず。
目の前の神はもはや止められず、人々は世界の終わりは近いと絶望する。
そんな中、勇気ある一人の若者が前に出て、神に許しを乞い始めた。
「申し訳ありません、神様。
我々は心を入れ替えます。
どうぞお許しください」
何の変哲もない、謝罪の言葉。
だが、きっと心からの言葉なのだろう。
男は土下座していた。
しかし神様は、信用できないとぎろりと睨みつける。
「言葉ならどうとでも言える」
「いいえ、今度こそ心を入れ替えます。
なにとぞご容赦を」
「神様、ご容赦を」
「お許しください」
男の言葉に続き、その場にいた人間すべてが、土下座する。
神様はその光景に満足し、怒りの矛を収める事にした。
「よかろう。
今回はコレで許してやる。
だが本当に許してほしければ、態度で示せ。
捧げものや酒を欠かすなよ」
「はは、これからは御神酒を欠かさないようにします。
ところで神様、酒の種類に希望はありますでしょうか?」
男の言葉に、神様は少しだけ考え、そしてこう言った。
「とりあえず生で」
7/28/2024, 1:42:20 PM