霜月 朔(創作)

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3/18/2025, 9:01:52 AM

叶わぬ夢




凍える夜に、独り。
記憶の海を彷徨う。
壊れた想い出は、
硝子の破片のように、
美しくも、冷たくて。

崩れ落ちた星の欠片を
そっと掌に掬ってみても、
指の隙間をすり抜け、
夜の闇へと溶けていく。

あの頃の光は遠すぎて、
どんなに手を伸ばしても、
決して、届かなくて。
想い出だけが胸を灼き、
じわりと痛みを残していく。

歩き慣れた筈の道も、
住み慣れたこの街も、
君が隣に居ない、
ただ、それだけで、
まるで作り物の景色みたいなんだ。

擦れ違う影に、
あの頃の君の面影を探しては、
何度も足を止めてしまう。
君が微笑んでくれる事は、
もう、ありはしないというのに。

赦されぬと知りながら、
それでも願ってしまう。
君の名を呼べば、
応えてくれる日々を、
もう一度だけ、と。

けれど――
叶わぬ夢ならば、
いっそ消えてしまえばいいのに。
それすら出来ずに、
私はただ、まだ。
君を想っているんだ。

3/17/2025, 7:40:46 AM

花の香りと共に



夜の帳が降りるたび、
この身を蝕む痛みが募る。
風に運ばれる花の香りが、
遠い記憶を、そっと呼び覚ます。

許されぬ恋と知りながら、
お前に手を伸ばした、あの日。
その罪の重さに、
幾度押し潰されようとも、
それでも、尚、
お前の温もりを求め続けた。

俺はお前を、
罪人にしてしまった。
背徳の鎖はあまりに重く、
背負い続ける程の力もない。

闇に沈む後悔は、
静かに血を流しながら、
朽ち果てる花のように、
音もなく散りゆく。

もしも、運命が嘲笑うのなら、
いっそ、この世界ごと、
焼き尽くしてしまえ。
二度と朝が来ないように、
全てを灰へと還してくれ。

花の香りと共に、
ただ、お前の名だけを抱き締め、
独り、罪の全てを背負って、
静かに消えてゆこう。

願わくば。
お前に触れた罰が、
この身にのみ下されることを。

3/16/2025, 8:46:37 AM

心のざわめき



夜の帳が降りるたびに、
言葉にならないざわめきが、
影のようにひたひたと、
忍び寄ってきます。

夜の空気が頬を撫で、
冷えた指先から、
命が零れ落ちます。
貴方が、何を求め、
何を望んでいたのか。
今となっては、
もう、分かりません。

――ただ酷く、
疲れてしまったのだ。

抑えきれずに溢れ落ちた、
貴方の独白が、
私の心をざわめかせます。

目を閉じれば、
闇が訪れる筈なのに、
耳の奥では、
尚も、ざわめきが響いて、
止まないのです。

僅かにこの手に残る、
貴方の温もりの記憶が、
最後の迷いを呼び覚まします。
それでも、
夜は深く、冷たく、
ただ穏やかな終わりへと、
私を誘うのです。

——独りきりで、逝くよ。

そう告げた貴方を、
私は許せなかったのです。
私以外の何者にも、
貴方を奪わせはしない。
たとえ、それが、
貴方自身であっても。

だから、
貴方の命は、私が、
この手で終わらせたのです。
…もう、二度と、
誰も触れられないように。

そして。
貴方の赤で染まる刃を、
この胸に向けます。
窓から差し込む月明かりに、
ぬるりと光る銀色が、
酷く美しく思えるのです。

私も、貴方の元へ逝きます。
心のざわめきが、消える前に。

3/15/2025, 5:13:10 AM

君を探して




冷たく閉ざされた部屋で、
君の名を呼んだ。
最初から、知ってた。
返事なんてないことは。

いつからだろう。
いつも影のように、
君の傍にいた俺が、
君の瞳に映らなくなったのは。

君の笑い声は、
ガラス越しみたいに、遠く。
俺の言葉は、君には届かず、
風の中に溶けていく。

想いは、胸の奥で、
何度も崩れ、砕け。
鋭い欠片が、突き刺さって、
痛みを刻むんだ。

手を伸ばしても、
空を掴むだけで、触れられない。
呼びかけても、
声は掻き消されて、届かない。
それでも、俺は、
君を探してしまう。

どんなに愚かでも。
どんなに無意味でも。
君を忘れる術を、
俺は知らないんだ。

あの日、交わした約束は、
幻なんかじゃなかったのに。
君は俺を置き去りにして、
明るい未来へと、
歩いていってしまうんだ。

もし。
心の全てを、壊してしまえば、
この痛みも、消えるのかな。
君との友情も。想い出も。
叶うことの無い恋慕も。

それとも。
また、君を探して、
終わりのない夜を、
独り、彷徨うのかな。

3/14/2025, 6:28:59 AM

透明



触れることも出来ず。
名を呼ぶことさえ叶わず。
影のように、
風のように、
ただ、ここに居る。

貴方の瞳が映す景色の中、
何処を探しても、
俺は、きっと見つからない。
伸ばした指先は、
虚しく、空を切るだけ。

「好きです」と、
もし、言葉にしたなら、
その瞬間。
床に散らばる硝子細工の様に、
想いの全てが、
砕けるだろうから。

それならば――
何も語らず、告げず。
ただ、貴方の傍で、
透明なまま、
静かに消えていけたら。

夜が深く沈むほどに、
俺の輪郭は薄れていく。
まるで月の欠片が、
静かに溶けていくように。

それは、哀しい程に透明で。
だから、俺は、そっと微笑む。
……貴方が振り向くことのない、
この世界の片隅で。

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