霜月 朔(創作)

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3/13/2025, 6:38:33 AM

終わり、また初まる、


冷たい雨が降る夜に、
私達はお互いを支える様に、
立っていました。
世界が終わりを迎えるのを、
空から眺めているかのように、
静かに、穏やかに。

心の底まで染みる、冷たい風。
それでも貴方の指は、
とても温かくて。
「行きましょう。」
私が微笑みながら囁くと、
貴方は頷いてくれました。

凍るような青い月の下。
私達は深く沈んでいくのです。
光も音も届かぬ場所へ。
二人だけの、最後の楽園へ。

赤い花が散るように、
生と死の匂いが漂う中で、
私がそっと貴方の名を呼ぶと、
貴方は、ただ微笑んでくれました。
この世の終わりを知らせる様に。

目を閉じると、
時間が溶けていきます。
痛みも、苦しみも、全て流れ、
揺らいで消えていきます。

でも。
私は知っています。
――これは、
終わりではないことを。

漆黒の闇が、優しく、
私達を包み込みます。
私達は一つになり、
再び生まれるのです。
この深い闇の何処かに。

そう。私達は…。
終わり、また始まるのです。

貴方は私の全て。
私は貴方の全て。
だから…。
私だけを見ていてくださいね。


3/12/2025, 8:37:12 AM





夜が深まるほどに、
星は輝きを増し、
無数の欠片が、
空を流れていきます。

闇は静かで、穏やかで。
全てを、優しく、
包み込んでくれます。
何も語らず、
私の罪を責めることもなく、
血に塗れた手さえも、
そっと隠してくれるのです。

私は独り、
闇に溶け込みながら、
その静寂に安堵します。

ただひとつの温もりに、
触れたいと願うことすら、
私には許されず、
私の指先は、
虚空を彷徨うだけ。

冷たい輝きが、目に焼き付き、
胸の奥が、鈍く疼きます。
私には、愛しい貴方の、
名前を呼ぶことさえ出来ず、
ただ、空を見上げることしか、
出来ないのです。

ひとつ、またひとつと、
夜の中で砕けていく星。
それは何も照らさず、
何も変えず、
ただ暗闇の中で輝き、
そして、消えていきます。

何故…。
触れる事が出来ないものばかりが、
こんなにも、美しいのでしょうか。

3/10/2025, 5:10:30 PM

願いが1つ叶うならば



夜の帳に身を潜め、
君と交わした、秘密の誓い。

この想いは、炎のように、
燃えてはならないと、
知りながらも、
消すことなんて、出来なかった。

指が触れた刹那、
胸を裂くような、疼きが走った。
刹那に溺れていた、
遠い…過去。

そう。
今の私には、もう、
恋人の腕に眠る君を、
遠くで見詰める事しか、
出来ないんだ。

叶うならば、
もう一度、この手に、
君を抱き締めて眠りたい。

君が私を、
寂しさを埋める止まり木として、
求めてくれた、あの頃。
君に溺れながら、
夜明けが来なければいいのにと、
何度願ったか、分からない。

けれど、朝日は残酷で。
君は、振り返る事もなく、
"正しい"場所へと、
帰っていった。

だから、願いが1つ叶うならば。
どうかこの恋を、罪ではなく、
愛と呼ぶことを、赦して欲しいんだ。


3/9/2025, 11:13:40 PM

嗚呼



哀しい程に、
静かな夜だった。

細い月が浮かび、風さえ眠る。
ただ、二人の時間だけが、
ゆっくりと、
それでいて残酷に、
流れていた。

君は微笑んでいた。
傷だらけの手を伸ばし、
そっと、私の指を絡める。

「怖くないのですか?」
君の最期の問いに、
私は静かに首を振る。
すると、君は、
柔らかく微笑んだ。

怖い筈がない。
もう、何も要りはしない。
明日も、痛みも、
希望さえも。

ただ――
君に微笑んでいて欲しい。
それだけが、
私の願いだった。

この醜く、残酷な世界で、
これ以上、君が傷付くことに、
耐えられなかった。

君を護れなかった私を、
どうか、赦して欲しい。
その情けない詫び言は、
言の葉になれず、
夜の闇に霧散する。

冷たい水面に映る、
静かに寄り添う二つの影。
揺らめき、溶けて、
やがて、ひとつになる。

「ずっと、一緒ですよ。」
君の声が、遠ざかっていく。

嗚呼――
なんて、美しい夜だろう。

3/8/2025, 6:09:26 PM

秘密の場所



ひび割れた石の階段を、
そっと降りると、
冷たい静寂が、ゆっくりと、
心を締め付けます。

この秘密の場所には、
誰も知らない時間があります。
古びた椅子に腰を下ろすと、
微かな灯りが、
柔らかな影を揺らします。

ここには、まだ、
貴方が微笑んでいた、
あの日の言葉が、
静かに息衝いているのに、
私の想いは、行き場をなくし、
冷たい空気に溶けていきます。

閉ざされた扉の向こうでは、
季節が巡り、時が流れ、
全てが変わってしまったのに、
この場所だけは、
何ひとつ変わらず、
時を止めたままでいます。

どんなに願っても、
声は記憶の彼方に消えていき。
どんなに探しても、
微笑みは時に溶けてしまい。
どんなに手を伸ばしても、
温もりは戻らなくて。

叶わないと、知りながらも、
それでも私は、
ここへ戻ってきてしまうのです。

この秘密の場所だけが、
まだ、貴方との絆を、
覚えているから……。

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