霜月 朔(創作)

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10/3/2024, 5:51:14 PM

巡り会えたら



俺とお前は。
同じ年に生まれ。
同じ国で育った。

だが。
裕福な家庭に育ったお前と、
貧しく荒んだ家庭で育った俺は、
住む世界が、余りに違い、
幼い頃に巡り会う事は無かった。

悲しく辛かった幼い頃に。
周りに裏切られたあの頃に。
お前に巡り会えていたら。
どんなに良かっただろう。

お互いが、こんな不幸な運命に、
雁字搦めになる前に、
お前と巡り会えていたら、
俺とお前は、
ごく普通の友人に、
そして、在り来りな恋人に、
なれたのだろうか。

だが。
それは叶わぬ夢。
俺とお前は、
酷く残酷な状況で、
巡り会ってしまった。

もしも。来世で、
再びお前と巡り会えたら。
俺はお前に手を差し出すから、
俺の手を取って欲しい。

そして、
俺はお前にこう言うんだ。
…今度こそ二人で幸せになろう。
と。

10/2/2024, 5:46:07 PM

奇跡をもう一度



目を覚ますと。
そこは、見覚えのある部屋。
重々しい石の壁に囲まれ、
小さい明かり取りの窓には、
冷たい鉄格子。

ここは…。
嘗て私が囚われていた場所。
悪夢の残骸。

私は、たった独り。
手も足も、鉄の鎖に繋がれ、
私の生殺与奪の権は、
見知らぬ誰かのもの。

助けて下さい、と、
ありったけの声を張り上げ、
身を捩ります。
しかし、他の人の気配は無く、
私の声が虚しく響くだけ。

嘗て囚われていた、
この部屋から抜け出し、
貴方に拾われた、あの日の様に。
奇跡が起こりはしないかと、
強く願い、叫びます。

奇跡をもう一度。

もう一度。
私を助けて下さい。
私を見つけて下さい。
私を抱きしめて下さい。

そして。
…私を愛して下さい。

10/1/2024, 5:16:06 PM

たそがれ


西の空が赤く染まる、
夕暮れ時は、何処か物悲しくて…。

塒に帰る烏達の鳴き声に、
二度と帰れない故郷を思い、
零れそうになる涙を堪え、
大きく息を吐きます。

黄昏。赤から橙、
そして、紫のグラデーション。
その刹那な時間に、
何故か悲しみが溢れます。

まるで黄昏泣きをする赤子の様に、
理由もなく、悲しみに支配され、
何の衒いも無く、
声を上げて泣くことが出来たなら。

ですが、貴方には、
本当の私を見せたく無いのです。
何故なら、貴方の前では、
私は理想の私で在りたいから。

だから、私は。
黄昏に、独り、
心の中で、泣くのです。

何時か…。
刹那な黄昏の時間に、
貴方の胸の中で、泣いてみたい。
そんな、気恥ずかしい願望は、
心の奥に鍵を掛けて、
無かった事にしましょう。

9/30/2024, 4:28:26 PM

きっと明日も


買い物の帰り道。
街中は綺麗な夕焼けの、
オレンジ色に染まってた。

街を行き交う人々は、
何処か急ぎ足。
きっと大切な人の待つ家に、
帰るんだろう。

だけど、俺は…。
独りぼっち。
俺の隣は、ずっと空いたまま。
失恋の傷跡がちくりと痛む。

空を見上げると。
夕焼け色の空は、
少しだけ夜に近付いてて、
一番星が、輝いてた。

だから。
『きっと明日も、
良い日になるよ』って、
涙堪えて、茜色の空を眺めて、
そっと、呟いてみる。

『ほらね?
さっき迄あんなに悲しかったのに、
不思議と元気が出て来たでしょ?』
俺は俺に、魔法をかける。

きっと明日も、
…良い天気。

9/29/2024, 5:56:51 PM

静寂に包まれた部屋



独り、書類に向かい合います。

窓の外は、夜の闇を纏い、
半月は、西の空へと傾き、
星々が煌めいています。

私の目の前には、
山程の領収証と帳簿。
見たくない赤い数字。
深夜になっても、
終わらない書類の山。

皆が寝静まる深夜。
襲い来る疲労感。
耐え難い眠気。
思わず、溜息が溢れます。

空に瞬く星の様な、
貴方の美しい瞳を。
初夏の木漏れ日の様な、
貴方の明るい微笑みを。
護る事が出来るのなら。

どんな辛い事も、
私は、耐える事が、
出来るのです。

夜の静寂に包まれた部屋に、
私の声が、小さく響きます。

普段は決して、
言の葉に乗せてはならない、
そんな想いを。
今だけは、口にする事を、
許して下さい。

貴方を…愛しています。

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