霜月 朔(創作)

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一輪の花




ひび割れた記憶の中、
一片の風に揺れる花。
煤けた空の下、
寂しげに、だが、気高く。

嘗てこの手に抱いたものは、
血のように紅い温もりか、
それとも、名もなき祈りか。
今となっては、知る術もない。

罪は枯れず、赦しも芽吹かず。
頬を掠める冷たい風が、
遠い日の幻を運んでくる。

嗤うがいい、嘲るがいい。
この心は既に、生きてなどいない。

だが、あの日の
たった一つの誓いだけは、
この一輪の花の姿で、
今もここに、咲いている。

赤く、紅く。
咲くのは、一輪の花。
花の揺らめきに映るのは、
お前の面影。唯一の想い出。

儚く、静かに。
それでも、決して散ることなく、
咲き続ける。

2/25/2025, 9:50:13 AM