『雪原の先へ』
雪原の先へ、僕らは足を踏み出した。
20XX年。
数年前、突如としてとして日本に到来した氷河期。
日本から四季が消え、僕らは年中冬服を着ることを強いられている。
コロナ下のマスクのように、当たり前にマフラーと手袋を身に着ける。
風が吹けば桶屋が儲かるというが、冬が続けばマフラーや手袋、コートを売る店が儲かった。
当時は混乱したものの、既にこれが日常となっている。
逆に、いま冬から四季が訪れたら、いくつかの冬服専門店が潰れるだろう。
だからこそ。
だから、こそ……僕は変なヤツなんだ。
周りが冬に慣れきって、当たり前になっている中。
……僕は春を未だに求め続けている。
僕には妹が居る。
目に入れても痛くないほど可愛い妹で、名前はサクラという。
サクラは死んだ。
元々、体が弱く病院に入院していた。寿命だって長くなかった。覚悟していたことだった。
だけど……。
“おにいちゃん、わたし、さくらがみたいわ”
妹の最期のお願いを、叶えてやれなかった事だけが、人生の心残りだった。
それを叶えられるなら、約束を果たせるなら、命なんかいらない。
サクラが死んだあと、死んだように息だけをする日々だった。
だから、僕は……僕らはここにいる。
僕らは変なヤツの集まりだ。
冬が当たり前になった世の中で、春を求めて旅に出よう、なんて。
「さぁ、みんな!! 安寧を捨てて、それでも追い求める浪漫がある冒険者たちよ! 準備はいいか!?」
「おぉーー!!!!」
十メートル先も見えないような吹雪。
止まない雪が振り続ける中、僕はコップに入った牛乳みたいな一面真っ白の雪原を歩き出した。
何人が足を縺れさせたり、体力の限界を迎え、それを支えながら歩く。
いったい、どのくらい歩いたのだろう。
みんなマフラーから覗く顔が真っ赤になり、ぼろぼろになっている。
そんな時だった。
誰の声が響いた。
「見ろ! 雪原の先があるぞ!!!」
全員がそちらを向く。
……みえた。確かに、みえたのだ。
真っ白いキャンバスみたいな一面に、白以外の色が!!!
どこにそんな体力が合ったんだってぐらい、僕らは勢い良く走り出した。
そして、
雪原の先へ、僕らは足を踏み出した。
「桜だ」
若草色の芝生に、雪の積もっていない薄紅色の桜の樹が、僕らを出迎えてくれた。
「あぁ、サクラ……見てるかい」
僕は急に力が抜けてその場に倒れ込む。
もう一歩も歩けないぐらいクタクタだ。
だけども、凄くいい気分で笑いながら、僕は目を閉じた。
おわり
12/9/2025, 8:45:33 AM