ミキミヤ

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12/2/2024, 7:23:00 AM

同じ教室、机を2個分隔てた先。
あなたの後ろ姿を、私はいつも見てる。
後ろの席の子と話すときとか、プリントを回すときとか、振り返るあなたの顔を見ると、胸がドキドキする。

家はなんと隣同士。
だいたいは、学校へ先を行くあなたの後ろ姿を、距離を開けて後を追っている。
でも、たまに全く同じタイミングで家から出ちゃうときがある。そんなとき、あなたが「おはよう」と声をかけてくれると、それだけで私は舞い上がってしまう。私が少し上ずった声で「おはよう」と返すと、あなたはいつも小さく微笑んでくれる。それでまた、私は、天にも昇れる気になってしまうんだ。
ただ、学校までの道を一緒に歩くのは、恥ずかしすぎてどうにかなりそうでできない。なんとかかんとか理由をつけて、急いでるふりをして、あなたの先を歩く。後ろを歩くあなたとは、距離が開いていく。意気地なしの私は、自分から距離を広げてしまうんだ。


あなたと私の距離。
これ以上近づいたら私の心臓は耐えられなくなりそうだって思う。でも、ほんとは、もっとあなたに近づきたい。
もう少し、あと一歩、踏み出してみたら、あなたはどんな顔をする?
こわいけど、縮めたい、あなたへの距離。

12/1/2024, 9:29:12 AM

久々のデートの帰り道、いつもより口数の少なかったあなたは、「もう少し話したいな、寄ってかない?」と言って、駅の近くの人気のない小さな公園を指さした。私は、そんなあなたの様子に小さく違和感を覚えながらも、頷いて、公園に入った。
入り口近くの自販機で飲み物を買って、ベンチに座った。

「あなたの方からもう少し話したいって言ってくれるなんて、珍しいね」

私は笑って言った。あなたは目を伏せて、小さく「うん」と言った。

「今日、すごく楽しかったよ。ありがとう。あなた、いつも忙しくしてるから、こんなにあなたといられるの、本当に久々で、私、ほんとに――」「あのさ」

あなたが私の声を遮るように切り出した。私は「嬉しくて」と続けようとした言葉を引っ込めて、あなたの顔を見る。その顔は、何かいつもと違っていた。

「僕ら、別れよう」

あなたは言った。私は、信じられなくて、何の冗談かと思った。でも、こちらを見るあなたの目は真剣で、本気なのだとわかった。

「私のこと、嫌いになっちゃったの?」

私が訊くと、あなたは首を横に振った。

「違う。君が好きだよ。だからこそ、もう一緒にいられない。
僕には、夢がある。そのために、君を一番に優先して動くことができない。これまで、君とそのことで、何回も話し合ってきたね。でも、なかなか着地点を見つけられないでここまできた。そのことで、たくさん君を傷つけてきた。これからも、それは変わらないと思う。だから、別れよう」

あなたは淡々と冷静に理由を語った。確かに、あなたは忙しい人で、私を構う時間が少ないと、文句を言ったことはあった。私以外の人と会うことを優先されて、悲しかったこともあった。自分を一番にしてくれないことには、不満を持っていた。最近、そういうことでよく喧嘩していた。でも、その度に少しずつ歩み寄って、いつか理想の形になれると思ってた。今日みたいに、楽しく一緒に過ごせる日だってある。それなのに、別れるなんて。

「私、あなたが好きなの。好き同士だけじゃ、ダメなの?もっと時間をかければ、きっともっといい2人になれるって、思うんだけど」

「……僕はこれ以上君の望む形にはなれないよ。また君を苦しめる。それは、ダメだ」

きっとこの人は、今日別れを告げることを決意して、私の隣に立って、今日一日過ごしたのだ。それがわかった。

視界が揺らいで、涙が溢れた。

「泣かないで」

あなたの手が伸びてきて、私の涙を指先で掬う。その指先からは、未だ尽きぬ愛情が確かに感じられて。私を好きだと言うあなたの言葉に偽りはないことも、それでも別れを選んだあなたの決意は揺らがないことも、わかってしまった。


初恋だった。夢を語るあなたの横顔が好きだった。最初はただ一緒にいられるだけで幸せで、あなたにも共にいて幸せを感じてもらえるような私であろうと、そう思っていた。それなのに、私はそれを忘れて、あなたの一番になりたいと、あなたにたくさん無理をさせて、縛って、苦しめていたのだ。
私は自分の愚かさに、ただ泣くことしかできなかった。

あなたの下げられた眉の下、子どものように泣きじゃくる私を見つめる目は、苦しいほどに優しかった。

11/30/2024, 9:22:45 AM

今朝、バス停へ急ぐ道すがら、近所の畑の土が、うっすらと白いものを纏っているのに気がついた。霜だ。霜が降りている。近頃朝晩は冷えるなあ、とは思っていたが、もう霜が降りるような寒さが来ていたとは。私はその霜を見て、いっそう寒くなった気がして、マフラーに顔を埋めた。

バス停に着いて、フルフルと小さく震えながら、バスを待った。近くの街路樹から落ちた赤茶色の葉が、冷たい風に流されてカラカラと音を立てていた。
この時期は、今からこんなに震えていて真冬を越えられるのかと、毎年心配になる。毎年何とかなっているから今の自分がいるのだが。

まもなくバスがやってきた。乗り込んだ私は、幸運にも、席に座ることができた。暖房の熱が足元から感じられる。じわじわと暖められて、ホッとした。
やがて、ふわふわと眠気がやってくる。降りるバス停まで寝てしまおうと、私はその眠気に身を委ねた。

それから10分と少し経った頃、車内アナウンスに気づいて、降車ボタンを慌てて押した。降りるバス停は次だった。
会社の最寄りのバス停に着き、私はバスから降りた。途端、寒さがまた襲ってきた。マフラーに顔を埋め、ポケットに手をつっこんで、少し猫背気味で、会社への道を早足に歩いた。
もっともっと寒くなったらイヤーマフと手袋も着けないと生きていけないなあ、と思った。

会社に着いて、着替えに入ったロッカールームは、暖房で暖められていた。ロッカーを開けて、マフラーとコートをハンガーに掛ける。
ロッカー扉の内側に付いた鏡に映る自分は、始まった冬の寒さに沈んでいた。両頬を軽く叩いて、気合を入れる。さあ、仕事だ。


冬のはじまり。今朝はこんな朝だった。

11/29/2024, 8:08:11 AM

「出来損ない」「双子の不出来な方」
そう呼ばれるのは慣れていた。私は15年前、この田舎町に生を受けた。その時から隣には、双子の姉がいた。
姉は、頭がよくて、何でもよくできる人で、できないこともあっという間にできるようになる人だった。それに比べて私は、頭は悪いし、鈍臭くて、何にもろくにできなくて、できないことをできるようになるのに人の何十倍も時間がかかる奴だった。
当然私は、周りから疎まれた。両親も、姉ばかりを可愛がって、私にはほとんど目もくれなかった。
姉はみんなに尊敬され、期待されていた。対して私は、誰にも期待されなかった。
学校では無視されたり、暴力を振るわれることもしょっちゅうだった。町中の人間が、ヒソヒソと私の陰口を言い合っていた。だけど、そういうことがある度に、姉は私を庇って、助けてくれた。姉は私のヒーローだった。
私は、姉に劣等感を抱いていたが、同時に憧れてもいた。私はこの町の人間は憎んでいたが、姉を憎むことはなく、むしろ敬愛していた。姉は私にとって、このクソみたいな世界の中で、ただ一つ光る星だった。

「どうして私を見捨てないの?」
一度姉に訊いたことがある。
「他の誰がどう言おうと、私にとってあなたは大切な妹だから。双子なんだもの。私にはあなたが必要なのよ」
姉は答えて、私を抱きしめてくれた。不出来な私でも、必要としてくれる。それがたまらなく嬉しくて、私は少し泣いた。


「ねえ、いつか一緒にこの町を出て、2人で暮らさない?」
高校受験が終わり、姉は町の外のギリギリ家から通える距離の進学校に、私は町内の平凡な学校に行くことが決まった頃だった。姉はそう言った。
「どうして?」と私は問い返した。
「だって、ずっとこんな町にいるの、嫌じゃない?こんな生活、終わらせたくない?」
そう答える姉の顔は、少し苦々しい。姉も、この町の人間を憎く思っているのかもしれない。

町の外へ出るなんて、考えたこともなかった。
町の外へ出たら、何があるだろう。今よりもずっと自由な世界が広がっているだろうか。いろんな出会いがあるだろうか。
考えて、私はこわくなった。もし、姉がもっと自由な世界に出て、いろんな人と出会って、私より大切な人やものを見つけてしまったら。私はもう、姉に必要とされなくなるかもしれない。2人きりの安らぎは、もう訪れないかもしれない。私は外の世界で、独りになるかもしれない。
そんなのはこわい。いやだ。

俯く私の顔を、心配そうに姉が覗き込んでくる。
「私、お姉ちゃんと一緒なら、こんな町でも平気だよ。大丈夫だから。町を出るなんて、言わないで」
そう言いながら、私は泣いた。
姉は驚いて、ひどく困惑していた。想像していたのと全然違う答えが私から出てきたからだろう。
「急に変なこと言ったね。ごめんね。だから泣かないで」
と、必死に慰めてくれる姉の腕の中で、どうか、この閉じられた世界を終わらせないで、と私は願った。

11/28/2024, 8:37:30 AM

親愛、友愛、敬愛、性愛、恋愛――愛情の名前はたくさんある。

私があなたに抱いている愛情の名前は何だろう。

はじめは、きっと友愛だった。ただ純粋に友人として、あなたが大好きだった。他の友人とあなたと、一緒に話す時間は楽しくて、いつまでだって話していたいと思っていた。

それが、ある時から変わった。あなたが他の友人と話していると何故か苛立った。私があなたの一番でいたくて、友人に嫉妬したのだ。
自分の嫉妬心に気づいたとき、戸惑った。それまで私は友人に対してそういう感覚になったことがなかったから、自分があなたに抱いている感情は本当に友愛だろうかと、疑問に思った。もしそうでないなら、この愛情はいったい何だろうかと悩んだ。
あなたへの気持ちを改めて考えてみた。あなたに触れたくて、独り占めしたくて、自分だけを見てほしくて……。これは恋愛ではないかと思った。あなたと私は同性なのに、そんなこと思っていいのか、また悩んだ。

そんなモヤモヤを抱えながら、何年もあなたと過ごしていた。あなたから私に向けられる愛情の名前は友愛だということに、苦しんだ。私と同質の愛情を私に向けてほしいと思っていた。

そうして長く過ごすうちに、あなたに触れたいとか、独り占めしたいとか、そういう激しい気持ちはほとんど無くなった。相変わらずあなたの一番でありたいという気持ちは大きかったけれど、あなたが他の友人と遊んだ話をしても、あまり苛立たなくなった。むしろ、楽しそうに話すあなたを見ていると、私も楽しい気持ちになった。
自分があなたにどう思われているか、自分があなたをどう思っているか、ということよりも、あなたが幸せであるかどうかが、何よりも大切なことだと思えるようになった。その幸せを私が与えられたら、最高だとは思うのだけれど。

今、私があなたに抱いている愛情の名前は何だろう。
私は、その答えを持たない。

依然として、恋愛のようであるところもあるし、友愛であると思えるところもある。
答えが出せず、揺れたまま。

今は、答えは出せなくてもいいと思っている。
たとえ同じ名前の愛情ではなかったとしても。
私があなたを愛し、あなたもまた私を愛してくれていると確かにわかるから。
それだけでいいと、今は思うのだ。

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