cute!
一片の灯が揺れるたび、
胸の奥で、
そっと響く小さな音。
貴方はまるで、
風に舞う花びらのように、
軽やかに、華やかに、
世界を歩いてゆきます。
ですが、私は。
微笑みの向こう側に立ち、
ただ、貴方を、
見つめるだけなのです。
小さく名前を呼んでも、
想いは風に攫われて。
"I've always thought you were cute!"
こんな、単純な言葉さえも、
届くことのないまま、
消えていきます。
美しいものほど、遠く。
可愛いものほど、脆く。
穢れたこの手では、
触れることさえ、
叶わないのです。
それでも、貴方は、
今日も変わらず、
無邪気な輝きを纏い、
私の知らない明日へと、
歩いてゆくのです。
何も知らずに、
ただ、微笑んで。
記録
ひび割れた硝子の様な、
静かな深夜。
月の光は、ただ冷たい。
机上のノートに、
滲むインク。
記された名前は、
いつも同じ。
指先でなぞる、
貴方の名前。
貴方への想いは、
言葉になれず、露と消え、
決して、響かない。
夢の中。
夜の闇に滲む横顔。
光と影の狭間に咲く、
貴方の微笑み。
決して触れられない。
それが、俺を、
深く切り裂いていく。
貴方の微笑みは、
他の誰かの物だから。
朝が来れば、消えていく、
名もなき恋の断片たち。
記憶の隅に沈めて、
幾度も記すのに、
言葉は貴方へ届かない。
インクが涙のように滲むだけ。
硝子の破片を抱き締めて、
今日もただ記すだけ。
…届かぬままの言葉たちを。
記録という檻の中に。
さぁ冒険だ
月のない夜。
独り、彷徨います。
影だけは、静かに、
私に寄り添ってくれます。
冷えた指先に、
貴方の温もりを探します。
ですが、もう、
幻すら残っていないのです。
貴方は笑っていました。
最期の瞬間まで。
なのに、
貴方の瞳に映る私は、
狂気に染まったまま、
貴方に刃を向けていました。
私の手で、
余りに醜悪なこの世界から、
救われた貴方は、
赤に染まり、
とても美しく、愛おしくて。
闇が深く、深く、
私を飲み込んでいきます。
愛しい貴方を想うたび、
私は私でなくなっていくのです。
「さぁ、冒険だ」と嘯きながら、
貴方の温もりを求めて、
私は漆黒の森を、
彷徨い歩くのです。
一輪の花
ひび割れた記憶の中、
一片の風に揺れる花。
煤けた空の下、
寂しげに、だが、気高く。
嘗てこの手に抱いたものは、
血のように紅い温もりか、
それとも、名もなき祈りか。
今となっては、知る術もない。
罪は枯れず、赦しも芽吹かず。
頬を掠める冷たい風が、
遠い日の幻を運んでくる。
嗤うがいい、嘲るがいい。
この心は既に、生きてなどいない。
だが、あの日の
たった一つの誓いだけは、
この一輪の花の姿で、
今もここに、咲いている。
赤く、紅く。
咲くのは、一輪の花。
花の揺らめきに映るのは、
お前の面影。唯一の想い出。
儚く、静かに。
それでも、決して散ることなく、
咲き続ける。
魔法
静寂の中、
ひとひらの雪が落ちる。
指先に触れ、すぐ消える。
まるで私たちの愛のように、
儚く、脆く、熱に消えるんだ。
「愛してる。」
それは呪いの言葉だったのか。
囁くたびに、君は遠ざかる。
私の声が届くたびに、
君は遠くへ離れていく。
かつて君は、
私を見詰めてた。
冬の湖のような静かな瞳で。
けれど、その光はもう、
私を映さない。
冷たい硝子の向こう側で、
君は私に背を向ける。
だから私は、
君の背中に魔法をかけた。
時よ戻れ、と。
切なる願いを込めて。
この手が触れた最後の瞬間を、
永遠に閉じ込めるために。
君は微笑んだまま、動かない。
嘗て私を愛した証として、
永遠を生きるんだ。
けれど、私は知っている。
それはただの幻だと。
魔法はいつか解ける。
君は私の腕の中で消え、
私は独り、取り残される。
この、醜くて残酷な、現し世に。