『絆』
絆とは、脆く崩れるものだと思っていた。
それは青春時代にだけ見える蜃気楼のようなもので、この世界のどこにも存在しないのだと、私は半ば確信すらしていたというのに。
「お前の負けだ!!」
「……あぁ、確かに」
炎のように強い熱気を感じる視線が私を貫く。
だが、その眼差しでさえ、私はどこか心地よかった。
私は負けた。
だが、尊いものを、たしかに知った。
○○○
“俺”が目覚めたとき、俺は知らない部屋に居た。
「知らない天井だ……」
部屋の中は殺風景で、机と寝ていたベット、電球、南京錠のかかった扉、机の上に置かれた洒落た木箱しかない。
「いったい何なんだ」
洒落た木箱には、少しだけ見覚えがあった。
いや、全く同じものではないだろうが……このタイプが、世間一般でなんと呼ばれるかを俺は知っていた。
「カラクリ箱……これを、開けろって事か??」
姉がカラクリ箱が好きでよく収集しているため、カラクリ箱を解くのは結構簡単だった。
「これは……」
そして出てきた紙に、俺は衝撃を受ける事となる。
「ここはデスゲーム会場……だと!?」
○○○
一緒に入っていた鍵で扉を開けると、直ぐに横から同じ音が聞こえる。
チラッとそちらを向くと、見知った人物の顔があった。
「……え、カイ?」
「ヒナタ!! 良かった~、いや、良くないよ!!」
親友のカイが、そこに居た。
見知った顔に安堵を覚えるも、ここがデスゲーム会場だと思い出して一転不安を覚える。
○○○
俺達は、二人でデスゲームを生き延びた。
色々あった。死ぬような目にもあった。
それでも、俺達はココに居る。それが、全てだ。
そして、ラスボスであろう司会者へ指をさしていた。
「一つ、聞こう。どうして最後のゲーム。君たちは自分の命よりも、絆なんてあやふやなものを信じられた? 相手を見捨てれば、確実に自分だけ助かると分かっていただろう?」
司会者は、呆けたような顔で、グラスから水を零すようにポツリと聞いてきた。
その質問に、俺と親友のカイは目を見合わす。笑った。お互い。
それだけで十分だった。俺達には。
「カイを、信じてたからな!」
「ヒナタを、信じてたんだ」
司会者は笑っていた。
眩しそうなものをみるようにして、「そうか、そうか」と目尻から涙をしくしくと流れさせながら、拭うこともなく泣いていた。
……きっと、なにかあったんだろうな。
流石に、そう思った。
でも、それは俺達には関係のない事だ。
俺達の絆は、デスゲームだろうと関係ない。
「いこうぜ! カイ!!」
「待ってよ、ヒナタ!!」
二人で笑いあった。
俺達の絆に乾杯ってね!!
おわり
『たまには』
たまには遠出をしよう。
そう思っていた……が、まさか異世界まで遠出する気は無かった。
いや、どうやって帰るんだ、これ??
○○○
ほやほや男子高校生の僕と、小型犬のチワワのお姫様一匹。
ポツンとした草原に立っている。
……意味が分からない。
家の家庭で可愛がられているチワワが、キャンキャンと吠えながら何処かへ走り去っていく。
「えっちょっと、待って!!」
「キャルルルル!!」
「…………え?」
家にいたときには、絶対に聞かない声を聞いた。
遠吠えのような、勝鬨を上げたみたいな吠え方。
衝撃で石のように固まった僕の元に戻ってきたチワワは、ナニカを引きずっていた。
トカゲの尻尾……いや、まって、これはドラゴンじゃない??
目の前にドラゴンと、チワワ。
僕は気絶してしまいたかったが、そうもいかない。
なんでこんなことに。
ちょっと今日の散歩はいつもより遠出しようと思っただけなのに。
十字路を曲がったら、全く別の場所、草原だった。
たまには遠出をしよう。
そう思っていた……が、まさか異世界まで遠出する気は無かった。
いや、どうやって帰るんだ、これ??
キャンキャン!
可愛く僕に擦り寄って来るチワワの頭を撫でる。
相変わらず可愛い……口元に赤い汁が見えなければ。
「さて。どうやって帰ろう、かな」
これから、僕の壮大な家へと帰るための旅が始まる。
おわり
『大好きな君に』
大好きな君に、死を。
愛しているからこそ、死を。
だんだんと冷たくなっていく体を前に、一人笑う。
「浮気者……それでも、あなたを愛している」
刺し傷から溢れだす真っ赤な血の池に、自分の顔が写った。
歪な笑みが、まるで三日月のようだった。
おわり
『ひなまつり』
君と過ごすひなまつり。
最期に過ごす、ひなまつり。
「毎年、毎年。ありがとう」
そういった私に、あの子達は何も言わなかった。
それは当然のことだった。
私の娘が、結婚する。
もう、良いのだ。もう。
「今まで、本当にありがとう」
きっと、私が再び会うことは無いだろう。
ひなまつりのヒナ達に、別れを告げた。
さようなら、さよなら。
あの子達をダンボールの箱にしまいこんだ。
……物言わぬ人形が、少しだけ、笑っているようにみえた。
おわり
『たった1つの希望』
たった一つの希望があるとするならば、
——それは君が死んだことだろう。
○○○
この世に奇跡なんてモノは無かった。
あるのは、血の味がこびりつく地獄だけだ。
『ナイト、ご苦労様』
「主、こんな物言わぬ、躰になって……」
死体が目の前にはあった。
忘れない、あの人の死体。
私の事を、優しく撫でてくれた、あの人の……。
「あの、なんだ。悪政を敷いていた強欲領主が死んだんだって?」
「みんなでデモ起こして、一族諸共火あぶりの処刑よ」
「かーーっ。悪いことはするもんじゃねぇなぁ!」
……あの人は、悪いことなんて、何も、何もしていなかった。
それどころか、
「アレじゃなかったか? 一族の中に、一人。現状をどうにかしようとしてたガキが居るとか。そいつはどうしたんだ?」
「さあ? まあ、アレだろ。口じゃあ綺麗事言ったって、ソイツだって俺達の血と涙で贅沢な暮らしをしてたんだ。死んでたって構わないね」
「違いねえ!! あの一族には、恨みしかねぇよ! 俺の娘は結婚が決まってたのに、ズタズタにされ死体だけ返ってきた」
……現実とは、ままならないものだ。
一人の力で変えられる事には限度がある。
努力が必ず報いてくれるとは、限らない。
「あれ? あそこの犬……あの、坊ちゃんの犬に似てね?」
「あ? 犬の違いなんて分かんねぇ。ま、これは人間の問題だろ。犬を巻き込むのは辞めようぜ」
「お、それもそうだな……にしても、どした? お前」
「いやぁ、最近さ、妹が犬を飼い始めてな。犬に酷いことしたって知られたら、俺がボロボロにされちまうよ」
「ははは。そりゃ、いけねぇな」
人間には悪い人間がおり、良い人間がいる。
だが、同じくらい、半分良くて半分悪い人間がいる。
きっと彼らもそうなのだろう。
自分の大切な物を大切にし、自分の大切な物を壊そうとする相手には、どこまでも残虐になれるのだ。
『ねぇ、ナイト。僕は此処で死んでしまうけど、君はどうか生きていて。そうしたら、そうだな。僕は君に憑いて、世界を色々と観て周るよ。楽しみだなぁ』
《わふ》
街の広場から、阿鼻叫喚が聞こえる。
人間とはどこまでも残虐になれる生き物なのだ。
『おい、この内臓。どこまで引っ張れるかやってみようぜ』
『もっと苦しめ! 俺の婚約者が受けた苦しみをもっと!』
『死ぬなんて許さない。生きたまま地獄の業火に焼かれろ』
こんな狂ってしまった、街の中で。
たった一つの希望があるとするならば、
——それは君が死んだことだろう。
死んだ人間は、もう苦しまないから。
《わふ、わふふ》
さあ、主。一緒に旅に出ましょう。
色んな場所を、たくさん、たくさん観ましょうね。
誰もがこちらを見ていないなか、私は一匹立ち去った。
おわり