霜月 朔(創作)

Open App

秘密の場所



ひび割れた石の階段を、
そっと降りると、
冷たい静寂が、ゆっくりと、
心を締め付けます。

この秘密の場所には、
誰も知らない時間があります。
古びた椅子に腰を下ろすと、
微かな灯りが、
柔らかな影を揺らします。

ここには、まだ、
貴方が微笑んでいた、
あの日の言葉が、
静かに息衝いているのに、
私の想いは、行き場をなくし、
冷たい空気に溶けていきます。

閉ざされた扉の向こうでは、
季節が巡り、時が流れ、
全てが変わってしまったのに、
この場所だけは、
何ひとつ変わらず、
時を止めたままでいます。

どんなに願っても、
声は記憶の彼方に消えていき。
どんなに探しても、
微笑みは時に溶けてしまい。
どんなに手を伸ばしても、
温もりは戻らなくて。

叶わないと、知りながらも、
それでも私は、
ここへ戻ってきてしまうのです。

この秘密の場所だけが、
まだ、貴方との絆を、
覚えているから……。

3/8/2025, 6:09:26 PM