「出来損ない」「双子の不出来な方」
そう呼ばれるのは慣れていた。私は15年前、この田舎町に生を受けた。その時から隣には、双子の姉がいた。
姉は、頭がよくて、何でもよくできる人で、できないこともあっという間にできるようになる人だった。それに比べて私は、頭は悪いし、鈍臭くて、何にもろくにできなくて、できないことをできるようになるのに人の何十倍も時間がかかる奴だった。
当然私は、周りから疎まれた。両親も、姉ばかりを可愛がって、私にはほとんど目もくれなかった。
姉はみんなに尊敬され、期待されていた。対して私は、誰にも期待されなかった。
学校では無視されたり、暴力を振るわれることもしょっちゅうだった。町中の人間が、ヒソヒソと私の陰口を言い合っていた。だけど、そういうことがある度に、姉は私を庇って、助けてくれた。姉は私のヒーローだった。
私は、姉に劣等感を抱いていたが、同時に憧れてもいた。私はこの町の人間は憎んでいたが、姉を憎むことはなく、むしろ敬愛していた。姉は私にとって、このクソみたいな世界の中で、ただ一つ光る星だった。
「どうして私を見捨てないの?」
一度姉に訊いたことがある。
「他の誰がどう言おうと、私にとってあなたは大切な妹だから。双子なんだもの。私にはあなたが必要なのよ」
姉は答えて、私を抱きしめてくれた。不出来な私でも、必要としてくれる。それがたまらなく嬉しくて、私は少し泣いた。
「ねえ、いつか一緒にこの町を出て、2人で暮らさない?」
高校受験が終わり、姉は町の外のギリギリ家から通える距離の進学校に、私は町内の平凡な学校に行くことが決まった頃だった。姉はそう言った。
「どうして?」と私は問い返した。
「だって、ずっとこんな町にいるの、嫌じゃない?こんな生活、終わらせたくない?」
そう答える姉の顔は、少し苦々しい。姉も、この町の人間を憎く思っているのかもしれない。
町の外へ出るなんて、考えたこともなかった。
町の外へ出たら、何があるだろう。今よりもずっと自由な世界が広がっているだろうか。いろんな出会いがあるだろうか。
考えて、私はこわくなった。もし、姉がもっと自由な世界に出て、いろんな人と出会って、私より大切な人やものを見つけてしまったら。私はもう、姉に必要とされなくなるかもしれない。2人きりの安らぎは、もう訪れないかもしれない。私は外の世界で、独りになるかもしれない。
そんなのはこわい。いやだ。
俯く私の顔を、心配そうに姉が覗き込んでくる。
「私、お姉ちゃんと一緒なら、こんな町でも平気だよ。大丈夫だから。町を出るなんて、言わないで」
そう言いながら、私は泣いた。
姉は驚いて、ひどく困惑していた。想像していたのと全然違う答えが私から出てきたからだろう。
「急に変なこと言ったね。ごめんね。だから泣かないで」
と、必死に慰めてくれる姉の腕の中で、どうか、この閉じられた世界を終わらせないで、と私は願った。
11/29/2024, 8:08:11 AM