『ないものねだり』
ないものねだりをしている。
そんなことは、わかっている。
それでも、欲しいものがある。
——でっかいFカップの胸だ。
貧乳の私は自分のまな板を見下ろしながら、深いため息をついた。
おわり
『好きじゃないのに』
好きじゃないのに、嫌いになれない。
……ピーマンの事だ。
○○○
今、私の目の前にはピーマンの乗った皿がある。
今、私はめちゃくちゃ顔を顰めているだろう。
「ほら、食えよピーマン。好きだろ」
「馬鹿を言うなよ。この世で一番ピーマンを食べたくない人間が私だぞ」
私が人を殺せそうな目付きで唸りながら、ピーマンを出してきた友人を睨みつける。
すると、友人が不思議そうな顔で小首を傾げた。
「へぇ。俺はお前がピーマン好きだと思ってたよ、じゃあお前はピーマンが嫌いなのか?」
「……嫌いになれたら良かった」
「なんだそりゃ」
ふいっと視線を逸らす私に対して、ケラケラと友人は笑い出す。そして、いともたやすく私の目の前に置いてあったピーマンを口にした。
「う~ん。やっぱり、お前が作ったピーマンが一番美味いな。なんで、ピーマン好きじゃないのに、ピーマンの世話なんてしてんだ? 俺はピーマンが好きだから、美味いピーマンが食えて嬉しいけどよ」
「……それは」
「それは?」
ジッと見つめられ、私はお手上げだと言うように、ぼそりと本心を口にした。
「私が、この世で一番好きな人間がピーマン好きだからだよ」
そう言った私の視線は、きょとんとした顔の目の前の男に向いていた。
……本当、嫌いになれならどれだけ楽だったろうか。
おわり
『ところにより雨』
雨が降っている。
——俺の頭上にだけ、…………。
今日の天気は雲一つない快晴、ただし。ところにより雨。
主に俺の頭上がな。
○○○
俺は、どこにでも居る大学生だ。
朝起きて、大学行って、友達と遊んで、課題やって、寝る。
そんな当たり前の行動しかしてない俺が、なんでこんな目にあってるのだろうか。
「やっぱ、あれなんじゃないの~? 雨女ちゃんの呪い」
「馬鹿か、この世に呪いなんて存在しない」
「じゃあ今の不っ思議~な状態に対する説明は~?」
「…………」
友人がヘラヘラとした顔で俺に話し掛けてくる。
チャラチャラしたヤツだが、それなりに友情に篤いらしく俺の周囲に雨が降るという異常が起きても、変わらずに話し掛けてくれた良い友人の一人だ。
「雨女、か……」
「ちょっと地味な子だったよね~」
「……よく覚えてない」
「ひっど~!!」
雨女、とは。たしか大学に所属する一人の女学生を指す言葉だ。
随分な雨女らしく、彼女が居るところには常に雨が降るという。
大学入学時に遅れて来た際、彼女がやって来た途端に、雲一つない快晴が土砂降りのゲリラ豪雨になり、病弱な彼女が倒れて運ばれたのち、また直ぐ様に立派な虹のかかった晴天になったのは、この大学で有名な話だ。
俺はよく知らないんだが。
「なぁ、あのときの雨の話は本当の話なのか?」
「ん~? あ、そっかぁ。君は、あの雨女ちゃんを運んでたから、虹が掛かるのを見てないんだっけ~?」
「ああ、正直疑っている」
「あ~、まあ、ね。うん、うん。仕方ないかあ~。でも、アレじゃない? たぶん、君が雨女ちゃんに告白された、惚れられた理由ってソレだと思うよ~きっと」
俺は少し眉を潜めた。
不快だったからではない。理解出来ず、意味が分からなかったからだ。
「……普通に人助けしただけだろ? 何故、それで惚れた晴れたの話になるのか分からん」
「そういうとこ~」
……どちらにしても、このままでは埒があかない。
「彼女と話をしてみようと思う」
「頑張れ~」
○○○
友人と別れ、ツテを辿り、彼女の家の前に辿り着いた。
彼女の家、青い屋根の一軒家に対して、俺は一つ深い深呼吸を、したあと、覚悟を決めてインターホンを押した。
“ピンポーン”
「はい」
……出たのは、見知らぬ女性だった。
面食らう俺だが気を取り直して、妙齢の女性と少々話をする。
「娘に会いに来たの……」
「はい」
「そうなのね、でも……」
「でも?」
「娘は今、病院で植物状態なのよね」
「…………はい?」
「ちょっと貴方、娘を起こしてきて下さらない??」
「は?」
「お願いね」
手に紙を握らされて、反論の隙もなく扉を閉められる。
手に残る紙には、病院の住所と、病室が書かれていた。
「行くしか、ないのか」
俺はため息一つ吐いて、諦めて病室に向かうことにした。
○○○
これは、局所的に雨が降り注ぐようになった俺が、雨女と言われる“秘密”を生まれ持った彼女と、世界の真実に対して深く関わりながら、仲を深めて行く話だ。
続かない、
おわり!!
○○○
追伸、久々に長くなりそうで、途中で慌てて切った。
長い長文にも関わらず、ご愛読ありがとうございました。
『特別な存在』
君は僕にとって、特別な存在だ。
だけど、君は僕こそが特別な存在だという。
○○○
「……王子は、なんでいつも私の元へやってくるのですか?」
君が不思議そうな顔で僕に聞いてくる。
眉間に皺がより、仕事の手は止めないまま。
あからさまに、仕事が忙しいのだから来るな、と物語っているようだ。
「そうだなぁ。宰相が僕にとって特別な存在だから、かな」
「はぁ、またそれですか。私なんて計算が出来るだけの、どこにでもいる存在ですよ」
「そんなことないよ」
宰相は、馬鹿につける薬はない、とばかりに首を振り無言で書類仕事を進める。
彼女はとても優秀だ。
……優秀過ぎて、同僚達から冤罪をでっち上げられるぐらいに。
出る杭は打たれる、とは何処の国の言葉だっただろうか。
そんな言葉が彼女にも、適応された。
彼女は少し……ごめん嘘ついた。かなり世渡りが下手くそだ。
だが、それが彼女の個性でもあるのだろう。
「王子、この書類と書類、ココが間違えています」
「ん? あぁ、確かに。言っておくよ」
「……ありがとうございます」
「いいよ。こっちこそ、いつもありがとうね」
彼女は嘘をつかない。
……つけない、のかもしれない。
別に呪いという訳ではなく、単純に真っすぐで真面目な性格故だろう。
駄目なことは駄目。竹のように真っすぐではっきりとし、割り切った性格は、多少なりとも悪事に手を染めた者達からは疎ましくて仕方がない。
搦手を使う、というのが、どうにも苦手なのだろう。
冤罪に処罰されそうになっていた彼女を救ったのは、僕だった。
『私は! 私は何もしていません!! ただ、この国のために、一心に己の全てを捧げているのです!!』
『! ……その言葉は、本当かい?』
『!! はい、王子』
彼女の言葉に嘘はない。
それが、僕には分かった。
何故ならば、僕には生まれ持った特性がある。
……人の嘘が、分かるのだ。
だからこそ、あのとき彼女が嘘をついていないのが分かった。
彼女は、とても貴重な存在だ。
私欲ありまくりで嘘つきとおべっか共が取りなす、この世界で。
真っすぐに嘘偽りない忠誠を捧げる君。
——特別な存在なのだ。
「特殊な地位も、特殊な能力も、ただの個性だよ」
「……はい? 何か言いましたか?」
「いいや。君は今日もすごいなぁって」
「私は、別に……当たり前に仕事しているだけです」
「ところで、いつになったら僕の求婚を受け付けてくれるの?」
「それとこれとは、別ですので」
……先は、長そうだ。
君は、僕にとって、たった一人しかいない。特別な存在。
この世で一番信頼できる忠臣であり、
——この世でたった一人愛する女性である。
おわり
『バカみたい』
バカみたい。
みんな、みんなバカみたい。
いや、なんで本当に馬と鹿になってんの??
バカなの? 死ぬの??
○○○
馬と鹿スピリチュアル現象。
世界というのは、ブームがある。
『朝、目が覚めたら毒虫になっていた』
なんて本を書いた人が居た。
その人が生きていた当時には、サナトリウムという自然治療がなんかめちゃくちゃブームだったらしい。健康的だと。
ちなみに今はもうない。
世界には流行りというものが、ある。
それはある意味、世界が生きた証で、世界の歴史、文化なのかも、しれない。
……だからといって、これを許容して良いものか、幾ばくも生きていない女子高生の私に分かりかねた。
というかシンプルに嫌だった。
もっとマリトッツォとか、マカロンとか、アサイーとか、お洒落なヤツが流行って欲しかった。
ワガママだろうか??
始まりはこんな事だった。
『賢い人ほど、幸福度指数が低い』
そんな根も葉もない、しかし権威と発言力だけある論文に、世界中が魅了された。
賢い人ほど、様々な事を心配してストレスで過労死する。
陽気でマイペースで楽観的な人ほど、ストレスが無く長生き出来て、しかも小さな事で幸せになれる。
バカは、気が付かないというのは、幸せな事なのだ。
……昔は賢い事が、幸福の証だった。
しかし、今はAI時代だ。
賢さは人間の特権ではない。既に、AIが居れば人間は賢くある必要すら無いのだから。
私達は、幸せになりたかった。
そうだろう、不幸になりたい人は居ない。
そんな時に流行ったのが、馬と鹿信仰だ。
これは、一昔前、コロナという疫病が流行ったときに、アマビエという神が信仰されたのと、類似するナニカだった。
あのブームが、馬と鹿で訪れた。
……みんな、馬や鹿の被り物、アクセサリー、ペットを飼い始めたり、奈良の鹿を拝んだりしている。
今や、馬と鹿の会話は、天気の話ぐらい社会でメジャーな話題だ。共通のコミュニケーションツールとも言える。
私は言いたかった。
『もう既に十分、バカだから、これ以上馬鹿にならないでよ』
と。
鹿の冷たい視線を見てみろ。なんだこの人間は、マジで意味分かんない、アホなの? という呆れた視線を。
そりゃそうだ。いきなり拝まれても鹿だって困るだろう。
馬鹿になりたいと願っているが、その行動自体が、もう既に馬鹿だと気づけない、それが馬鹿なのだ。
……もう、馬鹿がゲシュタルト崩壊して、意味わからん。
私、一人が未だに、このブームに乗れないでいる。
だって、馬と鹿の被り物は可愛くないし。
……でも、私一人、コミュニティに入れないのは、ちょっと辛い。話が合わないし、え? まだ馬と鹿の被り物してないの? 遅れてる、みたいな空気読めないよね、みたいな視線が辛い。
……馬鹿は、誰なんだろう。
賢いとは、いったいなんなんだろう。
この世界には、バカしかいないのかもしれない。
——私も含めて。
本当にバカみたい。
私はフッと、笑うと鹿の被り物に手を伸ばした。
おわり