遠くの声
それは、静かな夜でした。
貴方から紡がれる言の葉は、
月の欠片とよく似ています。
あれほど美しくて、優しいのに、
もう、私には届きません。
罪に塗れた私の手は、
貴方の影ばかりを抱いて、
何も掴めず、何も失えず、
ただ、貴方を想っています。
もしも。
それが、罪だと言うのなら、
どうか。
私を罰してください。
貴方が笑うたびに、
私の世界は壊れました。
嬉しくて、苦しくて、憎らしくて、
なのに、愛おしくて堪らなかった。
矛盾ではありません。
ただの真実です。
私だけを見てくださった、
その冬の湖の様に静かな瞳が、
他の誰かに向いていた事を、
私は知っていました。
知っていながら、
気づかぬふりをして、
心の底では、
貴方を切り刻んでいたのです。
貴方の全てが欲しいとは、
言うつもりはありませんでした。
ですが。
誰にも渡さない、とは、
密かに、心に決めていました。
ですから…。
この結末は、
衝動でも偶然でもなく、
必然なのです。
あの日。貴方が私を、
救ってくださらなければ、
私はこんなにも、
醜くはならかったでしょう。
本当は、救いなどいらなかった。
ただ、貴方の隣が、
欲しかったのです。
どうして、そんなに綺麗なのですか。
どうして、そんなに優しいのですか。
どうして、どうして――
どうして、私では、駄目だったのですか。
耳を澄ませば、まだ聞こえるのです。
それは…遠くの声。
貴方の名前を呼ぶ…私の声。
そして、
貴方の心に刻まれた、最期の旋律。
二度とは刻まない、生命の律動。
ふたりで堕ちた、あの静寂の淵で、
ようやく貴方は、
鮮やかな朱を纏い、
私だけのものになりました。
やっと、永遠になれましたね――。
4/17/2025, 7:10:16 AM