変わらないものはない
世の中は、
目紛るしく移り変わる。
その流れに翻弄される、
情けない俺がいる。
この世界で、
変わらないものはない。
人の心は、残酷に姿を変え、
昨日の笑顔が、今日は刃となる。
積み上げてきた、常識さえも、
時の流れに朽ちていき、
脆くも崩れ去っていく。
変わらないと思っていた、
心の奥底に眠る、
お前への想いさえも、
知らぬ間に、
その形を変えていた。
美しく移ろいゆく季節に、
目を細めるお前を見つめながら、
俺の胸の痛みは、
募るばかりだ。
そうだ。この世には、
変わらないものはない。
けれど、
お前への想いだけは違う。
初めてお前と会ったあの日から、
それは、少しずつ膨らみ、
形を変えながらも、
ずっと俺の中で、
息衝いている。
もう、
隠し通すことなど、
出来ないのかも知れない。
それでも、俺は。
お前への想いを、必死に押し隠す。
…決して伝える事は赦されない、
お前への、この想いを。
……………
世の中は、
目まぐるしく移り変わる。
その流れに翻弄される、
哀れな俺がいる。
この世界で、
変わらないものはない。
人の心は表から裏へと裏返り、
優しさは黒い闇に姿を変える。
俺を形作ってきた常識さえ、
気付けば、誰も目もくれない、
時代遅れの残渣なんだ。
変わらないと思い込んでいた、
心の奥底に隠してきた、
君への想いさえも、
知らない間に、
その形を変えていたんだ。
巡り来る季節の欠片に、
目を奪われる君を見つめる度、
俺の胸の軋みは、
益々、強くなるんだ。
そうだ。この世に、
変わらないものはない。
だけど、
君への想いだけは違うんだ。
あの日、君と出会った瞬間から、
それは、少しずつ育って、
形を変えながらも、
ずっと俺の中で、
生き続けているんだ。
もう、
隠し通すことなんて、
出来ないのかも知れない。
それでも、俺は、
この想いを、必死に胸に隠すんだ。
…決して伝えてはいけない、
君への、この想いを。
クリスマスの過ごし方
今夜は街の灯りが、
やけに眩しく感じる。
何時もより楽しげに賑わう、
街の人の声が耳を刺す。
私は、薄暗い部屋に独り、
静かに座る。
世間の楽しげな声に、
背を向けて。
ワイングラスに注いだ、
仄暗い真紅の液体が、
今夜ばかりは、貴方を思い出させて、
胸が鋭く、ズキッと痛む。
窓の外、雪が降り積もる。
白い息を吐く恋人たち。
あの頃の貴方の笑顔が、
ガラス越しにちらつく。
そんな光景から、目を逸らす。
貴方が隣に居た頃は、
あんなに待ち遠しかった、
この聖なる日も、
今となっては、虚しいばかり。
カレンダーの赤い印さえ、憎らしい。
ツリーもなく、プレゼントもなく、
貴方の温もりもない。
ただ、この冷たい空気だけがある、
この静かな部屋で。
貴方が、私を赦してくれる日が、
私の隣でまた微笑んでくれる日が、
訪れることを、独り、願う。
そんな、クリスマスの過ごし方。
何度、繰り返しても、
貴方の居ないクリスマスには、
慣れる事はなくて。
毎年訪れるクリスマスの夜は、
冷たく突き刺さる刃物のように、
私に孤独を実感させる。
好物の筈のワインも、
今夜だけは、酷く苦くて。
それを飲み干し、夜をやり過ごす。
明日になれば、
この聖なる日の痛みは、消える筈。
そう信じながら、独り、
柔らかい睡魔の訪れを待つんだ。
イブの夜
寒い冬の夜、
凍える街灯が、
吐く息の白さを、照らしている。
家々には暖かな明かり。
その光はまるで、
物語の中の幸せな家族の様だ。
いつもより明るく厳かに、
教会から聞こえるのは、
救い主の生誕を祝う讃美歌か。
『神はその独り子をお与えになったほどに、
世を愛された。』
イブの夜、静かに鳴り響く、
教会の鐘はそう告げる。
だが、俺は知っている。
神の愛など、届かぬ場所があることを。
悪魔の微笑みさえ、
時に救いに思える事を。
俺の手は、真っ赤に染まっている。
裏切り、憎しみ、そして愛。
その血飛沫は、心まで侵食し、
魂さえ、黒く穢れてしまった。
神にも天使にも歯向かい、
悪魔さえ謀って生き抜いた。
そんな俺を、イブの夜は、
殊更忌み嫌うだろう。
ならば、イブの夜、
クリスマスキャロルに背を向け、
独り、冬の街を彷徨い歩こう。
こんな俺を赦してくれる、
居場所を求めて。
プレゼント
俺の手元には、
君の為に用意した、
2つのプレゼント。
ひとつは、
友達の君に贈るもの。
よくある友達へのプレゼント。
君に対する、この気持ちを、
ひた隠しにして選んだ、
精一杯の「普通」の贈り物。
もうひとつは、
ずっと心にしまっていた、
想いを伝える為のプレゼント。
君にこの気持ちを知って欲しくて、
初めて勇気を出して選んだ贈り物。
本当は、君に憧れていたんだ。
初めて君と会ったあの日から。
伝えたくて、でも言えなくて。
言葉にできない想いだけが、
ずっとずっと積み重なって、
静かに胸を締めつけてる。
クリスマスの夜に、
俺が君に渡せるのは、
「友達として」の、
プレゼントだけだろう。
本当の気持ちを込めた、
もうひとつの贈り物は、
きっと俺の手元に、
残ったままになるだろう。
数日後、俺の部屋には
一つだけ残されたプレゼント。
それは、
叶わなかった恋を静かに語る、
俺だけの…クリスマスの記憶。
ゆずの香り
冷たい、冬の夜。
街灯が雪に溶け込む様に、
白い吐息が空に漂います。
貴方の腕に抱き竦められた時、
ゆずの香りが、
ふわりと私を包みました。
貴方らしくない、ゆずの香りに、
胸の奥がチクリと疼きます。
貴方の向こうに、私ではない人の影。
『愛してる』
貴方の、その言葉を聞く度に、
甘い毒が、私を侵していきます。
それでも…。
ゆずの香りが、言葉よりも重く、
私に告げるのです。
貴方は私だけのものではない、と。
誰と過ごしたのですか?
それを、貴方に尋ねる事は、
私には出来なくて。
彼の腕の中で、胸の痛みを堪え、
無理矢理、微笑んで見せます。
分かっていた筈なのに。
私は、貴方にとって、
別れた恋人を忘れる為の、
抱き枕に過ぎない、と。
なのに、私は。
貴方から愛されたいと、
願ってしまったのです。
ゆずの香りに、
気付かない振りをして、
私は貴方の温もりに、
溺れて行きます。
明日の朝には、貴方の為に、
私の好きな紅茶を淹れましょう。
貴方を包む、ゆずの香りを、
打ち消すように。