嗚呼
哀しい程に、
静かな夜だった。
細い月が浮かび、風さえ眠る。
ただ、二人の時間だけが、
ゆっくりと、
それでいて残酷に、
流れていた。
君は微笑んでいた。
傷だらけの手を伸ばし、
そっと、私の指を絡める。
「怖くないのですか?」
君の最期の問いに、
私は静かに首を振る。
すると、君は、
柔らかく微笑んだ。
怖い筈がない。
もう、何も要りはしない。
明日も、痛みも、
希望さえも。
ただ――
君に微笑んでいて欲しい。
それだけが、
私の願いだった。
この醜く、残酷な世界で、
これ以上、君が傷付くことに、
耐えられなかった。
君を護れなかった私を、
どうか、赦して欲しい。
その情けない詫び言は、
言の葉になれず、
夜の闇に霧散する。
冷たい水面に映る、
静かに寄り添う二つの影。
揺らめき、溶けて、
やがて、ひとつになる。
「ずっと、一緒ですよ。」
君の声が、遠ざかっていく。
嗚呼――
なんて、美しい夜だろう。
3/9/2025, 11:13:40 PM