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 2024年某日 地球上空。
 そこに不気味に漂う物体があった。
 UFOである。

 彼らの目的は何か。
 それは地球侵略である。
 彼らは枯渇した貴重な鉱物資源を求め、地球に狙いを定めたのだ。

 今日もUFOでは、地球侵略のための会議が行われていた。
 綺麗に整列された宇宙人の前に、貫禄がある宇宙人がやって来る。
 このUFOの船長――つまりボスである。
 彼はこの地球侵略が成功すれば、さらなる昇進が約束されていた。
 それゆえにこのUFO内のどの宇宙人よりも、やる気に満ちていた。
 ボスは集まった宇宙人をゆっくり見回しながら、言葉を発する。

「では諸君、時間になったので始めよう。
 我々は地球侵略のため、かねてより進めていた地球人の調査の結果が出た。
 博士、前に出てくれ」
「はい」
 博士と呼ばれた宇宙人が、列の前に歩み出る。
 彼は若いながらも分析班の班長であり、かねてよりボスの命令で地球の研究をしていた。
 
「それでは、我々分析班の報告をさせていただきます。
 調査結果を分析した結果、我々は『地球侵略は不可能』と結論しました」
「なに!?」
「何かの間違いだ!」
「そんなはずは……」
 宇宙人から同様の声が漏れ始める。
 だれも想像だにしなかった結論だったからだ。
 そしてそれはボスにとっても同様であった。

「どういうことだ。
 地球と我々の技術差は歴然。
 このまま攻め込んでも蹂躙できるはず。
 調査も念のためにしているにすぎん!」
「はい、ボス。
 それを今から説明いたします」
 ボスが怒気を含みながら、博士を問い詰める。
 しかし博士は少しも怯えず、淡々と説明する。

「先行調査で報告された、『地球人には、我々にはない友情という概念を持っている』を覚えていますか?」
「うむ、そういう報告があったのは覚えている。
 しかし、『アレは弱者のなれ合い』と言うことで結論されたのではなかったか?」
「その通りです、ボス。
 あの時点では、そう結論付けられました。
 ですが調査を進めて、驚くべき事実が判明しました」
「ほう、なんだ」
「地球人は、深い友情で結ばれたものは『合体技』なるものを使えるようになるのです」
「がったい……わざ……?」
 ボスは、理解できないとばかりに、オウム返しに言葉を返す。
 そしてボス以外も、他の宇宙人たちは聞きなれない言葉に首を傾げていた。

「その、なんだ。
 合体技というのは?」
「友情の深まった地球人が二人以上集まると使う事の出来る、不可能を可能にする現象です」
「よく分からんな」
「具体例を示しましょう。
 仮に地球人の現存兵器では、傷すらつけられない生物がいたとしましょう。
 普通なら為す術もありません。
 しかし合体技を使えるものがいれば、打ち勝つ可能性が出てくるのです。
 この合体技を我々に向けられれば、被害は少なくないでしょう……」
 UFO内でざわめきが起こる。
 今まで何の障害にもならないと思われた地球侵略に、大きな不安要素が出てきたからだ。

「なるほど。
 これは地球侵略を行うに当たって、大きな障害になるな……
 しかし不可能とまで断じるのは無理がないか?」
「ボスの言う通りです。
 合体技だけだったら、不可能とは判断しませんでした」
「まだあるのか?」
「はい」
 博士は持っていた報告書をめくる。

「友情が深まると、合体技のほかに『身体能力の向上』『限定的なテレパシー能力』『卓越した連携技能』『トレーニング効果の向上』……」
「いろいろあるのか……」
「これら一つ一つの影響は小さいですが、全てが積み重なると無視できなくなります。
 そしてこれが重要なのですが、『戦いの中で友情イベントが発生すると、その戦いに勝利する』というものです」
「友情イベント?
 なんだそれは?」
「色々なパターンがあるのですが、簡単に言えば『お互いの友情を確かめ合い、さらに友情を深める』ことです」
「よく分からんが……
 これは絶対に勝つのか?」
「絶対とまではいきませんが、我々が確認したパターンでは、ほとんどの場合が当てはまります」
「ううむ」
 ボスは腕を組んで、考え始めた。

 最初は楽な仕事だと思って進めた地球侵略……
 ここにきて新情報が出てきて、危険度が跳ね上がってしまった。
 ボスは自らの地位のため、今後の計画を考え直す必要が出てきた。

 ボスは考える。
 このまま進めて成功しても、もし被害が多ければ自分の責任を問われるだろう。
 しかし、引き下がっても臆病者呼ばわりされるだけ……
 ここまま進める……
 それとも撤退か……
 ボスは重要な決断を迫られていた。

「ボス、この件について提案があります」
「言ってみろ」
「我々分析班も、地球に派遣してください」
「なぜだ?」
「正直に言えば、我々分析班は、調査班の報告に懐疑的です。
 いくら新しく発見された生物とはいえ、意味不明過ぎます。
 それならば自分たちの目で確かめたいと思います。
 それに現地に行く事で、分かる事も多いでしょう」
「ふむ、確かにな。
 いいだろう、行ってこい」
「ありがとうございます」

 博士は、ボスに対し恭しく礼をして、その場から立ち去るのであった

 ◆

 博士は会議の後、まっすぐ分析班の研究室に戻る。
 会議の結果を報告するためである。
 博士が部屋に入ると、分析班のメンバー全員から視線を向けられた。
 彼らは沈黙し、自分たちの班長の言葉を、待ちわびていた。
 
「諸君……
 地球に派遣されることが決まった。
 早く準備をしたまえ」
「「「いやっほおぉぉぉ」」」
 部屋の中で待機した宇宙人たちは例外なく、喜びの雄たけびを上げる。
 彼らは、地球への派遣の準備をするため、我先へと自室へ戻っていった。
 分析班のメンバーは地球に赴きたかったのだ。

 事の発端は、地球に赴いた調査班から、地球人たちの
 色々な娯楽品が入っており、分析班は大いに興味をそそられた。
 その中でも特に興味を惹かれたのが、ゲーム類である。
 彼らは、自分たちの文化になかったゲームに嵌まり、いつしか地球に行きたいと思うようになったのだ。

 博士に、ボスを騙したつもりは毛頭ない。
 ただ話した内容は、地球の事ではなく、地球のゲームの話だっただけである。
 もちろん十分に分析した結果なので、嘘ではない。

 飛び出していった部下たちを見送り、博士は部屋で一人呟く。
「地球人は滅ぼすには勿体ない。
 手を組むだけの価値がある」

 もし手を組むことが出来れば、お互いに大きな恩恵を得ることが出来る。
 そうすれば、誰も見たことがないいゲームを作る事も可能だろう。

 しかし言葉で言うほど簡単ではない。
 異なる文化が手を取り合う。
 それはいばらの道だ。
 しかし――

「それでも、我々は成し遂げる。
 我々と地球人との、『合体技』でな」

7/25/2024, 1:25:24 PM