霜月 朔(創作)

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ひとひら



私のなかには、
貴方が棲んでいます。

貴方の名を呼ぶたび、
私の胸の奥で、
薄氷が砕けるような音します。
それは、美しくも、酷く鋭くて。
けれど、嫌いではないのです。

貴方は私を拾ってくれました。
醜悪な世の中に棲む、醜い人間に、
爪も牙も折られて、
ただ息をしているだけの、
無様な私を見付けた貴方は、
生きていて良いのだと、
言ってくれました。

貴方がくれた言葉は、
今もまだ、
私の中で静かに燃えています。
静かに、音もなく、
ただ、熱だけを残して。

あれから、どれほどの夜を、
貴方と重ねたのでしょう。
指先ひとつで壊れてしまうほど、
脆くて、優しかった日々。
それを、私は、
愛と呼んだのです。

何時しか、私は、
貴方に、堕ちてしまいたい、
そう願うようになっていました。
全てを委ねて、
全てを壊して、
貴方の底で眠りたかったのです。

ねえ、覚えていますか。
私が貴方に、
「死んでほしい」と囁いた夜を。
あれは、別れでも、呪いでもなく、
誓いだったのですよ。
永遠に一緒にいるための、
…ただの1つの、約束。

けれど。貴方は、
独りで逝こうとしました。
そんなこと、赦されるとでも?
私は貴方のもの、
貴方は私のもの。
それ以上でも、それ以下でも、ないのに。

だから、もう、
終わらせましょう。
貴方の心を私で埋め尽くして、
貴方の心の底に揺蕩っていた、
ひとひらの想いは、
溶かしてあげますから。

夜が明ける前に、
二人で堕ちるのです。
何者も追っては来られない、
誰にも見つからない場所へ。
ふたりで、終わるために。

ねえ、笑ってください。
これが、私達の、
"ひとひら"なのですから。


4/14/2025, 8:44:18 AM