霜月 朔(創作)

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4/29/2025, 9:06:09 AM

夜が明けた。



漸く、夜が明けました。
それなのに、どうして、
貴方はまだ眠っているのですか。

この手の中にある、
貴方の呼吸の音が、
ひとつ、またひとつと消えてゆく。
それが、こんなに愛おしいなんて。

貴方の優しさと愛は、
友愛でありながら、
私に救いの手を伸ばしたのが、
いけないのです。
私を抱きしめたことが、
いけないのです。

あのとき、貴方が
たった一度だけ、
愛おしそうに、
名前を呼んでくれたこと。
今も、鮮やかに、
胸にこびりついて離れません。

だから、
全てを壊したのです。
貴方の命までも。
貴方の首に、あの白い花を添えて。
私の指が、震えなかったことを、
きっと気付いていたでしょう。

どうか、
もう一度、私を呼んでください。
貴方のあたえてくれる愛は、
私の求める愛とは違うけれど。

それでも、構いません。
開くことのない檻の中で、
永遠に私の隣にいてくれるなら、
私は、それだけで、
満たされるのですから。


夜が明けた。
誰も見ていない。
 
貴方はもう、
私から離れてゆけない。

私の呼吸も、
もうすぐ、止まる。
…貴方の傍で。

4/28/2025, 9:15:16 AM

ふとした瞬間


ふとした瞬間、
お前を見た。
なんてことはない仕草だったのに、
俺の胸は、酷く軋んだ。

どれほど近くにいても、
どれほど笑い合っても、
お前は永遠に、
俺の手の届かない場所にいる。
そんな現実に、
気付いてしまったんだ。

俺たちは、友として。
ずっと並んで、
同じ道を歩いていた筈だったのに。
何時からだろう。
俺だけが、足を止めたままだ。

希望なんて、
最初からなかった。
お前の瞳が、
俺だけを映すことなんか、
ある筈もない。
そんな事は、分かっていた。

──だが。
そうだとしても。
お前と笑い合える日々が、
俺の全てだった。

夜の底で、独りきり。
交わせる筈もない甘い言葉を、
心の中のお前に投げた。
だが俺には、
お前との夢を描くことさえも、
赦されない気がして、
浮かぶ幻を、慌てて掻き消した。

お前は、何も知らないままでいい。
だから、
俺は、何も伝えないままでいよう。

俺の想いは、
粉々に壊してしまおう。
床に叩きつけられたガラス細工のように、
痛いほど鋭く砕け散り、
元の形も分からないほどに。

そして──祈ろう。
俺の存在しない未来で、
お前が、幸せであるように、と。

どうか。
この苦い祈りすら、
お前には、気付かれないように。

4/27/2025, 6:44:03 AM

どんなに離れていても



世の中は、
余りにも残酷で。
時間は、
容赦なく過ぎていく。

貴方と過ごした日々は、
静かに、でも、確かに、
過去のものとなって、
貴方の微笑みも、
少しずつ遠ざかっていく。

周りの人々の心から、
部屋に残った温もりから、
貴方の気配は、
静かに消えていく。

だけど、俺は。
ずっと追ってきた、
貴方の背中が見えなくなって。
教えて貰ったことを、
握り締めたまま、
前に進めずにいるんだ。

貴方に逢いたくて、
俺は空を見上げる。
けれど。
貴方がいる、空は、
悲しいほど、高かった。

爽やかな風が、
そっと吹き抜ける。
まるで、俺の涙を攫っていくように。

分かってた。
どんなに不安でも、怖くても、
独りで生きていくしかないことを。
貴方を忘れることなんか、
出来はしない。
なら、貴方を失った孤独を抱えて、
真っ暗な道を独り進むしかない。

貴方が安らかに待つ、
穢れのない空と、
俺が縛られている、
汚れきった大地は、
きっと、どこかで繋がっている。

……どんなに離れていても。
必ず、貴方に逢いに行きます。
だから。
俺が、貴方の元へと、
辿り着いたときには、
たくさん、褒めてくださいね。

4/26/2025, 7:56:10 AM

「こっちに恋」「愛に来て」


静かな夜。
お前は、不意に現れる。
剥がれ落ちた心を、
微笑みの仮面で覆い隠して。

嘗て、お前を拒んだのは、
この私だったというのに。
それでも私は、
今も尚、お前を渇望している。

想いを押し殺し、
ただ、お前を受け止める。
何も告げず、
何も問わず、
お前が私を求める限り。

夜が明ける前に、お前は、
何の温もりも残さず、
静かに私の部屋から消えていく。
まるで、未練など微塵もないかのように。

それでも私は、
ただ、見送ることしかできない。

そんなお前に、
伝えられないままの言葉を、
心の軋みごと、
無表情に呑み込む。

ずっと、言いたかった。
だが、その苦さに、
言葉は形を失ってしまう。

静かに、無情に、
扉は閉じられる。
訪れた静寂が、
胸を裂くほど冷たく、私を抉る。

扉の向こうに消えたお前へ、
乾ききった唇で、
掻き消される声を紡ぐ。

『こっちに来い』



孤独に啼く夜、
私は静かに君の部屋を訪れる。
君が私を拒むことなど、
決してないと知っているから。

君が私を愛していたのは、
もう遠い過去だと分かってる。
それでも私は、
君を忘れることなど、
出来ずにいるんだ。

想いを殺し、
ただ、君の温もりを求める。
何も問わず、
何も告げず、
君は黙って私を受け入れる。

夜が明ける迄に、私は、
君の部屋から消えなきゃならない。
肌に残る名残惜しさを振り払い、
背を向けて、
君の温もりを捨て去る。

けれど、君は、
追うことも、呼び止めることも
してはくれない。

そんな君に、
伝えられずにいる言葉は、
胸の底で錆びつき、
静かに沈んでいく。

ずっと、言いたかった。
けれど、その重さが喉を締めつけ、
声にならなかった。

未練を噛み殺し、
君の部屋の扉を閉じる。
それでも、足は震え、
その場を離れられずにいた。

扉の向こうの君へ、
掠れた唇で、
掻き消される声を紡ぐ。

『逢いに来て』

4/25/2025, 8:29:45 AM

巡り逢い



君との想い出の路地を、
君の影を探して、独り歩く。
自分自身にさえ、
それと、知られぬように。

落ちる雨が、冷たく肌を打つ、
傘も差さずに歩く街角。
一瞬、視線が交わる、
君との、巡り逢い。
それだけで、胸は震えた。

でも、君は目を逸らし、
足早に過ぎ去っていく。
まるで、私の存在など、
なかったかのように。

君の眼差しの先には、
きっともう、私などいない。
それでも、私は、
君の足音を待ってしまうんだ。

花が散り、木の葉が落ち、
季節は何度も巡るのに、
私たちの時間は、止まったまま。

それでも、あの日から、
ずっと色褪せない、
君への想いと愛しさは、
氷の中に閉じ込められたみたいに、
身動ぎすら出来なくて。

星が瞬く夜に願うのは、
偶然を装った必然の巡り逢い。
再び君と紡ぐ、新しい物語。

叶わない願いだと、分かってる。
それでも、私は待ち続けてる。
再び、君と私に、
巡り逢いが訪れる日を。

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