霜月 朔(創作)

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夢へ!


貴方が微笑んだ夜のことを、
私は毎夜思い出します。
静かな灯りの下で、
貴方の指が、私に触れた、
あのささやかな記憶。

いつの間にか、
私の貴方への想いは、
恐ろしいほど大きくなり、
幼い崇拝も、儚い慕情も、
とうに踏み越えてしまったのです。

貴方に褒められるたび、
胸の奥底が冷たく疼きました。
私には渡してはくれない、
貴方の恋の言葉を、
私は心が引き裂かれるほど、
欲していたのです。

「私だけを見てください」
そう言葉にした、夜の果て。
貴方の眼差しが、
私だけを映してくれるなら、
もう他に、何もいらないと。
そう、願ったのに。

けれど、貴方は、
私と貴方が出逢う前の、
想い出に縋っていたのです。
そんな事、赦せる筈がありません。
私は、貴方に拾われて、
ようやく「人間」になれたのに。

だから。私は。
貴方の喉元に口付けながら、
そっと刃を沈めます。
この世界のどこにもない、
深い闇の底へと、
貴方と手を繋いで、
ただ、沈んでゆきたいのです。

…そう。
貴方と私だけの、
夢へ、と。

私の腕の中で、
貴方の鼓動が止まる瞬間。
貴方と私は永遠となるのです。

さあ。共にゆきましょう。
誰にも届かない、夢へ。

…夢へ!


4/11/2025, 8:04:50 AM