二人だけの。
貴方は静かに、
ただ、眠ります。
残酷な人の世から、
切り離された、
この静かな森の中で。
人々から忘れられ、
誰の目にも止まらず、
静かに朽ちていく、
古びた屋敷の、
灯りもない部屋の中。
季節の移ろいも、
人の世の移り行きも、
時の流れも、
生命の輪廻も、
無関係な、この場所で。
貴方と私、二人きり。
何者も入り込めない世界で、
永遠の時を生きていて。
例え、神であっても、
私達を目覚めさせることも、
私達を死なせることも、
出来はしないでしょう。
静かに眠る貴方に、
そっと寄り添い、
今日もまた、
幸福に揺蕩います。
永遠に終わる事のない、
…二人だけの。
夏
眩い朝日が顔を出す。
空の端が桃色に染まる。
もうすぐ夜が明ける。
朝日が連れて来る夏の匂い。
夏の煌めく太陽に、
恵まれた人々は、
何処か開放的になる。
一握りの選ばれた人間が、
夏の陽射しに、
笑顔を浮かべる、
その影で。
持たざる者は、
泥沼の中でのたうち回る。
眩い光は、容赦無く、
隠したい過去も、
傷だらけの心も、
白日の下に曝け出させる。
正しさは時に暴力となり
真実は、鋭い刃となり、
弱き者を、躊躇いなく
切り刻むのだ。
そして、
夏の早起きな太陽は、
疲れ果てた者が、
束の間の休息を得る、
夜の闇の安らぎさえ、
削り取って行くのだ。
朝日が登る。
星は姿を消し、
空は青くなっていく。
残酷な夏は…。
始まったばかりだ。
隠された真実
冷たくて残酷で醜い、
世の中から見捨てられ、
街の片隅のゴミ捨て場で、
残飯を漁る野良犬の様に、
生きるだけだった私。
そんな私を、
人間として見てくれたのは、
貴方が初めてでした。
私に手を差し伸べる程に、
貴方は優しく、そして、
脆かったのです、
当たり前に、人と人とが、
憎み合い奪い合う世の中で、
残酷な人間のふりをして、
生きていくには、
貴方は優し過ぎました。
だから。
貴方の心が壊れてしまう前に、
私の手によって、
この醜いこの世から、
貴方を、救ってあげます。
月の綺麗な夜でした。
私は微笑み、
貴方に、冷たく光る銀の刃を、
突き立てました。
私は貴方を、
殺したくは無かった。
苦しみから救いたかった。
それだけなのです。
私は、
真っ赤に染まる貴方を見詰め、
貴方の最期の時まで、
微笑み続けます。
貴方を救いたかった。
でも、本当は。
呼吸も、鼓動も、生命も。
愛しい貴方の全てが、
欲しかったのです。
これが、私の、
優しい微笑みの仮面に、
隠された真実。
風鈴の音
冷たくも冷静な社会は、
経済の活性化という、
免罪符を掲げ、
止まること無く走り続ける。
動き続ける、
社会から弾き出された、
心の柔らかい人間は、
残酷な世の中から、
容赦無く切り捨てられる。
人として生きることも、
過去を懐かしむ事も、
赦されず。
心の傷を抱えて、
華やかな街の影で、
息を潜めて生きるしかなくて。
誰の目にも止まらない、
誰も気付きはしない、私。
居ても居なくても、
何も変わらない。
何も変えられない。
そして、私は独り。
哀しい程に青い空を見上げ、
帰る事は叶わない、
故郷を思う。
少しだけ涼しい風が吹き、
遠くから聞こえるのは、
何処か淋しげな、
風鈴の音。
心だけ、逃避行