静かな情熱
ひとつの火種を、
ずっと胸の奥に、隠してきた。
これは、決して——
燃やしてはならぬ炎だと、
何度も、自分に言い聞かせながら。
子供だった筈のお前は、
いつの間にか影を纏い、
目を伏せる理由を覚え、
俺の知らない夜を、
他の誰かの温もりに包まれながら、
生きるようになっていた。
それが、どうしようもなく、
苦しくて、羨ましくて——
ただ、情けなかった。
守ればいいと、思っていた。
風に攫われそうな、儚い背を。
風雨に晒されぬよう、抱きとめ、
孤独に凍える夜には、
その小さな手を握り締め、
ささやかな温もりを与えた。
そんな俺を——
お前は、兄のように、
慕ってくれたけれど。
俺は——
恋をしていた。
ずっと、ずっと。
けれど、俺に許されたのは、
『兄』の顔だけだった。
だけど。それを告げたところで、
お前の心に積み重ねてきた、
幼き日からの俺との想い出が、
壊れてしまうだけだと、
知っていたから。
この想いは、
静かな情熱として、
俺の中に埋めておくしかない。
だから。俺は、そっと願うんだ。
せめて、遠くから——
お前の幸せを、見守らせてくれと。
たとえ、もう二度と。
触れることさえ、赦されなくても。
4/18/2025, 7:41:03 AM