霜月 朔(創作)

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まだ知らない世界


子供の頃、
ボクの生活は、
『普通』なんだと思ってた。
何処も誰も、世界は、
同じなんだと思ってた。

親の愛を知らず、
友達も居ない。
孤独な日々だった。

それでも、
命を繋ぐだけの、粗末な食べ物と、
冷たい雨から逃れる、僅かな屋根が、
与えられていたから。

大人になって。
世の中は、
不公平なんだと知った。

華やかな街には、
笑い声が聞こえる。
親しい人と、
共に笑い合う声。

ボクが住む、
陽の届かぬ灰色の路地と、
笑い声が流れる光の街は、
たった、一本の道で、
分断されていただけなのに。

友情。親の愛情。
そんなものは、
物語の中だけの、
幻だと思ってたのに。
まだ知らない世界は、
『愛』で溢れてるんだ。

まだ知らない世界。
そして、
永遠に辿りつけない世界。

この手の中にあるのは、
ボクは誰の目にも止まらない、
残酷な現実、だけ。

5/18/2025, 7:37:24 AM