霜月 朔(創作)

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飛べ


初めて会った君は、
社会から弾き出され、
独りで生きてきた。
身体も心も傷だらけで、
哀しく虚ろな瞳は、
泣くことさえ忘れていた。

そんな君に、
孤独な自分を重ね、
私は手を差し伸べた。

君との時間を重ねるうちに、
私にとって君は、
生活の全てになり、
君にとって私は、
世界の全てになった。

そして、君は。
私を永遠にしようとした。
君は私の胸に、
鈍色の刃を突き立てた。

私の身体から、
生命の赤が流れ出していき、
君の笑顔が暗転していく。

…だが。
これで、良かったんだ。

君は、振り向かずに、
明るい世界へ向かって、
…飛べ。

それが私の、
最期の願いだ。

7/20/2025, 7:17:48 AM