ゆずの香り
冷たい、冬の夜。
街灯が雪に溶け込む様に、
白い吐息が空に漂います。
貴方の腕に抱き竦められた時、
ゆずの香りが、
ふわりと私を包みました。
貴方らしくない、ゆずの香りに、
胸の奥がチクリと疼きます。
貴方の向こうに、私ではない人の影。
『愛してる』
貴方の、その言葉を聞く度に、
甘い毒が、私を侵していきます。
それでも…。
ゆずの香りが、言葉よりも重く、
私に告げるのです。
貴方は私だけのものではない、と。
誰と過ごしたのですか?
それを、貴方に尋ねる事は、
私には出来なくて。
彼の腕の中で、胸の痛みを堪え、
無理矢理、微笑んで見せます。
分かっていた筈なのに。
私は、貴方にとって、
別れた恋人を忘れる為の、
抱き枕に過ぎない、と。
なのに、私は。
貴方から愛されたいと、
願ってしまったのです。
ゆずの香りに、
気付かない振りをして、
私は貴方の温もりに、
溺れて行きます。
明日の朝には、貴方の為に、
私の好きな紅茶を淹れましょう。
貴方を包む、ゆずの香りを、
打ち消すように。
12/23/2024, 7:39:50 AM