一筋の光
俺は暗闇の底にいた。
全てを失い、
抜け殻の様に斃れていた。
何も残ってはいなかった。
最愛の友も、希望も、信念も、
…生きる意味さえも。
憎しみが俺を支配する。
全てを壊したい。
心の奥底から湧き上がる衝動が、
この世界を、不条理を、運命さえも、
破壊し尽くせと、俺を誘う。
神と刺し違えてでも、
終わりにしたい。
…そう願った。
俺は闇の中で、
全ての破滅を望む。
悪意が魂を蝕み、
悪魔が囁きかける。
その時。
一筋の光が、
鋭く闇を裂いた。
最後の希望にすがるように、
俺は、手を伸ばす。
「お前は、独りじゃない」
そんな声が、
聞こえた気がした。
哀愁を誘う
街が、山が、森が。
秋の燃えるような赤から、
冬の静かな茶へと、
静かにその姿を変えていく。
冷たさを増す風が、
木々の間を鋭く吹き抜ける。
番を失ったのだろうか。
一羽のカササギが、
淋しげに枝に留まり、
遠い空を見詰めている。
その孤独な姿に、
独りきりなのは、
私だけではないのだと、
哀愁を誘う景色に、
ふと、安堵する自分がいる。
繋いでいた手を振り解き、
自ら殻に閉じ籠もったのも、私。
再び差し伸べられた手に、
背を向けたのも、私。
吹き荒ぶ秋風の中、
私の手は冷たく、空虚だ。
だが、それは、
私自身が選んだ道だ。
空っぽの手で、
拳を握り締める。
彼の幸せを祈りながら、
彼とは、逆向きの未来を見据え、
私は独り、歩き出す。
鏡の中の自分
私が恋い焦がれる彼。
純粋な心、輝く瞳、
太陽のように眩しい笑顔。
手を伸ばしたくても、
罪に塗れ、穢れ切った私は、
彼の隣に立つ資格がない事は、
私自身が、よく知っています。
それでも、
心の底では、
彼の心が欲しいと、
願ってしまうのです。
密かに彼の姿を、
視線で追い掛け、
誰にも知られぬ様に、
想いを募らせるのです。
もし、本当に彼を愛しているなら、
この感情を封じ込め、
彼が、私ではない誰かと、
幸せになる事を、
祈るべきなのに…。
だから私は、
鏡の中の自分に、
そっと告げるのです。。
『彼の幸せを望むなら、
この恋は叶えてはなりません。』
その言葉は冷たく鋭く、
私の心に突き刺さります。
それでも、
彼が笑顔でいられるなら、
私は独りでいいと呟いて、
そっと、微笑みます。
なのに、
鏡の中の自分は、
滲んだ瞳で、ぽつりと、
涙を落としていました。
眠りにつく前に。
静かな夜の闇が、
街を優しく包む時刻。
私達は、刹那の恋人に変わる。
昼間は他の人に向けられる、
愛しい貴方の微笑みは、
今は、私だけのものになる。
心の奥底に沈んだ、
過ぎ去った恋の影に、
気付かぬふりをして、
貴方に向けて囁くのは、
甘く、切ない、愛の言葉。
貴方の温もりが、
心の傷を癒すと信じて。
私に儚い愛を求める貴方を、
この腕に抱いて、
私もまた、幻の恋に身を窶すんだ。
今だけは。
貴方は、私だけのもの。
私は、貴方だけのもの。
私達を引き裂くものは、
何もないから。
だから。
何もかも、分からなくなる位。
私に甘えて、そして、溺れて。
全てを忘れられる位、
貴方を愛してあげるから。
眠りに就く前に、
もう一度、抱きしめて。
もう一度、唇を重ねて。
貴方の温もりを、
私の記憶に刻む為に。
朝が来たら、
私達は只の友達に戻る。
それが、私達の定めだから。
永遠に
貴方は、私の全て。
だから、私は、
貴方の全てになりたいのです。
私は貴方の胸に、
冷たい銀の刃をそっと滑らせ、
引き抜きます。
貴方の胸から溢れ出す、
愛おしい、貴方の生命の赤。
静寂の中で、
私は貴方を抱き締めます。
力無く横たわる、
貴方の温もりを、
最後まで感じたいのです。
今にも消えそうな、
貴方の呼吸を、
全て受け止めたくて。
冷たくなった貴方の唇に、
そっと口付けます。
もう、大丈夫です。
貴方は私の手で、
永遠の安らぎを、
手に入れたのですから。
私は自らの胸に、
血に染まった刃を当て、
深く差し込みます。
鮮紅の流れは、
貴方の赤と一つになり、
二人を紅く染めていきます。
混じり合う赤は、
貴方への愛の誓いの証。
これで、貴方は、
永遠に――私のもの。
これで、私は、
永遠に――貴方のもの。
だから、私達は。
ずっとずっと。
一緒ですよ。