桜井呪理

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10/20/2024, 9:26:19 AM

すれ違い

すれ違い。

みんな私を置いていく。

おんなじフリしてやってきたのに。

また叶わなかった。

小学校で、仲良しの子と約束した。

マラソン大会、一緒にゴールしようねって。

仲良しの子は約束を破って、私より先にゴールした。

そして今私が抱えているのは、その子の遺影だ。


私は病気だ。

歳を取らなくなる病気。

何度も大切な人を失った。

今度こそ一緒にいられると思った。

小学3年生から変わらない体は、特別なスーツで隠した。

仲良しの子と付き合って、結婚できた時は、ようやく一緒に歩ける人ができたと思ったのに。

君は最後、幸せになってと言った。

鈍いよ。

君に置いてかれちゃ、もう幸せになれない。

嘘つき。

一緒にいるって言ったのに。

ひどいよ、2回も先にゴールしちゃうなんて。

ナイフを持つ。

ああ、この病気の死因が、自殺が殆どだと言っていたのは、こういうことか。

やっとすれ違いしないで済むね。

赤く染まったワンピースを見つめながら、少女は目を閉じた。



10/18/2024, 9:49:59 AM

忘れたくても忘れられない。

あの日彼岸を渡った君のこと。

一生一緒にいたかった。

だから

僕は君の誕生日を数えるよ。

君は僕に話したよね。

彼岸に行った人間の誕生日を数えると

君の髪の毛を埋め込んだ人形に

魂が宿るってことを。

今日は君の15の誕生日。

君がいなくなってから、一年が経ったね。

ほら、動いてよ。

人形が動く。

ほら、ほら、もっと。

その人形は、手を広げ、

僕の首を締め付けた。

ああ、怒っているのか。

あの日僕だけ助かったことを。

あの日、火事が起こった時、僕は、君を助けられなかった。

寂しかったよね。

ごめん。

もう1人にしないから。

薄れたいく意識の中で、僕は彼女を抱きしめた

10/17/2024, 12:00:53 PM

カーテンに反射する、やわらかな光。

その光の絵を、もうずっと描いている。



僕は、「外」というものを知らない。

物心ついた頃にはこの病室にいたから。

僕のいる重症棟には、長く入院する人はほとんどいない。

そもそも歩ける子が少ないし、同じ病室の子も、昨日は元気に笑っていたのに、目覚めたらもう帰ってこなかった、なんてことも少なくない。

僕はなんでここにいるんだろう。

なんでここから出ることも、もういないみんなのところにも行けないんだろう。

最近は1人部屋に移されて、もうすることなんてなくなってしまった。

だから僕は、光の絵を描いた。

1人の時でも、光を見てるだけで、見えない誰かと何かをしている気になれたから。

美しい、やわらかな光。

ずっと見ていたいよ。

光が消えると、苦しくて、なんでかわからないけど、夜が怖くて、自分で描いた光の絵を抱いて眠った。

ある日、光をかいていると、病室に、知らない人たちが入ってきた。

なんだろう。

これが病室にいたあの子が言っていた、「メンカイ」というものだろうか。

でもおかしい。

その「メンカイ」っていうのには、知っている人しか来ないはずなのに。

怖くて何も言えないでいると、知らない人が口を開いた。

宗佑。
かわいそうにね。
あんな病気にかかったから、あんなかわいそうな死に方したんだよね。
早く生まれ変わってね。

何を言っているんだろう、この人たちは。

でも。

なんでかの声を聞いたことが、

この人を知っている気が、

視界がぐるりと揺れる。

なんだこれ。

流れてくるこの風景はなんなんだ。

気持ち悪い。


ぐるぐるした頭を押さえているうちに、知らない人はいなくなった。

もう、夜になっていた。

それなのに、光が見えた。

揺れる光。

手を伸ばして振れると、コマ送りの、でも懐かしい風景がゆっくりと流れ込んだ。

なんとなく見ていたくて、最後まで頭の中で知らない風景を見ていると、声が聞こえた。

宗佑。

思い出して。

私だよ。

百合?

知らないはずの、名前が溢れる。

その時。

やわらかな光が、1人の少女に変わった。

今まで見ていた知らない風景が、一瞬で自分のものに変わる。

ああ。

なんで忘れていたんだろう。

泣き出す僕を宥めながら、彼女は全てを話してくれた。

僕が記憶を失う病気にかかって死んだこと。

ここが死んだ子供が未練を残して怨霊化しないために死を自覚させる施設だということ。

一緒に病室で死んだ彼女が、記憶を無くして生まれ変われないでいる僕のために、光のふりをしてそばにいてくれたこと。

全てを聞いて、自分が嫌になる。

彼女を愛したかった。

君を愛せない自分がいやになった。

そんな僕に彼女は
大丈夫だよ。
生まれ変わったらまた次愛してね。

また次があるのなら、僕は彼女を愛したい。

愛してたいな。

待ちくたびれて薄れた彼女の手を取りながら、

僕らは、向こう側へ歩き出した。




10/15/2024, 12:51:20 PM

子供。

美しくて、純粋で、真っ白なソンザイ。

そんな、何も知らないか細い子供のココロを、

潰して

殺して

黒く染めていく。



僕はある組織に捕えられた。

人工授精で作った子供を、兵器に育てる組織。

うまく育てて、従順な兵器をたくさん作ったら、解放してくれるらしい。

だから僕は、組織に服従することを誓った。

それがどんなに悪いことだと分かっていた。

誰だって自分の身がかわいいじゃないか。

とにかく生きていたくて、傷ついていく子供を見ないふりをした。

僕は今日も部屋に入る。

それまで穏やかだった子供達の顔が、一瞬で強張るのが自分でもわかる。

でも仕方がない。

痛い思いがしたくなくて、毎日僕が子供を殴り、痛ぶった。

大体の子供は殴るということを聞いたが1人、周りと違う子がいた。

どれだけ殴られても組織に従わず、周りの子が傷ついて泣くと、代わりに自分を殴れというのだ。

ここから出る邪魔になるその子が嫌で、見せしめのつもりでその子を傷つけた。

その子は周りの子には慕われ、傷が増えた。


ある日、僕は施設から出られることになった。

今日が最後だと、喜び部屋に向かう。

もう傷つけることに罪悪感はなく、いつもの子を、今までの憎しみを込めて、ナイフで切りつけた。

痛みに耐えられなくなったのか、その子の目から涙が落ちる。

周りの子の目の色が変わる。

切りつけた少女の名前を叫んでいる。

なんで、なんで、なんで、やめろ、やめろユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ

全ての子供が武器を持ち、襲いかかってくる。

痛い、痛い。

やめてくれ。

自分が切りつけた少女を見る。

笑っていた。

不気味な満面の笑みで。

少女が口を開く。

ばかなひと。
あなたのおかげでこのこたちをしたがわせられる。
きずつけたおかえし。

ああ、全て俺はこの子に操られていたのか。

自分のシャツが赤く染まる。

多分俺は、助からない。

それはこの少女も同じだ。

意識が遠のく。

少女が言葉を紡ぐ。

じごくはあなたのばんだよ。
いっぱい、いたいのおかえししてあげる。
またあとで

もう開かない瞼の奥で、赤い川の向こうに、ナイフを持って立つ少女が


見えた気がした。






10/7/2024, 12:10:11 PM

力を込めて、君を殴る。

そんな簡単なことさえ出来ない。


僕は幽霊。

この世界に未練があってここにいるらしい。

その願いは、彼女の唇に触れること。

僕は病気で、彼女に触れることさえも許されなかったから。

でも、そんなのは無理な話だ。

僕は幽霊なんだから。

僕が死んでから84年が経ち彼女の余命は残り少ない。

ねえ。

置いてかないでよ。

ひとりにしないで。

八つ当たりとわかっていても、腹いせに彼女を殴る。

僕は彼女をすり抜ける。

ああ。

僕はもう誰かに注目されて、怒ってもらうことすらできないんだ。

堪えきれなくなって流した一筋の涙は、

彼女の頬を濡らすこともなく、



空に溶けた。

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