霜月 朔(創作)

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2/28/2025, 7:17:38 AM

cute!


一片の灯が揺れるたび、
胸の奥で、
そっと響く小さな音。

貴方はまるで、
風に舞う花びらのように、
軽やかに、華やかに、
世界を歩いてゆきます。

ですが、私は。
微笑みの向こう側に立ち、
ただ、貴方を、
見つめるだけなのです。

小さく名前を呼んでも、
想いは風に攫われて。
"I've always thought you were cute!"
こんな、単純な言葉さえも、
届くことのないまま、
消えていきます。

美しいものほど、遠く。
可愛いものほど、脆く。
穢れたこの手では、
触れることさえ、
叶わないのです。

それでも、貴方は、
今日も変わらず、
無邪気な輝きを纏い、
私の知らない明日へと、
歩いてゆくのです。

何も知らずに、
ただ、微笑んで。

2/27/2025, 7:19:53 AM

記録



ひび割れた硝子の様な、
静かな深夜。
月の光は、ただ冷たい。

机上のノートに、
滲むインク。
記された名前は、
いつも同じ。

指先でなぞる、
貴方の名前。
貴方への想いは、
言葉になれず、露と消え、
決して、響かない。 

夢の中。
夜の闇に滲む横顔。
光と影の狭間に咲く、
貴方の微笑み。

決して触れられない。
それが、俺を、
深く切り裂いていく。
貴方の微笑みは、
他の誰かの物だから。

朝が来れば、消えていく、
名もなき恋の断片たち。
記憶の隅に沈めて、
幾度も記すのに、
言葉は貴方へ届かない。
インクが涙のように滲むだけ。

硝子の破片を抱き締めて、
今日もただ記すだけ。
…届かぬままの言葉たちを。
記録という檻の中に。

2/26/2025, 8:54:45 AM

さぁ冒険だ



月のない夜。
独り、彷徨います。
影だけは、静かに、
私に寄り添ってくれます。

冷えた指先に、
貴方の温もりを探します。
ですが、もう、
幻すら残っていないのです。

貴方は笑っていました。
最期の瞬間まで。
なのに、
貴方の瞳に映る私は、
狂気に染まったまま、
貴方に刃を向けていました。

私の手で、
余りに醜悪なこの世界から、
救われた貴方は、
赤に染まり、
とても美しく、愛おしくて。

闇が深く、深く、
私を飲み込んでいきます。
愛しい貴方を想うたび、
私は私でなくなっていくのです。

「さぁ、冒険だ」と嘯きながら、
貴方の温もりを求めて、
私は漆黒の森を、
彷徨い歩くのです。


2/25/2025, 9:50:13 AM

一輪の花




ひび割れた記憶の中、
一片の風に揺れる花。
煤けた空の下、
寂しげに、だが、気高く。

嘗てこの手に抱いたものは、
血のように紅い温もりか、
それとも、名もなき祈りか。
今となっては、知る術もない。

罪は枯れず、赦しも芽吹かず。
頬を掠める冷たい風が、
遠い日の幻を運んでくる。

嗤うがいい、嘲るがいい。
この心は既に、生きてなどいない。

だが、あの日の
たった一つの誓いだけは、
この一輪の花の姿で、
今もここに、咲いている。

赤く、紅く。
咲くのは、一輪の花。
花の揺らめきに映るのは、
お前の面影。唯一の想い出。

儚く、静かに。
それでも、決して散ることなく、
咲き続ける。

2/24/2025, 4:45:05 AM

魔法



静寂の中、
ひとひらの雪が落ちる。
指先に触れ、すぐ消える。
まるで私たちの愛のように、
儚く、脆く、熱に消えるんだ。

「愛してる。」
それは呪いの言葉だったのか。
囁くたびに、君は遠ざかる。
私の声が届くたびに、
君は遠くへ離れていく。

かつて君は、
私を見詰めてた。
冬の湖のような静かな瞳で。
けれど、その光はもう、
私を映さない。
冷たい硝子の向こう側で、
君は私に背を向ける。

だから私は、
君の背中に魔法をかけた。
時よ戻れ、と。
切なる願いを込めて。
この手が触れた最後の瞬間を、
永遠に閉じ込めるために。

君は微笑んだまま、動かない。
嘗て私を愛した証として、
永遠を生きるんだ。
けれど、私は知っている。
それはただの幻だと。

魔法はいつか解ける。
君は私の腕の中で消え、
私は独り、取り残される。
この、醜くて残酷な、現し世に。


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