霜月 朔(創作)

Open App
4/19/2025, 8:53:23 AM

物語の始まり

4/18/2025, 7:41:03 AM

静かな情熱



ひとつの火種を、
ずっと胸の奥に、隠してきた。
これは、決して——
燃やしてはならぬ炎だと、
何度も、自分に言い聞かせながら。

子供だった筈のお前は、
いつの間にか影を纏い、
目を伏せる理由を覚え、
俺の知らない夜を、
他の誰かの温もりに包まれながら、
生きるようになっていた。

それが、どうしようもなく、
苦しくて、羨ましくて——
ただ、情けなかった。

守ればいいと、思っていた。
風に攫われそうな、儚い背を。
風雨に晒されぬよう、抱きとめ、
孤独に凍える夜には、
その小さな手を握り締め、
ささやかな温もりを与えた。
そんな俺を——
お前は、兄のように、
慕ってくれたけれど。

俺は——
恋をしていた。
ずっと、ずっと。
けれど、俺に許されたのは、
『兄』の顔だけだった。

だけど。それを告げたところで、
お前の心に積み重ねてきた、
幼き日からの俺との想い出が、
壊れてしまうだけだと、
知っていたから。

この想いは、
静かな情熱として、
俺の中に埋めておくしかない。

だから。俺は、そっと願うんだ。
せめて、遠くから——
お前の幸せを、見守らせてくれと。

たとえ、もう二度と。
触れることさえ、赦されなくても。



4/17/2025, 7:10:16 AM

遠くの声



それは、静かな夜でした。
貴方から紡がれる言の葉は、
月の欠片とよく似ています。
あれほど美しくて、優しいのに、
もう、私には届きません。

罪に塗れた私の手は、
貴方の影ばかりを抱いて、
何も掴めず、何も失えず、
ただ、貴方を想っています。

もしも。
それが、罪だと言うのなら、
どうか。
私を罰してください。

貴方が笑うたびに、
私の世界は壊れました。
嬉しくて、苦しくて、憎らしくて、
なのに、愛おしくて堪らなかった。
矛盾ではありません。
ただの真実です。

私だけを見てくださった、
その冬の湖の様に静かな瞳が、
他の誰かに向いていた事を、
私は知っていました。
知っていながら、
気づかぬふりをして、
心の底では、
貴方を切り刻んでいたのです。

貴方の全てが欲しいとは、
言うつもりはありませんでした。
ですが。
誰にも渡さない、とは、
密かに、心に決めていました。

ですから…。
この結末は、
衝動でも偶然でもなく、
必然なのです。

あの日。貴方が私を、
救ってくださらなければ、
私はこんなにも、
醜くはならかったでしょう。
本当は、救いなどいらなかった。
ただ、貴方の隣が、
欲しかったのです。

どうして、そんなに綺麗なのですか。
どうして、そんなに優しいのですか。
どうして、どうして――
どうして、私では、駄目だったのですか。

耳を澄ませば、まだ聞こえるのです。
それは…遠くの声。
貴方の名前を呼ぶ…私の声。

そして、
貴方の心に刻まれた、最期の旋律。
二度とは刻まない、生命の律動。
ふたりで堕ちた、あの静寂の淵で、
ようやく貴方は、
鮮やかな朱を纏い、
私だけのものになりました。

やっと、永遠になれましたね――。

4/16/2025, 8:59:29 AM

春恋



春の始まりに咲いたのは、
お前の微笑みだった。

陽のあたる場所に立つ、
お前を見て、
胸が、チクリと痛んだ。
それが恋だと気付くには、
俺たちは、余りにも近すぎた。

柔らかな風に吹かれながら、
名を呼ぶことすら、
出来なかった。
隣に立てば、ただの友として、
同じ方向を見つめ、背を伸ばし、
ふと目が合えば、
微笑みで想いを誤魔化すだけ。

どうして、
俺ではなかったんだろう。
そう思うたびに、
何もかもが、薄墨に沈む。
春の光も、青い空も、
全てが、嘘に見えた。

『春恋』──
その響きは甘やかで、
俺の中の全てを、
静かに、緩やかに、壊してゆく。

息を殺して、想いを殺して。
笑顔の裏の、この気持ちが、
誰にも知られないように。

それでも、春は来る。
お前は、淡い光の中で微笑み、
俺は、黙って見送る。

ただ…これが。
お前が望む友情なのだと、
自分に言い聞かせながら、
またひとつ、春を見送るだけ。


4/15/2025, 8:25:52 AM

未来図



それは、
月の光が ただ冷ややかに
肩を撫でてゆく夜だった。

君は何も知らず、
揺れる灯を見つめていた。
酷く、優しい目をして。
あの瞳がどうして滲むのか、
今もまだ、俺にはわからない。

言葉にすれば、
崩れてしまう気がして、
俺は笑っているふりをして、
君の隣に立っていた。

この名もない想いを、
君から隠し通すには、
静寂が、あまりに脆すぎた。
胸の奥で、何かが、
音もなく欠けていくのがわかった。

夢を語る君の横顔を、
何度も、何度も、
目でなぞるしかできなかった。
けれど、君の描いた未来図に、
俺の影は――きっと、ない。

孤独というのは、
君がいないことじゃない。
君がいるのに、
手を伸ばせないことなんだ。

灯が消えて、夜が終わる。
それでも尚、俺はここにいる。

俺は、動けない。
ただ、静かに、
終わりのかたちを待っている。
名もなき『終わり』を。

Next