『待ってて』
またやった。バイバイみんな、さようなら。そんな気分。
冬のかじかむ指で急いで文を記入すると、たまに操作ミスをする。アプリを終了させたら、もう終わり。
書いていた文は電子の彼方へ飛んでった。
——待ってて、さっきの文をもう一回!
っと思っても、衝動で一筆書きしてるから、覚えてる筈がないんだな、これが。
今日は終わり、また明日。
冬の悴む指には、お気をつけて。なんちゃって。
くだらない戯言で、御座いました。
おわり
『伝えたい』
伝えたい、この気持ち。
伝えたくない、この真実。
○○○
愛している人が居る。
同じクラスの女の子だ。
快活そうなショートヘアに、くりくりとした目。
リスのように小さな体と、鈴を転がしたような声。
愛している、と伝えられたらどれだけ良かっただろう。
「なぁ、あの子って可愛いよな」
「あーたしかに。お前、告ってこいよ」
クラスの男子達の雑談が届く。
羨ましい。
どす黒い気持ちが溢れそうになって、強く唇を噛み締めた。
くるりと、あの子が私の方を向いた。
「先生! プリント集まったよ!!」
「……いつも、ありがとう」
「いーえ! 先生もお仕事、頑張ってね!!」
太陽のような眩しい笑顔を浮かべながら、あの子は去っていく。
私の元から、簡単に。
「なぁ、あの子って先生とちょっと似てね?」
「はぁ? いや、性別とか髪色とか違うじゃん」
「あー。そっか、そうだよなぁ。なんかちょっと目鼻立ちが似てる気がしたんだけど」
「んなことより、はやく帰って最新ゲームしようぜ!」
「おう!」
凍ったように体を固まらせた私の側を、男子達が駆け抜ける。
あぁ、どんなに言えたら良いのだろう。
あの子は、私の異母妹だよ。と。
私はあの子を本当に愛しているんだ、と。
——半端な気持ちで、可愛い妹に手ェ出すんじゃねぇクソが。と。
言えたら良かったのに。
伝えたい、この気持ち。
伝えたくない、この真実。
あの子はきっと、信じている。
今の父親と血が繋がっているって信じている。
だから、今はまだ。
そっとしておこう。
……今は、まだ。
おわり
『この場所で』
この場所で私は死ぬ。
誰に看取られることもなく。
……きっと、それは幸せなことなのだ。
○○○
一匹の猫が人目につかない場所で死んでいた。
首輪に乗っていた住所に連絡すると、たいそう家族は泣いていた。
何度も何度も名前を呼び、死んで冷たくなった体をさすって温めようとしていた。
猫は死期を悟ると身を隠すと言うが、それは愛する家族を泣かせないためだというなら、この猫はたいそう愛されていたのだろう。
おわり
『スマイル』
スマイル・スマイル・スマーーイル!!
笑顔でみんな死ね。
○○○
笑うとはどういうことだろう。
きっと良い事だ。
だって、笑ってたら、みんな笑う。
笑わないより、笑ってた方がずっといい。
……だから笑わせてあげたの。
「こっ、殺さないで! 殺さないでくれぇ!!」
「スマイル、プリーズ?」
笑わなかった、笑わなかった、笑わなかった。
だから殺した。
死体に按摩を施して、肉体を緩和させ、笑ってるようにする。
ほら、簡単。
生きてても笑わないなら、死んでから笑えばいい。
「そ~思わない?」
「……アンタの頭の異常さには寒気がします」
「スマイル、プリーズ?」
「迅速な仕事の完了ありがとうございます。つきましては、次の依頼を引き受けて下さるともっと笑顔になれるのですが?」
「……おっけー!」
「ありがとうございます」
黒服の男が笑顔でお辞儀をして去っていく。
冬の路地裏には、ピエロ姿の私が独りぼっちだ。
寒い。
殺人鬼・キラーピエロ。
通りではそう言われている。
……私はただ、みんなを笑顔にしているだけなのに。
きっと笑顔が足りないんだ。
もっともっとも~っと、たくさんの人を笑顔にしたら、みんなの評価も変わるよね!
「スマイル、プリーズ?」
わたしはあなたに言っているんだよ?
……ほら、画面越しに見てるでしょ?
おわり
『溢れる気持ち』
洪水のように溢れる気持ちが、止められなかった。
我慢して我慢して我慢してダムのように決壊したソレは、瞬く間に全てを奪っていった。
○○○
世の中には、良い事と悪いことがある。
良い事はしてもいいけど、悪いことはしたらいけない。
悪口を言うのは良くないこと。人を嫌うのは良くないこと。
仲良くするのはいいこと。喧嘩するのは悪いこと。
……だからずっと、我慢してきた。
僕はどうにも凡庸で、やることなすこと在り来りだ。
特に長所もなければ、短所もない。
至って平均点が取れるような、そんな凡庸さ。
隣の幼馴染は、顔が良くて、性格が良くて、勉強も運動も出来て、色んな人から人気だ。
幼馴染であった僕らは、よく比べられた。
そのたびに彼は言う。
「俺ら、友達じゃん。そんなの関係ないよ」
僕が、一番そう思いたかった。
…………思えなかった。
募って募って、限界まできていた僕はやらかした。
幼馴染の結婚式。
僕は親友としてスピーチを任された。
偽るべきだった。根も葉もない嘘八百を並び立てるべきだった。この世に存在しない親友とやらの役を演じ切るべきだった。出来なかった、そんなこと。
全てを吐露した。
人生にたった1度しかない晴れ舞台をぶち壊した。
僕は全てを失った。
友人、知人から縁を切られ、両親からも絶縁された。
「お前がそんなヤツとは思わなかった。言ってくれれば良かったのに、俺ら親友だろ?」
——僕は親友だと思ったことは、一度も無かったんだよ。
全てを失った筈なのに、どこか清々しい気分だった。
なんとなく空を見上げる。
「あぁ、空ってこんなに青かったんだ」
思わず涙が溢れてきて、僕はボロボロと子供のように泣いた。
やっと、生きてるって気がした。
おわり