猫とモカチーノ

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6/4/2024, 9:30:19 AM

好きな人が死んだ。
性格には“殺された”というのが正しいのかもしれない。

私の好きな人は、遠い世界にいる人で、話すことも触れることもできない人。

カッコつけで自信家に見えて、それでも裏ではたくさん悩んで、まっすぐに生きている。

そんな彼が大好きだった。
側から見たら、現実見ろよって言われるかもしれないけど。
それでも、ずっとずっと大好きだった。

ある日、告げられた殺害予告。
「サービス終了のお知らせ」

頭を強く殴られたような、そんな衝撃が走った。

私の大好きな彼に、一生会えなくなってしまう。
片想いできるだけでも幸せだったのに、それすらもできなくなってしまう。

それかは時間が経つのが恐ろしく早くて、無情にもその日は来てしまった。

一方的に終わらせられた恋。

私は、これから何に縋って生きていけば良いのだろう。

……こんな気持ちになるなら、好きになんてならなければよかったのに。


お題『失恋』

6/2/2024, 3:44:03 PM

昔から、本音を言うのが苦手だった、

「あれがしたい」「これがいい」「それは嫌だ」
そんな簡単なことが言えなくて、周りに合わせることは一人前で。

自分を出さない方が大体上手くいくから。
本当の自分を見せなければ傷つくこともないから。

ずっと、そうやって生きてきたのにーー

「あんたはどうしたいんです?」

風変わりな彼が、私の目を見てそう問いかける。

いつも通り、周りに合わせて取り繕っていたのに。
私の意見なんて、伝えたところで大したものじゃないのに。

「わ、私は……」

本音を言おうとすると、声が震えて、言葉が詰まる。
今まで自分を出してこなかった罰だろうか。

「ゆっくりでいいですよ」

それなのにいつも、嫌な顔ひとつせずに私の言葉を、正直な気持ちを聞いてくれる。

「あんたのアイデアのおかげで助かりました。ナイスです」

私の考えをまっすぐに認めてくれる。

そんな彼に伝える、嘘偽りのない、私の正直な気持ち。

「私を見つけてくれてありがとう。あなたがいてくれてよかった」


お題『正直』

6/1/2024, 11:13:55 AM

私は、雨の日が好きだ。

雨の日特有のあの香り。
ポツポツと部屋の屋根を叩く音。
五月蝿いはずなのにどこか静かに感じられる。

そんな特別で素敵な日。

だけど、そう思ってるのは私だけみたいでーー

「うわぁ、今日も雨じゃん。もう梅雨入りかなぁ」
「マジで髪うねって調子悪いんだけど!せっかく綺麗に巻けたのに萎える」
「今日傘持ってきてないし、マジだるい〜」

みんなは雨が嫌いらしい。

(たしかに髪が崩れるのは嫌だけど、雨も悪くないのにな…)

まぁ、感じ方はそれぞれだから仕方ない。


それはさておき、こういう雨の日にだけやってみることがある。

放課後、人の寄りつかない秘密の空き教室。

その静かな空間で、少しだけ窓を開けて、そっと目を閉じて耳を澄ます。

そうすると雨の音が、香りが、全身で感じられるから好きだ。

 ガラガラガラ……

秘密の教室の扉を開けると、珍しく先客がいた。
見たことない男子生徒。おそらく下級生だろう。

「あっ、すみません」
「いえいえ、こちらこそ。この教室、使いますか?」
「いえ、他の教室を使うので大丈夫です。失礼しました……」
「あっ、待ってください。先輩、よくここに来てますよね。雨の日に」
「えっ」

なんでそんなことを知っているのだろう。
この人とは会ったことがないはずなのに。

「僕も、雨の音とか聴いてると落ち着くので、こういう日はよく残って勉強してるんです。毎回空き教室を探したりして」
「……!わ、私もこういう日はよく残ったりしてて、自分以外に雨が好きな人、初めて会いました。珍しいですね」
「先輩こそ」

そうして、少しだけ雨の話をして、雨に浸って、その日は帰った。

また雨の日は会えるかもしれない。
雨がたくさん降るこの季節、またひとつ、秘密が増えた。


お題『梅雨』

5/31/2024, 1:15:18 PM

「〇〇ちゃんって、本当に純真無垢!って感じだよね〜!」
「なんでそんなに優しいの!」

こういう言葉をよく言われる。

人に優しくすると感謝されて、所作を丁寧にすると清楚に見られる。
悪口を言わないように気をつければ、性格がいいと言われる。
みんながふざけて下品なことを言っている中で、困ったように笑えば純粋だと言われる。

そういう私を演じている。

だって、そうすればみんな私のことを嫌いにならないでしょう?

親切に穏やかに接して損はないから。

「心が綺麗だね」って、私の腹の中を知ってもそんなことが言えるのだろうか。

この世界で本当に無垢な人間は幼い子どもくらいだと思う。

無垢な人なんていない。そう見える人がいるなら、その人は“無垢を演じるのが上手い人”だろう。

「〇〇ちゃん、ありがとう!助かったよ〜!」
「純粋な〇〇ちゃんに変なこと言わないで!!」

今日も私は無垢な良い人を演じる。
真っ赤な嘘で塗り固められた、無垢な私を。


お題『無垢』

5/30/2024, 1:34:45 PM

その日、私は何も言わずに家を出た。

持ち物は、僅かな財産を詰め込んだ財布と電車に乗るためのICカードだけ。

時刻表も何も見ず、その時ちょうどきた電車に乗り込んだ。

行き先は決めていない。
気が済むまで、行けるところまで行こう。

田舎の電車は空いていて落ち着く。

ガタンゴトン

電車に揺られて、ぼーっと窓の外を眺める。

あぁ、自由ってこんなにも良いものなのか。
なんでもっと早く実行しなかったのだろう。

この小さな逃避行が、ずっと続くなんて思ってないけど。

今はもう少しだけ、この自由で終わりのない旅を楽しもう。


お題『終わりなき旅』

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