桜井呪理

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6/30/2025, 12:46:21 PM

「青く深く」

青いビー玉。

それがぼくの、

たからもの。




僕は今日も目を覚ます。

「おかあさん、おはよ」

おかあさんは答えてくれない。

そっと、となりの部屋に入る。

「あさごはん、たべられる?」

返事はない。

昨日より、具合は良くなさそうだ。

「ここに、おかゆ置いとくね」

そっと器を置く。

こうして、

僕の一日が始まった。



僕のお母さんは病気だ。

お父さんはいない。

ずっとひとり、お母さんのお世話をして生きている。

「いってきます」

家を出る。

今日は確か、お仕事もなかったはず。

珍しく、自由な日。

口元に、何ヶ月ぶりであろう微笑みを浮かべて、


僕は走り出した。




まずは買い物。

お米と

お薬と

それから


青色の飴の袋を手にとる

いや

この前怒られたばっかだし

やめとこ。


次は洋服。

お母さんに頼まれていた。

きらきらのやつ。

僕のは、、、。

自分のボロボロの

まぜおり服を見る。

やっぱりいいや。

さあ、これで買い物は終わり。

海にでも

向かおう。


浜辺に着く。

        「きれー、。」

海は、青く輝いていた。

そっと

青いビー玉のついた

ネックレスを取り出す。

むかし

むかしのはなしだ。

今よりもっともっと元気で

もっともっと優しかった

お母さんがくれたもの。

そっと、落ちかけた夕日にかざす。

この宝物は不思議なのだ。

いつか喋りだすのではないか。

そう思うほどに美しい。

もう時間だ。

少し早いけど、

僕は家に向かった。




「ただいま」

部屋には電気がついている。

「!おかあさん!」

おかあさんは、きらきらの服を着ていた。

「なんで帰ってきたの?」

え?

「あんたは、一生私に従って生きればいいのよ。
 なんで帰ってきたの。
 仕事は?
 休みなんてあげてない。
 せっかく男と遊びに行くのに。
 戻れよ。」

「 どうして?
 おかあさんは病気なんでしょ?
 どうして? 
 僕のことキライ? 
 僕はこんなに好きなのに?
 どうして?」

パン!

しょうげきがはしった。

痛い。

痛い。

パン!

また

痛い。

殴られたようだ。

「お前なんていらない!
 せいぜい反省しろ!」

部屋に引きずられる。

扉が閉まる。

痛い。

身体中がジンジンする。

何ヶ所か血が出ている。

骨も折れているかもしれない。

おかあさんは

おかあさんは

病気じゃなかったんだ。

僕は騙されていた。

服も

食べ物も

全部

全部

他の誰かと一緒に遊ぶためだった。

僕はもう、、、。

涙が溢れる。

いっそ、このまま、、。

その時だった

『こんにちは』

驚いた。

あのネックレスが。

話しかけてきたのだ。

「ビー玉さん?」

『そう。
 大丈夫だよ。
 私がいるから。
 自分に正直に生きて。
 大丈夫。
 私はあなたのそばにいるから。
 あなたの味方だから』

「本当?」

『本当だよ』

その言葉は、今まで聞いたことのないほど

暖かく

やわらかかった。



気づけば僕は、泣き疲れて眠っていた。

どれほどの時間が経ったのか。

鍵を隠しておいた針金で開け、外に出る。

そこには、

おかあさんがいた。

キッチンには黒焦げの何か。

「ちょうどよかった。
 さっきはごめんね。
 さあ、はやくご飯を作って。」

驚いた。

母の切り替えのいい加減さに。

でも

それよりも先に浮かんだのは。

『自分に正直に生きて』

あの言葉。

「本当?
 おかあさんは僕のこと愛してる?
 僕のためならなんでもしてくれる?」

「ええ。もちろんよ。
 だからはやくご飯を」

       「うれしい!」

青いビー玉から、

たくさんの青い水が溢れ出す。

気づけば体が動いていた。

水の中。

お母さんの体を押さえつけ、

沈む

沈む。

「ごめん 
 でもいいよね 
 おかあさんは僕を愛してるんだもん
 今までずっと我慢してたけど
 もういーや!
 ね
 ずぅっといっしょ。」

ふたり

落ちていく

1人は絶望し、怒り

1人は快楽と喜びに顔を歪め

青く

深く

ここがどこかもわからず

消えていった。

 






6/17/2025, 2:01:50 PM

「届かないのに」

街の大通り

通り過ぎていく

その

人々の中に

あなたの声が

聞こえた気がして


振り向く

走る

走る

息を荒くして

早足のあなたを追いかけて

袖を

つかむ。

やっと捕まえた

そう

思ったのに







気づけば

私は

くたびれたベットの上

ああ

またこの夢だ

もうあなたには会えやしないのに

何度も

何度も

何度だって

あなたを

追いかけてしまう

ああ

どうせ

空の上の

あなたには

       「届かないのに」

       













5/15/2025, 11:49:37 AM

「酸素」

海の中に佇む。

ゆらゆらと煌めく水の中。

ひとりぼっちで、沈んでいく。




私は、ただの少女だった。

普通に遊んで

友達がいて

恋をして

笑って。

そんな生活は、

ある日変わってしまった。

晴れた夏の日だった。

プールの後の濡れた腕に

見つけてしまったのだ

一枚の鱗を。

直感で感じたのは

「隠さなければ」

それだけ。

長袖を着て

毎日お風呂で血だらけになるまで鱗を剥いで。

不安で夜も眠れなかった。

いつ知られてしまうか。

いつ「普通」じゃあ無くなってしまうのか。

その先は、

想像のつかない恐怖だった。


でも。

異変は起こってしまった。

水の中にいないと

息苦しさを感じるようになったのだ。

苦しい。

水の中にいたい。

そんな衝動は、日に日に大きくなっていった。

その頃は、分厚い長袖に、怪我をしたと言って包帯を巻いていた。

鱗も、ナイフを使って剥いでいた。

息苦しさを抑え、鱗を隠す。

でも、やってしまった。

早朝、外を歩いている時に、

落ちてしまったのだ

澄み切った川に。

包帯も巻いていない。

体は、一瞬で鱗に包まれた。

どうしよう。

途方に暮れる。

「きゃぁぁ!」

声が聞こえた。

上を見る。

そこには。

後からついてきたらしい、妹がいた。

「おかーさん!」

やめて。

そんな声は、届かない。

あっという間に母がやってくる。

「化け物!」

母が叫ぶ。

「お母さん
 
 わたしだよ
 
 お願い
 
 しんじて、、、!」

気づけば、叫んでいた。

心のどこかで、思っていたから。

母は、どんな姿でも、わたしを愛してくれるのではないか。

でも。

そんな希望は、あっさりと砕かれる。

何かが飛んでくる。

刺さる。

血が吹き出す。

ナイフだ。

母がナイフを投げたのだ。

「いたい。
 
 痛いよ。
 
 お母さん。」

声が掠れていく。

「お前はもう娘じゃない!
 化け物!       」

ナイフは、次々飛んでくる。

ぶすり。

ナイフが、

胸に刺さった。

もう

だめだ。

私は、川を泳いだ。

海に向かって。

魚のようになった足を

懸命に動かして。

泳ぐ、泳ぐ。

涙と共に。

水の中にいて、心は穏やかなはずなのに。

この痛みは、ナイフの痛みだけでは、

無い気がした。



海に着いた。

血が、流れすぎている。

寒い。

寒い。

お母さん。

乾いた涙が、もう一度噴き出す。

もう泳ぐ力もない。

体が沈む。

沈んでいく。

途切れ掛ける意識の中で。

泡になって、

誰にも聞こえない音を、

水の中に洩らした。

     「酸素が吸いたい」










5/8/2025, 12:15:08 PM

「木漏れ日」


らん、ら、らん。

らら、らん、らん。

森の奥。

今日もそんな声が聞こえてくる。

ずっと。

ずっと。





僕の街には決まりがある。

たったひとつ。

一つだけ。

それは、街のはずれの森に入らないこと。

大人たちは、いつも口を揃えて言い放った。

いくら理由を聞いても、危ないから、としか言われない。

なんでだろう。

なんでだろう。

いつも僕の疑問の一つだった。



ある日、森の公園の近くで遊んでいた時、こえが聞こえた。

泣いてるような、甲高いこえ。

声のする方に向かう。

ぴしゃん!

足元から、そんな音がなった。

水たまりだろうか。

僕は視線を下に下ろす。

息を呑む。

そこには、血があったから。

まだ乾いていない、赤黒い液体が、僕の足元にあった。

鳴き声は、森の奥から聞こえる。

怪我をしているのだろうか。

でも。

森には入ってはいけない。

思わず足がすくんだ。

鳴き声が大きくなる。

僕より高い声。

子供なんだろうか。

迷い込んだのかもしれない。

僕の中の良心が、音を立てて痛む。

たすけなきゃ。

僕は、かけだしていた。



森の奥をしばらく走る。

声のするほうへ。

そこにいたのは、1人の少女だった。

大丈夫?

僕はそう言って近づく。

少女はびくり、と肩を振るわせ、あとずさった。

怖がっているのだろうか。

僕は笑顔を見せながら言う。

大丈夫。
その怪我、見せてくれる?

少女はしばらく僕を見ていたが、やがておずおずと足を差し出した。

ありがとう。

僕はそう言って少女の傷を見る。

撃たれ、切り付けれたような傷だ。

僕がその傷に触れる。

傷はみるみるうちに塞がっていく。

少女の目が見開かれる。

あなたも?

あなたもチカラをもってるの?

チカラ?

再生能力のこと?

少女は頷く?

このままじゃあなたもあぶない。

パァン!

何が、と言う前に、

そんな小気味いい音が鳴り響いた。

銃声。

頭が真っ白になる。

どうしよう。

早く逃げなきゃ。

でも、

どこに?

そのとき。

少女が口を開いた。

らん、ら、らん。

らら、らん、らん。

僕たちの周りを木漏れ日が包む。

光に覆われた空間ができる。

銃を持った人々は僕たちが見えなくなったみたいだ。

辺りを見まわし、去っていく。

これが君のチカラ?

少女は答える。

そう。

こもれびを歌であやつるの。

チカラをもつひとは、このもりにはいると、ちからがおおきくなるの。

そうか。

それで森には入ってはいけなかったのか。

僕は少女に語りかける。

大丈夫。

僕のチカラは、植物を操ること。

さっきみたいな再生能力も、その力のうちなんだ。

あとは、、、

僕は気の幹に触れる。

木は形を変え

大きな空洞を作った。






僕らは、この森に今もいる。

いつか殺されるかもしれない。

わからない。

それでもいいとさえ思ってしまう。

だって。

この木漏れ日の中にいる限り、

僕らは

幸せなのだから。






4/30/2025, 7:58:14 AM

「好きになれない、きらいになれない」





「アンタなんて、大ッ嫌い!」

屋上で言い放たれた1つの言葉。

「大丈夫」

「大丈夫だよ」

僕はそう答える。

毎日、毎日。



彼女は、ある病気にかかっている。

人に好意を伝えられなくなる、心の病気。

出会った頃は、そんな症状なかったのにな。

彼女は、いつもいろんな人から悪口を言われ、必死で耐えてきたらしい。

そんな時に僕は、彼女を好きになったんだ。

何度も何度も会話を重ね、なんとか仲良くなった。

仲良くなったのに。

彼女の病気は、発症した。

周りの人には、何も言ってないらしい。

嫌いな人たちばかりだから、好意を伝える必要はないそうだ。

やがて、彼女は僕に対して罵詈雑言をぶつけるようになった。

僕には、少しだけでも、好意を抱いてくれていたってことかな?

そう思うと、何もできない自分な腹が立った。

もしかしたら、もう彼女と関わらない方が、彼女に取っても幸せかもしれない。

汚い言葉を使わなくて済む。

傷つけるかもと思い悩む必要もなくなる。

でも。

やっぱり僕は、彼女のことを嫌いになれなかった。







「嫌い!早くいなくなれよぉ!」

「大丈夫」

僕は今日もそう言う。

彼女を傷つけないために。

彼女は泣き叫ぶ。

「どうして、どうして、、」

「あなたのこと、すきになれないの?」

僕は彼女を抱きしめる。

「大丈夫。
 僕は君のことを嫌いにならない。」

ひとつひとつ、確かめるように言う。

「大丈夫。
 絶対に嫌いにならないよ」

最後の言葉は、震えていた。

僕も泣いていたから。

「ほんとに?」

彼女は問う。

「本当だよ」

僕は答える。

「ありがとう」


僕たちは離れない。

君が僕をすきになれなくても。

だって。

僕は君を、嫌いになれないのだから。
 

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