束の間の休息
生きるために罪を重ね、
人を傷付け、傷付けられ、
他人の屍を踏み越え、
卑怯にも、生きてきて。
傷だらけの身体、
血に塗れた手、
穢れきった魂。
こんなにも醜い、私。
そんな絶望の中で、
出逢った貴方は、
私が触れてはならない、
希望に煌めく橄欖石のよう。
もし、貴方が、
この醜く汚れきった、
世の中に疲れ果て、
身体を休める時は、
私が貴方を護りましょう。
私の腕が、貴方にとって、
束の間の休息の場所でも。
それで構わないのです。
貴方が、少しでも私を、
必要としてくれるなら、
私は幸せなのですから。
力を込めて
誰も居ない部屋。
薄明かりの中、
私は私に問い問い掛ける。
「何故、貴様は生きるのか?」
答えの見つからない問い。
冷たい風が心を凍らせる。
嘗て、大切な人と共に、
死地へと向かい、
絶望の闇を切り裂き、
背中を護り合った。
護るべき人を、
絶望から救い出し、
震えていた身体を、
強く抱き締めた。
だが、今やその想い出は、
遠い過去の幻影。
過ぎ去った日々が、胸を締め付け、
使命の鎖が私に重く伸し掛る。
命の重みに押し潰され、
生きる価値さえ見失う。
力を込めて、
絡み付く未練の鎖を断ち切る。
そして、静かに悪夢の中へ、
静かに静かに、沈んでいく。
…それでも。
愛しい君だけは、幸せである事を、
そっと願いながら。
過ぎた日を想う
透明な空気の中。
想い出の中の、
貴方の面影を追い求め、
孤独に震えていました。
何時帰るとも知れぬ貴方を、
私は独りきりの部屋で待ちながら、
過ぎた日々の記憶に、
揺蕩っていました。
貴方と見つめた空の色は、
心の奥に鮮やかに残り、
波音に乗せて、
静かに蘇ります。
でも。私は。
貴方が居ない孤独に、
耐えられなかったのです。
想い出の場所は、崩れ去り、
あの日の温もりは、
幻影となりました。
過ぎた日を想う事に、
疲れ切った私は。
何時からか、貴方を裏切り、
堕落した悪魔に成り果てました。
私は温もりを求めて、
貴方ではない、
他の人の腕で眠り、
仮初めの愛の言葉を交わしました。
私には、もう。
大切な貴方を想う資格も、
過ぎた日を想う資格も、
ありません。
さようなら。
誰よりも愛しい、
想い出の…貴方。
星座
ボクは独り、夜空を見上げた。
星たちは、何時も変わらず、
優しく、静かに瞬いてた。
夜空に一つずつ輝く星も、
線を繋げば、星座になって、
皆、誰かと繋がってる。
なのに。
ボクは…独りきり。
冷たい夜風が頬を撫でる。
何時か、ボクも、
誰かと繋がれるのかな?
こんなボクでも、
誰かの一部になれるのかな?
頭上に煌めく、星座みたいに、
誰かと形を成せるなら。
そんな、願いを抱いて、
星空を眺める。
見上げた空には、大熊座。
北斗七星を指でなぞる。
遠くで、誰かが、
同じ星を見てる気がした。
ボクは一人じゃない。
そう信じて。
そう信じたくて。
ボクはそっと、
夜空に手を伸ばした。
踊りませんか?
蒼く冷たい月明かりに照らされた、
静かな部屋で、
失われた愛を取り戻すかの様に、
記憶の中のあの人と踊る貴方。
夢と現実の狭間を彷徨う貴方は、
一人きり。
私と、踊りませんか?
私は、そっと声を掛けます。
虚空に響くその言葉に、
一瞬、貴方の動きが止まります。
遠い過去を探るように、
悲しみに濡れた、
貴方の蜂蜜色の瞳が、
ゆっくりと私を捉えました。
私はそっと手を差し出します。
貴方は儚げな笑みを浮かべて、
優しく私の手を取りました。
静かにステップを刻み始めます。
月明かりだけが、
私と貴方を優しく照らし、
冷たい夜の静寂の中、
私と貴方の影が、
一つに溶けていきます。
今、貴方と踊っているのは、
ずっと貴方の心に住み続けている、
あの方ではなく、私なのだと、
貴方に気付いて欲しくて。
私は貴方に身を任せるのです。