春恋
春の始まりに咲いたのは、
お前の微笑みだった。
陽のあたる場所に立つ、
お前を見て、
胸が、チクリと痛んだ。
それが恋だと気付くには、
俺たちは、余りにも近すぎた。
柔らかな風に吹かれながら、
名を呼ぶことすら、
出来なかった。
隣に立てば、ただの友として、
同じ方向を見つめ、背を伸ばし、
ふと目が合えば、
微笑みで想いを誤魔化すだけ。
どうして、
俺ではなかったんだろう。
そう思うたびに、
何もかもが、薄墨に沈む。
春の光も、青い空も、
全てが、嘘に見えた。
『春恋』──
その響きは甘やかで、
俺の中の全てを、
静かに、緩やかに、壊してゆく。
息を殺して、想いを殺して。
笑顔の裏の、この気持ちが、
誰にも知られないように。
それでも、春は来る。
お前は、淡い光の中で微笑み、
俺は、黙って見送る。
ただ…これが。
お前が望む友情なのだと、
自分に言い聞かせながら、
またひとつ、春を見送るだけ。
4/16/2025, 8:59:29 AM