どんなに離れていても
世の中は、
余りにも残酷で。
時間は、
容赦なく過ぎていく。
貴方と過ごした日々は、
静かに、でも、確かに、
過去のものとなって、
貴方の微笑みも、
少しずつ遠ざかっていく。
周りの人々の心から、
部屋に残った温もりから、
貴方の気配は、
静かに消えていく。
だけど、俺は。
ずっと追ってきた、
貴方の背中が見えなくなって。
教えて貰ったことを、
握り締めたまま、
前に進めずにいるんだ。
貴方に逢いたくて、
俺は空を見上げる。
けれど。
貴方がいる、空は、
悲しいほど、高かった。
爽やかな風が、
そっと吹き抜ける。
まるで、俺の涙を攫っていくように。
分かってた。
どんなに不安でも、怖くても、
独りで生きていくしかないことを。
貴方を忘れることなんか、
出来はしない。
なら、貴方を失った孤独を抱えて、
真っ暗な道を独り進むしかない。
貴方が安らかに待つ、
穢れのない空と、
俺が縛られている、
汚れきった大地は、
きっと、どこかで繋がっている。
……どんなに離れていても。
必ず、貴方に逢いに行きます。
だから。
俺が、貴方の元へと、
辿り着いたときには、
たくさん、褒めてくださいね。
「こっちに恋」「愛に来て」
静かな夜。
お前は、不意に現れる。
剥がれ落ちた心を、
微笑みの仮面で覆い隠して。
嘗て、お前を拒んだのは、
この私だったというのに。
それでも私は、
今も尚、お前を渇望している。
想いを押し殺し、
ただ、お前を受け止める。
何も告げず、
何も問わず、
お前が私を求める限り。
夜が明ける前に、お前は、
何の温もりも残さず、
静かに私の部屋から消えていく。
まるで、未練など微塵もないかのように。
それでも私は、
ただ、見送ることしかできない。
そんなお前に、
伝えられないままの言葉を、
心の軋みごと、
無表情に呑み込む。
ずっと、言いたかった。
だが、その苦さに、
言葉は形を失ってしまう。
静かに、無情に、
扉は閉じられる。
訪れた静寂が、
胸を裂くほど冷たく、私を抉る。
扉の向こうに消えたお前へ、
乾ききった唇で、
掻き消される声を紡ぐ。
『こっちに来い』
孤独に啼く夜、
私は静かに君の部屋を訪れる。
君が私を拒むことなど、
決してないと知っているから。
君が私を愛していたのは、
もう遠い過去だと分かってる。
それでも私は、
君を忘れることなど、
出来ずにいるんだ。
想いを殺し、
ただ、君の温もりを求める。
何も問わず、
何も告げず、
君は黙って私を受け入れる。
夜が明ける迄に、私は、
君の部屋から消えなきゃならない。
肌に残る名残惜しさを振り払い、
背を向けて、
君の温もりを捨て去る。
けれど、君は、
追うことも、呼び止めることも
してはくれない。
そんな君に、
伝えられずにいる言葉は、
胸の底で錆びつき、
静かに沈んでいく。
ずっと、言いたかった。
けれど、その重さが喉を締めつけ、
声にならなかった。
未練を噛み殺し、
君の部屋の扉を閉じる。
それでも、足は震え、
その場を離れられずにいた。
扉の向こうの君へ、
掠れた唇で、
掻き消される声を紡ぐ。
『逢いに来て』
巡り逢い
君との想い出の路地を、
君の影を探して、独り歩く。
自分自身にさえ、
それと、知られぬように。
落ちる雨が、冷たく肌を打つ、
傘も差さずに歩く街角。
一瞬、視線が交わる、
君との、巡り逢い。
それだけで、胸は震えた。
でも、君は目を逸らし、
足早に過ぎ去っていく。
まるで、私の存在など、
なかったかのように。
君の眼差しの先には、
きっともう、私などいない。
それでも、私は、
君の足音を待ってしまうんだ。
花が散り、木の葉が落ち、
季節は何度も巡るのに、
私たちの時間は、止まったまま。
それでも、あの日から、
ずっと色褪せない、
君への想いと愛しさは、
氷の中に閉じ込められたみたいに、
身動ぎすら出来なくて。
星が瞬く夜に願うのは、
偶然を装った必然の巡り逢い。
再び君と紡ぐ、新しい物語。
叶わない願いだと、分かってる。
それでも、私は待ち続けてる。
再び、君と私に、
巡り逢いが訪れる日を。
どこへ行こう
君の名を呼ぶたびに、
声が闇へ溶けてゆく。
風も答えず、光も差さぬこの場所で、
私は独り、君を探している。
どこへ行こう。
この胸の痛みが導くなら、
その先は、君の温もりの残る、
あの夜の終わりだろうか。
あの日。
君が差し出してくれた手が、
私は、素直に嬉しかった。
ただ、それだけだった。
君が私に縋るとき、
私はただ、
腕を広げるしかなかった。
君の絶望も、哀しみも、
私の中へ沈めてしまえばいい。
…そう思った。
君の刃が胸に届いたとき、
私は、何故か怖くなかった。
それは、痛みではなく、
漸く知った愛の形だったから。
君の凶刃は、
優しさの裏返しであり、
震える君の唇は、
私を壊すためではなく、
自らを赦せなかった証だった。
君が望んだ「永遠」は、
確かにこの身に刻まれた。
だが、それは、
君を縛る鎖であってはならない。
だから、私は独り君を待つ。
この静謐の果て、
時の波に溺れぬように、
君の名を胸に刻んで。
私の魂はまだ、君に触れている。
例え、この世に私がいなくとも。
もしも、この祈りが届くのなら、
君が、その生を終えた時。
どうか、もう一度、
あの日のように、
手を伸ばしてくれ。
独り、明けぬ闇に揺蕩い、
行き先も知らず彷徨いながら。
…ただ、それだけを、
願い続けている。
big love!
貴方に初めて、
手を差し伸べてくれた、あの日。
私は今でもよく覚えています。
冷たい風の中、
その温かな掌だけが、
この世の真実のように、
感じられたのです。
いつからだったでしょうか。
貴方が、他の誰かに笑いかけるだけで、
この胸が、酷く軋むようになったのは。
私に差し出された手の温もりが、
特別なものではない事に、
暗く深い孤独を、
感じてしまうようになったのは。
貴方は、知らなかったのでしょう。
私が、どれほどの熱を、
この胸に灯していたのか。
それが、どれほどの暗闇を、
孕んでいたのか…を。
貴方の未来を想うたび、
私は、息が詰まりそうになります。
私の知らない貴方の時間が、
ただ、恐ろしくてたまらないのです。
私は、貴方を憎みたくなどなかった。
ただ、ただ、
私だけを見ていて欲しかったのです。
貴方が、他の誰かに向ける、
その優しさを、
私だけのものにしたかったのです。
どうか、
私だけを見ていてください。
どうか、
他の誰にも優しくしないでください。
私が、貴方を守ります。
貴方を壊すものすべてから。
例え、それが、
…私自身であったとしても。
それが、許されぬのならば、
せめて、
この腕の中で眠って欲しいのです。
貴方の呼吸が止まっても、
心が止まらぬように、
深く、深く、
貴方の魂さえも、
私のものにしたいのです。
だから、私は、
貴方を抱き締めながら、
冷たい切っ先を突き付けました。
そして、貴方は、
私の刃をその身に受けてくれた…。
それだけで、もう十分でした。
私は貴方と、
一つになれたのですから。
これが、私の愛。
貴方のすべてを欲した、
狂おしいほどに純粋な、
…大きな愛。
私も、もうすぐ、
そちらへ参ります。
ですから、どうか、
あの日のように、
また、手を伸ばして、
私を迎えてください。