ココロ
夜の静寂に沈む部屋。
私と貴方だけの、
小さな世界。
貴方を失い、
私の胸は、
空っぽになりました。
嘗て、ここにあった筈の鼓動は、
何処か遠くへ、
消えてしまったのでしょうか。
それとも――最初から、
存在しなかったのでしょうか。
風が吹いても、雨が降っても、
私は何も感じません。
ただ、世界が動いていくのを、
ぼんやりと眺めているだけ。
遠くで、誰かが、
私の名前を呼んだ気がしました。
けれど、それはもう、
私には何の意味もない事。
この身体は、ただの器。
この瞳は、ただのガラス玉。
私がココロを失ったのは、
いつだったのでしょう。
それは、きっと――
貴方の全てを、
私のものにしようと、
その温もりを奪ったあの日。
だって、私のココロは、
貴方がくれたもの。
…だったのですから。
星に願って
夜の帳が降りるたび、
独り、空を見上げる。
星に託す願いは、
叶う筈もないと知りながら。
全て、棄ててしまいたい。
温もりを知ってしまった過去も、
義務と過ちに縛られる現在も、
闇に覆われ、光の見えぬ未来も。
「あの頃に戻れたなら。」
許される筈のない願いを、
星はただ、静かに見下ろす。
願う程に、遠ざかる。
ならば、いっそ。
全てを消してしまいたい。
記憶も、意識も、
この存在さえも。
だから、星に願って、
静かに目を閉じる。
その輝きが、
冷たい刃となり、
この胸を貫き…。
全てを。
終わらせては、くれないか。
君の背中
君の背中が、
遠ざかっていく。
冷たい風の中で、
声すら、もう届かない。
並んで歩いていた筈なのに、
いつの間にか、
俺は影になって、
君の光に溶けていたんだ。
君は笑う。
迷いもなく、振り返りもせず。
その眩しさに、
俺は目を細めることしか、
出来ないんだ。
肩を叩ければ。
名前を呼べれば。
そんな小さな願いさえ、
この距離は許してくれなくて。
君の背中は、
遠くなるばかり。
伸ばした手が、
風を掴むたび、
指の隙間から、
想いが溢れ落ちる。
君は光の中を歩いていく。
俺は影の中に立ち尽くす。
もう追いかけることさえ、
出来はしない。
だから、せめて。
君の背中が、
見えなくなる、その瞬間まで、
この目で、君を見届けさせて。
遠く....
夜の帳が降りる頃、
静かな部屋で独り、
手のひらを見つめます。
貴方の影が遠く揺れ、
そして、滲んでいきます。
声が届かない距離で、
目を閉じ、浮かぶのは、
記憶の中の貴方の笑顔と、
遠くに響く足音だけ。
どれほど貴方を想っても、
決して届くことは、
ありません。
夜風が窓を叩く音、
心の奥で軋む音、
貴方を想うたびに、
胸が締め付けられます。
ですが、私は
只の影に過ぎません。
貴方の側に立つ事は、
赦されず、
ただ、静かに見守るだけ。
それが私の役目だと、
分かっていた筈なのに、
どうしても、
この胸の痛みは、
消えてはくれません。
星空に願いを込めます。
どうか貴方が、
ほんの少しでも、
私のこの想いに、
気付いてくれるように、と。
けれど、それは幻。
手の届かないもの。
触れてはいけないもの。
遠く、遠く....。
貴方の世界を眺めながら、
私は独り、
静かに溶けていきます。
誰も知らない秘密
心の隙間に沈む影。
名前も呼べない、
愛しい君の声。
触れられない、
距離に佇みながら、
ただ、心だけを、
焦がしているんだ。
灯りが揺らす面影に、
何度も嘘を重ねた。
「忘れた」と、
「もう平気だ」と。
――それでも。
胸は疼きは消えないんだ。
君が笑う、その隣で、
選ばれた誰かがいる。
俺の存在は霧のように、
君の記憶の彼方に、
消えていくんだ。
叫ぶことすら、
許されなくて。
この痛みは、誰も知らない。
夜が深まるたびに、
募っていくのは、
報われぬまま、朽ちる想い。
せめて夢の中で、
君の指先に触れられたなら。
けれど、この想いは、
朝が来る前に、
そっと、闇へ埋めよう。
君への想いは、
誰も知らない秘密だから。