霜月 朔(創作)

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透明



触れることも出来ず。
名を呼ぶことさえ叶わず。
影のように、
風のように、
ただ、ここに居る。

貴方の瞳が映す景色の中、
何処を探しても、
俺は、きっと見つからない。
伸ばした指先は、
虚しく、空を切るだけ。

「好きです」と、
もし、言葉にしたなら、
その瞬間。
床に散らばる硝子細工の様に、
想いの全てが、
砕けるだろうから。

それならば――
何も語らず、告げず。
ただ、貴方の傍で、
透明なまま、
静かに消えていけたら。

夜が深く沈むほどに、
俺の輪郭は薄れていく。
まるで月の欠片が、
静かに溶けていくように。

それは、哀しい程に透明で。
だから、俺は、そっと微笑む。
……貴方が振り向くことのない、
この世界の片隅で。

3/14/2025, 6:28:59 AM