霜月 朔(創作)

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4/14/2025, 8:44:18 AM

ひとひら



私のなかには、
貴方が棲んでいます。

貴方の名を呼ぶたび、
私の胸の奥で、
薄氷が砕けるような音します。
それは、美しくも、酷く鋭くて。
けれど、嫌いではないのです。

貴方は私を拾ってくれました。
醜悪な世の中に棲む、醜い人間に、
爪も牙も折られて、
ただ息をしているだけの、
無様な私を見付けた貴方は、
生きていて良いのだと、
言ってくれました。

貴方がくれた言葉は、
今もまだ、
私の中で静かに燃えています。
静かに、音もなく、
ただ、熱だけを残して。

あれから、どれほどの夜を、
貴方と重ねたのでしょう。
指先ひとつで壊れてしまうほど、
脆くて、優しかった日々。
それを、私は、
愛と呼んだのです。

何時しか、私は、
貴方に、堕ちてしまいたい、
そう願うようになっていました。
全てを委ねて、
全てを壊して、
貴方の底で眠りたかったのです。

ねえ、覚えていますか。
私が貴方に、
「死んでほしい」と囁いた夜を。
あれは、別れでも、呪いでもなく、
誓いだったのですよ。
永遠に一緒にいるための、
…ただの1つの、約束。

けれど。貴方は、
独りで逝こうとしました。
そんなこと、赦されるとでも?
私は貴方のもの、
貴方は私のもの。
それ以上でも、それ以下でも、ないのに。

だから、もう、
終わらせましょう。
貴方の心を私で埋め尽くして、
貴方の心の底に揺蕩っていた、
ひとひらの想いは、
溶かしてあげますから。

夜が明ける前に、
二人で堕ちるのです。
何者も追っては来られない、
誰にも見つからない場所へ。
ふたりで、終わるために。

ねえ、笑ってください。
これが、私達の、
"ひとひら"なのですから。


4/13/2025, 9:01:12 AM

風景



朝露の冷たさに目覚めて、
貴方のまなざしを探すたび、
いつもと変わらない、
静かに眠る、その横顔に、
私の世界は、今日も巡ります。

貴方の心は、
どこか遠いところに、
行ってしまったのですか。
……それなら、せめて、
私も連れていってくれれば、
よかったのに。

この部屋の中には、
想い出の欠片が、
揺らめいていて。
私は、それを壊さぬように
息をひそめるのです。

貴方が眠る、
そのかたわらには、
世界の終わりが、
優しく寄り添っています。

誰も来ない場所。
貴方と私だけの時間。
それは、救いであり、罰であり、
そして――愛という名の祈り。

この冷たい眠りの風景の中に、
貴方を閉じ込めてしまったのは、
…きっと、私。
貴方を失う事を恐れた、
弱い私が作り出した、
永遠の監獄。

貴方の目覚めを待っています。
どれほど、夜が過ぎても、朝が来ても。
貴方の瞳は閉じられたまま。

…それでも。
貴方を愛しています。
太陽の光も、鳥の声も、
花の香も届かない、この風景に、
ただ、祈りを込めるように。

4/12/2025, 8:50:36 AM

君と僕



君の笑い声が、ふと風にまぎれると、
なんだか、胸の奥が、きゅっとなる。
そんなの、ただの偶然だって、
ボクはボクに言い聞かせる。

お前は誰にだって優しいから。
それがお前の“いつもの顔”なんだろ?
ボクだけじゃないって、
分かってるのに。
なのに、どうして。
嬉しくなっちゃうんだろ…。

お前とボク。
なり得ない…『君と僕』。
それ以上でも、それ以下でもない。
そんなこと、
ちゃんと分かってるつもり。

だけど、時々
「もしも」なんて、
ありえないことを、
考えちゃうんだ。

お前の真っ直ぐな瞳が、
誰かじゃなくて、ボクを見て、
微笑んでくれたらって。

……バカみたいだよな。
お前の事なんか、
好きじゃないのに。
ホントに、ぜんぜん、
そんなんじゃないのに。

ただ、お前が、
誰かのことを話すたび、
…なんでだろ。
胸がちくっとするんだ。

だけど、どうせボクなんて、
誰にも愛されるわけ、ないんだ。
こんなボクに、
誰も、目を向けるわけがない。

だから、今日もまた、
お前の隣で、
笑ってるふりをする。
友達なんて、そんなもんだろ?

『君と僕』じゃなくて、
…お前とボク。
それが、全てだったから。

4/11/2025, 8:04:50 AM

夢へ!


貴方が微笑んだ夜のことを、
私は毎夜思い出します。
静かな灯りの下で、
貴方の指が、私に触れた、
あのささやかな記憶。

いつの間にか、
私の貴方への想いは、
恐ろしいほど大きくなり、
幼い崇拝も、儚い慕情も、
とうに踏み越えてしまったのです。

貴方に褒められるたび、
胸の奥底が冷たく疼きました。
私には渡してはくれない、
貴方の恋の言葉を、
私は心が引き裂かれるほど、
欲していたのです。

「私だけを見てください」
そう言葉にした、夜の果て。
貴方の眼差しが、
私だけを映してくれるなら、
もう他に、何もいらないと。
そう、願ったのに。

けれど、貴方は、
私と貴方が出逢う前の、
想い出に縋っていたのです。
そんな事、赦せる筈がありません。
私は、貴方に拾われて、
ようやく「人間」になれたのに。

だから。私は。
貴方の喉元に口付けながら、
そっと刃を沈めます。
この世界のどこにもない、
深い闇の底へと、
貴方と手を繋いで、
ただ、沈んでゆきたいのです。

…そう。
貴方と私だけの、
夢へ、と。

私の腕の中で、
貴方の鼓動が止まる瞬間。
貴方と私は永遠となるのです。

さあ。共にゆきましょう。
誰にも届かない、夢へ。

…夢へ!


4/10/2025, 9:31:26 AM

元気かな



元気かな。
…なんて。
君に聞けたら、良かったのに。
今さら、そんな言葉、
風にまぎれて、消えてしまう。

君は、いつもそこにいる。
俺の隣に立って、
何も知らずに笑っている。
それが――堪らなく、悲しいんだ。

何ひとつ、奪えはしない。
声も。手も。心も。
未来も。身体も。運命も。
俺はただ、
ここで朽ちていく枯木のように、
空を見上げているだけ。

昼は、陽のふりをして。
夜は、夢のふりをして。
いつも、君の横顔ばかり、
追いかけていたけど。

触れないことが、
優しさになるなんて。
一体、誰が決めたんだろう。

それでも、俺は。
黙って、微笑み続けるんだ。
君が幸せでいられるのなら。
……そう、思って。

元気かな。
心の中で、何度も尋ねる。
幻の君からは、答えなんか、
返ってこないことも、
ちゃんと、わかってる。

紡げなかった言葉は、
解けて、空に舞って。
風に攫われ、消えてゆくけど。

それでも。
どうしても、言いたいんだ。
君に届かなくても、いい。
俺に、聞こえれば、それだけで。

元気かな。
……俺はまだ、ここにいるよ。


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