カーテン
蒼い月が浮かぶ夜。
灯りのない部屋の中。
私は君を抱き締める。
レースのカーテン越しに差し込む、
淡い月明かりだけが、
私達を仄かに照らす。
こんな醜い世の中で生きるには、
君の魂は余りに純粋過ぎた。
私は世間の偏見や差別の刃から、
君を護ってきた。
だが。
残酷な現実に斬り付けられ、
私の心が血を流す度、
君は酷く悲しい顔をするから。
此処ではない場所へ行こう。
私の言葉に、
君は嬉しそうに微笑み、
『私も連れて行って下さい。』
と、答えてくれたから。
蒼い月明かりの下で、
お互いに永遠を誓う。
君がドレス代わりに身に纏うのは、
ベッドから引き剥がされた、
…白いシーツ。
君がベール代わりに被るのは、
窓から引き千切られた、
…レースのカーテン。
互いの薬指に嵌める指輪すらない、
誰の祝福もない、二人だけの儀式。
ただ、
カーテンを奪われた窓から、
無遠慮に覗き込む蒼い月だけが、
私達の門出を見守っていた。
カーテンの向こう側には、
誰よりも大切な君の微笑み。
君の鼓動を私が奪い、
私の呼吸を君が奪う。
蒼い月は赤く染まる。
『永遠に君を護ろう。』
『永遠に貴方の側に。』
夏の気配
君にずっと憧れて。
君の背中を追ってきた。
友達として、
ライバルとして、
君と並びたくて。
でも。
どんなに足掻いても。
君との距離は遠くなるばかり。
なのに。
君への想いは強くなる。
君への想いを隠して。
せめて友達として、
君の側に居たかった。
君の背中は遠くなる。
影の黒さが強くなる。
胸の軋みを誤魔化し、
痛みから逃げるように、
天を仰ぐと、
空は悲しい程に、
青くて、高くて。
太陽の眩しさに、
目が眩む。
その衝撃に耐えられず、
俺の心は闇に潜る。
そこかしこに広がる、
夏の気配から逃げるように、
現実から目を背け、
何も気付かなかった振りをして、
影に息を潜めるんだ。
まだ見ぬ世界へ!
最後の声
貴方は、どうして、
こんな醜い世の中で、
傷付き、苦しみながら、
生きようとするのですか?
世の中から弾き出され、
人として生きる事が出来ずにいた、
傷だらけの私に、
救いの手を差し伸べ、
私を人間にしてくれた、貴方。
そんな貴方は、
私の全てとなったのです。
貴方の為なら、私は、
悪魔に刃を向け、
天使を殺める事さえ、
躊躇わないでしょう。
しかし。
残酷な人間ばかりが蔓延る、
現し世に生きていくには、
貴方は優し過ぎたのです。
ですから。貴方に、
永遠の安寧を与えましょう。
この世に別れを告げ、
私と共に彼方へ行き、
永遠を生きましょう。
貴方の魂を救う為に、
貴方の身体に、
銀色に輝く刃を沈めます。
貴方の呼吸は小さくなり、
鼓動は緩やかに止まります。
貴方の口唇が、
言の葉を紡ごうと、
小さく動きます。
貴方から溢れる最後の声は、
私への愛の言葉である事を、
願いながら、
私は貴方に微笑み掛け、
この世に別れを告げます。