霜月 朔(創作)

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イブの夜



寒い冬の夜、
凍える街灯が、
吐く息の白さを、照らしている。
家々には暖かな明かり。
その光はまるで、
物語の中の幸せな家族の様だ。

いつもより明るく厳かに、
教会から聞こえるのは、
救い主の生誕を祝う讃美歌か。

『神はその独り子をお与えになったほどに、
世を愛された。』
イブの夜、静かに鳴り響く、
教会の鐘はそう告げる。

だが、俺は知っている。
神の愛など、届かぬ場所があることを。
悪魔の微笑みさえ、
時に救いに思える事を。

俺の手は、真っ赤に染まっている。
裏切り、憎しみ、そして愛。
その血飛沫は、心まで侵食し、
魂さえ、黒く穢れてしまった。

神にも天使にも歯向かい、
悪魔さえ謀って生き抜いた。
そんな俺を、イブの夜は、
殊更忌み嫌うだろう。

ならば、イブの夜、
クリスマスキャロルに背を向け、
独り、冬の街を彷徨い歩こう。
こんな俺を赦してくれる、
居場所を求めて。

12/25/2024, 7:00:39 AM