「明日、もし晴れたら花火やろうか」
夫が不意にそんなことを言うと、子どもたちは目をキラキラさせて食いついた。
「ほんと!?やったー!花火だ〜!!」
「大きいやつ買ってね!あとロケット花火も!」
「はいはい、分かったよ〜。てことでママ、花火買ってくるわ」
「買いすぎはダメだからね。適量で!!」
「うぃ〜」
急遽決まった自宅での花火大会。
明日の予報は曇りだし、雨が降ることはよっぽどないだろう。
子どもたちはウキウキしながらてるてる坊主を作り始めるし、あれだけ念を押したのに夫は、1日ではとても使いきれない量の花火を買ってくるし。
まぁ、私も久しぶりに家族でやる花火に、心が躍っていないといえば嘘になるけど。
「明日、晴れるといいね」
お題『明日、もし晴れたら』
「あいちゃん、みんなと遊ばないの?」
「うん、いまつみきしてるからいい」
「そっかぁ……」
小さい頃から、一人でいることが多かった。
友達が居ないってわけじゃなかったけれど、その時自分がやりたいと思うことが一人でやりたいことだったから、自然と一人になっていた。
(なんでみんなともだちとあそべっていうんだろう?)
私自身はやりたいことができているので、特に苦に思っていなかったけれど、先生とか親にはやたら心配されていた記憶がある。
まぁ、周りから見たら孤立して周りに馴染めていない子に見えたのかもしれないけれど。
小学校もそうやって好きなことをして生きる自由人だったけれど、中学生になってからはそうもいかなくなった。
「ねぇ、トイレ行こうよ!」
「えっ、い、いいけど……」
女の子はどこに行くにも一緒にいないと落ち着かないらしい。
トイレ、移動教室、登下校など、常に誰かと一緒で、本当はお絵描きがしたいし本を読んだりもしたかったけど、枠から外れると浮いちゃうので合わせた。
友達のことも好きだったし、一緒にいるのは楽しかったけど、少し窮屈だった。
高校生もそんな感じで過ごして、ようやく人に合わせることになれていた。
大人になるってこういうことなんだなと、なんとなく思ったのを覚えている。
でも、大学生になってからは、不思議なことにまた一人の時間が増えた。
友だちはできたけど、授業が同じになることはせいぜい2年生くらいまでで、だんだんと一人で講義を受けたり、昼食を食べることが増えた。
「自由に時間が使えるってこんなに楽しかったっけ!」
友だちと話すのも、ごはんを食べるのも好きだったけど、空きコマに好きなことをするのはやっぱり楽しかった。
多分、私はどうしてもどこかで一人好きなことに没頭する時間が必要な人間なんだろう。
だってこんなにも楽しいんだから。
だから、私は一人でいたい。
でも、たまには人とも関わりたいな、寂しいから。
お題『だから、一人でいたい。』
ある日、お母さんがいなくなっちゃった。
前から帰ってこないことは多かったけれど、その日は朝になってもお母さんは帰ってこなくて、次の日も、その次の日も帰ってこなかった。
「おかあさん、ぼくのこと捨てちゃったの……?」
お父さんはお母さんよりもずっと前に出て行っちゃったから、ぼくは今家にひとりぼっち。
お母さんがいなくなった日、いつもよりも多く渡されたごはんのお金を使って、コンビニにお菓子を買いに行く。
ポテトとか唐揚げも美味しそうだったけど、お菓子の方が安いから、いっぱい食べれるんだ。
「ぼく、今日も1人?服もずっと同じだし、何かあったの?」
コンビニのお姉さんがぼくに聞いてきたけど、ぼくは恥ずかしくて怖くて逃げちゃった。
「ちょっと……!」
お姉さんがぼくを呼んでいたけど、気にせずに帰った。
たくさん買ったお菓子があるから、しばらくコンビニには行かなくてもいいだろう。
今日もお母さんは帰ってこなかったけれど、明日は帰ってくるかもしれない。
晴れの日も雨の日も、嵐が来ようとも毎日お母さんを待っていた。
お菓子も無くなって、お風呂のお水も出なくなった頃に、家のドアをノックする音がした。
「お母さんだ……!」
やっとお母さんが帰ってきたんだ。そう思って、急いで玄関まで走る。
ガチャリ
ドアを開けると、警察のお兄さんと、いつかのコンビニのお姉さん。
「この子です!」とお姉さんが言うと、警察の人がしゃがんで、ぼくの目を見る。
「ぼく、お家の人はいるかな?」
「お母さんがいるよ……」
「でも、今お家には君しかいないよね。お母さんはいつからいないの」
「お母さんは帰ってくるもん!」
ポロポロと涙が流れる。警察の人は悲しそうな顔をして、ぼくに一緒においでと言った。
そこからのことはよく覚えていなくて、気づいたら知らない大きなお家にいた。
たくさんの同い年くらいの子どもたちと、たくさんのお母さん。
ぼくのお母さんは結局戻ってこなかったけれど、ここの家族は嵐が来ても一緒にいてくれる。
今度はずっと一緒にいられたらいいな。
お題『嵐が来ようとも』
友情は、人間同士じゃなくても成立するのだろうか。
「ニャー」
「よしよ〜し!今日も可愛いねぇ〜!!」
「ゴロゴロ」
私は平凡な社会人2年目の女。
毎日のように働いて、こうして近所の野良猫に構ってもらうのが最近の日課だ。
飲み会に誘ってくれるような仲の友達はいないし、上京したのもあって気軽に遊べる友達もいない。
そんな心の寂しさを埋めてくれる猫のことを、私は友達のように大切に思っているのだけれど、猫はどうなんだろう。
「今日は奮発しちゃいました!」
そう言ってチュールを差し出すと、猫が目の色を変えて「ニャーニャー」と鳴き出す。
猫の言葉は分からないけど、これは多分「早くくれ!!」と言っているに違いない。
「よく食べるねぇ〜。たんとお食べ!」
「ニャー!」
一度おやつを与えるようになってしまったら、もうおやつなしでは構ってもらえなくなるんじゃないかと怖くて、少ない給料からおやつを買い続けている。
これは果たして友情なのか疑問だが、猫と打ち解けられたし、今じゃ私の顔を見るなり擦り寄ってくるくらいには仲良しなので、友情と思うことにしよう。
猫が友達でもいいじゃないか、幸せだもの!
お題『友情』
ある日、宇宙から隕石が落ちてきて、生き物も建物も、何もかもなくなってしまった。
その星を作った神様は、荒れ果てた星を見て大層悲しんだ。
「愛情込めて育ててきた星が、こんな姿になるなんて……」
昨日まで豊かに生命が生きていた星が、今じゃ見る影もない。
また一からやり直すしかない。
失った命の分まで、もっと素敵な星を作ろう。
そう思った神様は、星のお掃除を始めて、少しずつ少しずつ、長い年月をかけて星を作り直す。
崩壊した建物も、倒れた木々たちもブラックホールに捨てる。
神様は、ようやく綺麗になった星に、最後に小さな虹色の種を蒔いて、キラキラ光る水を揚げた。
「素敵な星になりますように」
そう願って、毎日毎日、お世話を続ける。
1000年ほど経って、やっと芽が出た。
「やったー!」と神様は大喜び。
さらに気合を入れて、大切にお世話をする。
さらに3000年経って、ようやく蕾が膨らみ始めた。
「もうすぐ咲きそうだ!」
そう思っていたのに、一向に花は咲かない。
「おかしいな」と神様。
暗い宇宙で毎日お世話を続けたけど、どうしても花は咲かなかった。
「もうダメかもしれない……」
神様がしょぼんと俯いていると、やがて、太陽の遣いがやってきた。
「神様、そんなに落ち込んでどうしたんだい?」
「太陽の遣いくん。実は、新しい星を作ろうと思って花を育てていたんだけど、あと少しのところで咲かないんだ」
太陽の遣いが目をやると、そこには神様と同じように元気のない蕾。
「神様、どうやってお世話をしたんだい?」
「どうって、そりゃあ、毎日水をやって、たくさん愛情を注いだんだよ」
「それだけ?」
「何かまずいのかい?」
「神様、大事なことを忘れているよ」
そう言うと太陽の遣いは得意げに胸を張った。
「花を咲かせるには、太陽の光がなくっちゃ」
「あっ!そういえばそうだったね」
うっかり者の神様。
大事なことを思い出せたみたい。
そうして、太陽の遣いが蕾に陽の光を与えた。
すると蕾はむくむく膨らんで、綺麗な虹色の花が咲いた。
「綺麗だね!」
「あぁ。君のおかげだよ。ありがとう!」
虹色の花が咲くと、そこから自然が広がって、やがて生命が生まれた。
あとは生命たちが頑張る番だからと、神様はお家に帰って行った。
虹色の花から生まれた星は、花がたくさん咲く、温かくて賑やかな星になりましたとさ。
お題『花咲いて』