霜月 朔(創作)

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「こっちに恋」「愛に来て」


静かな夜。
お前は、不意に現れる。
剥がれ落ちた心を、
微笑みの仮面で覆い隠して。

嘗て、お前を拒んだのは、
この私だったというのに。
それでも私は、
今も尚、お前を渇望している。

想いを押し殺し、
ただ、お前を受け止める。
何も告げず、
何も問わず、
お前が私を求める限り。

夜が明ける前に、お前は、
何の温もりも残さず、
静かに私の部屋から消えていく。
まるで、未練など微塵もないかのように。

それでも私は、
ただ、見送ることしかできない。

そんなお前に、
伝えられないままの言葉を、
心の軋みごと、
無表情に呑み込む。

ずっと、言いたかった。
だが、その苦さに、
言葉は形を失ってしまう。

静かに、無情に、
扉は閉じられる。
訪れた静寂が、
胸を裂くほど冷たく、私を抉る。

扉の向こうに消えたお前へ、
乾ききった唇で、
掻き消される声を紡ぐ。

『こっちに来い』



孤独に啼く夜、
私は静かに君の部屋を訪れる。
君が私を拒むことなど、
決してないと知っているから。

君が私を愛していたのは、
もう遠い過去だと分かってる。
それでも私は、
君を忘れることなど、
出来ずにいるんだ。

想いを殺し、
ただ、君の温もりを求める。
何も問わず、
何も告げず、
君は黙って私を受け入れる。

夜が明ける迄に、私は、
君の部屋から消えなきゃならない。
肌に残る名残惜しさを振り払い、
背を向けて、
君の温もりを捨て去る。

けれど、君は、
追うことも、呼び止めることも
してはくれない。

そんな君に、
伝えられずにいる言葉は、
胸の底で錆びつき、
静かに沈んでいく。

ずっと、言いたかった。
けれど、その重さが喉を締めつけ、
声にならなかった。

未練を噛み殺し、
君の部屋の扉を閉じる。
それでも、足は震え、
その場を離れられずにいた。

扉の向こうの君へ、
掠れた唇で、
掻き消される声を紡ぐ。

『逢いに来て』

4/26/2025, 7:56:10 AM