私は、雨の日が好きだ。
雨の日特有のあの香り。
ポツポツと部屋の屋根を叩く音。
五月蝿いはずなのにどこか静かに感じられる。
そんな特別で素敵な日。
だけど、そう思ってるのは私だけみたいでーー
「うわぁ、今日も雨じゃん。もう梅雨入りかなぁ」
「マジで髪うねって調子悪いんだけど!せっかく綺麗に巻けたのに萎える」
「今日傘持ってきてないし、マジだるい〜」
みんなは雨が嫌いらしい。
(たしかに髪が崩れるのは嫌だけど、雨も悪くないのにな…)
まぁ、感じ方はそれぞれだから仕方ない。
それはさておき、こういう雨の日にだけやってみることがある。
放課後、人の寄りつかない秘密の空き教室。
その静かな空間で、少しだけ窓を開けて、そっと目を閉じて耳を澄ます。
そうすると雨の音が、香りが、全身で感じられるから好きだ。
ガラガラガラ……
秘密の教室の扉を開けると、珍しく先客がいた。
見たことない男子生徒。おそらく下級生だろう。
「あっ、すみません」
「いえいえ、こちらこそ。この教室、使いますか?」
「いえ、他の教室を使うので大丈夫です。失礼しました……」
「あっ、待ってください。先輩、よくここに来てますよね。雨の日に」
「えっ」
なんでそんなことを知っているのだろう。
この人とは会ったことがないはずなのに。
「僕も、雨の音とか聴いてると落ち着くので、こういう日はよく残って勉強してるんです。毎回空き教室を探したりして」
「……!わ、私もこういう日はよく残ったりしてて、自分以外に雨が好きな人、初めて会いました。珍しいですね」
「先輩こそ」
そうして、少しだけ雨の話をして、雨に浸って、その日は帰った。
また雨の日は会えるかもしれない。
雨がたくさん降るこの季節、またひとつ、秘密が増えた。
お題『梅雨』
6/1/2024, 11:13:55 AM