Sunrise
眠れぬ夜。
何度も寝返りをうつ。
寝具に移る自分の温もりさえ、
酷く鬱陶しい。
ベッドを抜け出し、
何かから逃げ出すように、
外に飛び出す。
空に輝く星も、月も、
黙って俺を見下ろしている。
冷えた夜風に、
少しだけ、身震いする。
世の中は醜く冷徹で、
そこに住む人に心はない。
少しでも異質な存在を、
まるで地面を這う、
虫けらのように、
容赦無く踏み付け、
見えない振りをする。
夜明けが近づく。
今夜も眠れない。
残酷な現実が、
心を切り裂き、
俺を過去に雁字搦めにする。
The sunrise often mocks the sleepless.
夜明けはしばしば、
眠れぬ人々を嘲笑う。
笑いたければ、嗤えばいい。
人間も社会も、
背景になる事さえ
赦されない俺達を、
常に冷たい眼で、
嘲笑っているんだ。
汚泥に沈む俺達には、
陽射しは重く、そして鋭く、
泥の中で腐りかけた、
醜い心を斬り付ける。
眠れぬ夜が明ける。
陽の光が、無遠慮に、
俺の傷を白日の下に晒し、
安息の闇から俺を追い出すだろう。
…また、朝が来る。
空に溶ける
月のない夜は、
余りに醜いこの世の中や、
残酷で醜悪な人の心を、
視界から消してくれます。
私の傷だらけの心も、
夜の闇は、
優しく隠してくれます。
だから、私は。
真っ暗な空に輝く、
数多の星々を見上げると、
その余りの美しさに、
自分が酷く愚かに感じて、
不意に涙が溢れました。
美しい星は、
私には決して、
手が届く筈もなく、
憧れることさえ、
赦されず。
ただ、憧れに、
この胸を焼くことしか、
出来ないのです。
空の端が少しずつ、
淡い紫色に染まり、
その一時だけの優しい色が、
長い夜の終わりを告げます。
月のない夜空を彩った、
数々の綺羅星たちは、
その瞬きを消してゆきます。
空に溶ける、星たちに、
別れを告げると、
空に溶ける、私の恋慕。
そして、私は、
たった一人で、
残酷な夜明けを迎えるのです。
どうしても…
私は世の中から、
捨てられた存在。
残酷な社会が、
私をこんなに傷付けたのに、
傷だらけで呻く私の事を、
皆、見ない振りをしました。
でも、貴方は違った。
こんな醜い私に、
救いの手を差し伸べて、
居場所を与えてくれたのです。
何も持たない私に、
優しさと温もりを、
教えてくれた貴方は、
私の全て、でした。
でも、貴方にとっては、
私が貴方の全て、
ではなかったのですね。
貴方の優しさは、
他の人にも向けられるもの。
貴方の温もりは、
他の人にも与えられるもの。
そして、貴方の愛は…。
私ではない『誰か』に捧げたもの。
私の中で、
黒い何かが膨れ上がります。
それは、
貴方の愛を奪えと唆すのです。
だから、私は。
貴方のワインに、
私の血と蠱毒で彩られた、
魔法をかけました。
二度と私の夢から目覚めない、
永遠の愛という魔法を。
貴方は眠りにつきます。
貴方の鼓動は徐々に弱まり、
呼吸は小さくなってゆきます。
そんな最期の吐息を、
掬い取るように、
そっと口付けます。
どうしても…
貴方を奪われたくなくて。
どうしても…
貴方の全てが欲しくて。
だから…私は。
貴方を永遠という檻に、
閉じ込める事にしたのです。
でも、大丈夫です。
私がずっと一緒に居ますから。
これからは、二人きりで、
永遠を揺蕩いましょう。
まって
君はいつだって、
真っ直ぐで、
前だけを向いて、歩いて行く。
そんな君は眩しくて。
必死に追いかけるけど、
君は余りに早いから、
その背中は、
遠くなっていく。
待って。
その一言が言えずに、
黙ってしまう。
伸ばし掛けた手を、
静かに下ろして、
そっと拳を握る。
だって。
日陰に息を潜め、
人の視線から隠れて生きる、
俺とは違って、
君は太陽の下を、
前を見据えて進むのに、
相応しい人だから。
君の柔らかな笑い声は、
風と共に俺の頬を掠め、
君の笑顔は、痛い程に、
俺の心に焼き付く。
君に憧れ、
想いを抱くことさえ、
烏滸がましいって、
分かってるのに。
心が君を求めて騒めくのを、
抑えられなくて。
待って。
遠くなっていく君の背中に、
声にならない声で、
そっと呟く。
君には届かない、
言葉にすらなれなかった願いと、
誰にも知られず、影と共に消えていく、
俺の想いと共に。
まだ知らない世界
子供の頃、
ボクの生活は、
『普通』なんだと思ってた。
何処も誰も、世界は、
同じなんだと思ってた。
親の愛を知らず、
友達も居ない。
孤独な日々だった。
それでも、
命を繋ぐだけの、粗末な食べ物と、
冷たい雨から逃れる、僅かな屋根が、
与えられていたから。
大人になって。
世の中は、
不公平なんだと知った。
華やかな街には、
笑い声が聞こえる。
親しい人と、
共に笑い合う声。
ボクが住む、
陽の届かぬ灰色の路地と、
笑い声が流れる光の街は、
たった、一本の道で、
分断されていただけなのに。
友情。親の愛情。
そんなものは、
物語の中だけの、
幻だと思ってたのに。
まだ知らない世界は、
『愛』で溢れてるんだ。
まだ知らない世界。
そして、
永遠に辿りつけない世界。
この手の中にあるのは、
ボクは誰の目にも止まらない、
残酷な現実、だけ。