桜井呪理

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5/8/2025, 12:15:08 PM

「木漏れ日」


らん、ら、らん。

らら、らん、らん。

森の奥。

今日もそんな声が聞こえてくる。

ずっと。

ずっと。





僕の街には決まりがある。

たったひとつ。

一つだけ。

それは、街のはずれの森に入らないこと。

大人たちは、いつも口を揃えて言い放った。

いくら理由を聞いても、危ないから、としか言われない。

なんでだろう。

なんでだろう。

いつも僕の疑問の一つだった。



ある日、森の公園の近くで遊んでいた時、こえが聞こえた。

泣いてるような、甲高いこえ。

声のする方に向かう。

ぴしゃん!

足元から、そんな音がなった。

水たまりだろうか。

僕は視線を下に下ろす。

息を呑む。

そこには、血があったから。

まだ乾いていない、赤黒い液体が、僕の足元にあった。

鳴き声は、森の奥から聞こえる。

怪我をしているのだろうか。

でも。

森には入ってはいけない。

思わず足がすくんだ。

鳴き声が大きくなる。

僕より高い声。

子供なんだろうか。

迷い込んだのかもしれない。

僕の中の良心が、音を立てて痛む。

たすけなきゃ。

僕は、かけだしていた。



森の奥をしばらく走る。

声のするほうへ。

そこにいたのは、1人の少女だった。

大丈夫?

僕はそう言って近づく。

少女はびくり、と肩を振るわせ、あとずさった。

怖がっているのだろうか。

僕は笑顔を見せながら言う。

大丈夫。
その怪我、見せてくれる?

少女はしばらく僕を見ていたが、やがておずおずと足を差し出した。

ありがとう。

僕はそう言って少女の傷を見る。

撃たれ、切り付けれたような傷だ。

僕がその傷に触れる。

傷はみるみるうちに塞がっていく。

少女の目が見開かれる。

あなたも?

なんのことだろうか。

あなたもチカラをもってるの?

チカラ?

再生能力のこと?

少女は頷く?

このままじゃあなたもあぶない。

何が、と言う前に、パァン!という小気味いい音が鳴り響いた。

銃声。

頭が真っ白になる。

どうしよう。

早く逃げなきゃ。

でも、

どこに?

そのとき。

少女が口を開いた。

らん、ら、らん。

らら、らん、らん。

僕たちの周りを木漏れ日が包む。

光に覆われた空間ができる。

銃を持った人々は僕たちが見えなくなったみたいだ。

これが君のチカラ?

少女は答える。

そう。
木漏れ日を操るの。
チカラを持つ人は、この森に入ると能力が大きくなるの。

そうか。

それで森には入ってはいけなかったのか。

僕は少女に語りかける。

大丈夫。
僕の能力は、植物を操ること。
植物の再生能力、あとは、、、

僕は気の幹に触れる。

木は形を変え

大きな空洞を作った。






僕らは、この森に今もいる。

いつか殺されるかもしれない。

わからない。

それでもいいとさえ思ってしまう。

だって。

この木漏れ日の中にいる限り、僕らは幸せなのだから。






4/30/2025, 7:58:14 AM

「好きになれない、きらいになれない」





「アンタなんて、大ッ嫌い!」

屋上で言い放たれた1つの言葉。

「大丈夫」

「大丈夫だよ」

僕はそう答える。

毎日、毎日。



彼女は、ある病気にかかっている。

人に好意を伝えられなくなる、心の病気。

出会った頃は、そんな症状なかったのにな。

彼女は、いつもいろんな人から悪口を言われ、必死で耐えてきたらしい。

そんな時に僕は、彼女を好きになったんだ。

何度も何度も会話を重ね、なんとか仲良くなった。

仲良くなったのに。

彼女の病気は、発症した。

周りの人には、何も言ってないらしい。

嫌いな人たちばかりだから、好意を伝える必要はないそうだ。

やがて、彼女は僕に対して罵詈雑言をぶつけるようになった。

僕には、少しだけでも、好意を抱いてくれていたってことかな?

そう思うと、何もできない自分な腹が立った。

もしかしたら、もう彼女と関わらない方が、彼女に取っても幸せかもしれない。

汚い言葉を使わなくて済む。

傷つけるかもと思い悩む必要もなくなる。

でも。

やっぱり僕は、彼女のことを嫌いになれなかった。







「嫌い!早くいなくなれよぉ!」

「大丈夫」

僕は今日もそう言う。

彼女を傷つけないために。

彼女は泣き叫ぶ。

「どうして、どうして、、」

「あなたのこと、すきになれないの?」

僕は彼女を抱きしめる。

「大丈夫。
 僕は君のことを嫌いにならない。」

ひとつひとつ、確かめるように言う。

「大丈夫。
 絶対に嫌いにならないよ」

最後の言葉は、震えていた。

僕も泣いていたから。

「ほんとに?」

彼女は問う。

「本当だよ」

僕は答える。

「ありがとう」


僕たちは離れない。

君が僕をすきになれなくても。

だって。

僕は君を、嫌いになれないのだから。
 

4/27/2025, 10:22:51 AM

「どんなに離れていても」


あなたに会いたい。

僕の願いは、ただ一つだけ。



僕の家族は、近くにいない。

みんな、みんなとおくに行ってしまった。

かなしい。

さみしい。

会いたい。

それしか頭になかった。

もういっそのこと、旅立ってしまおうか。

授業を抜けてたどり着いた教会で、僕はふと思う。

そうだ。

それがいい。

泣きながら、手を伸ばした時、あの子は現れた。

なにしているの?

少女は無邪気に話す。

驚いた。

だって、ここには僕しかいないはずだったから。

震える声で問う。

君は誰?

少女は少し考えた後、

なにであってほしい?

と答えた。

その子の目に、光はなかった。

君は何になりたい?

気がつけば話していた。

わかんない!

少女は弾けるように声を漏らした。

だって、ほんとうのことをいったこは、


殺されちゃうもん。

最後の言葉は、ほとんど消え入るようだった。

どうせころされちゃうならね、
じぶんでおわりにしようとおもったの。

ほら、これ!

少女は僕が使おうとしていたナイフを手に取った。

さよなら。


気づけば駆け出していた。

少女の手からナイフを弾き飛ばし、押さえつける。

はなして!

消え入る声で叫ばれた。

何か言わなければいけない。

言わないと死んでしまう。

混乱し切った僕の頭脳から搾り出された言葉は、

僕の神様になってくれ。

これだった。

少女は目を丸くしている。

僕は死にたかった。
神様なんていないと思ったから。
でも、君が神様になれば、僕は生きることができる。
僕は、君に神様になってほしい!

饒舌な口で言い放った。

とにかく、この子に生きる意味を与えなければ。

少女は少し黙った後、

いいよ。

と言った。

そうして、死にたがり2人の、奇妙な関係が始まった。



何ヶ月の間か、この教会で、2人きりで過ごした。

僕は、少女を神様として、拝んだり、敬語を使ったりした。

その間に分かったことが、いくつかある。

少女は、誰かを待っていること。

話を聞くに、その子は死んでいるらしいこと。

この少女は、何か異端な存在であること。

それに気づいても、何か言う気はなかった。

この日々が、永遠に続けばいいと思った。







ある日、2人で教会を出た。

その時。

少女は撃たれた。

急いで駆け寄る。

即死。

心音は止まっていた。

溢れる拍手。

周りにいる住民は、奇妙な笑顔で笑っていた。



葬儀の日。

少女は、贄として殺されるはずの、天使の末裔だそうだ。

火がつけられる。

これあげる。

後ろに、聞き覚えのある声がした。

振り向く。

そこには、体の透けた少女が立っていた。

ありがとう。

僕は受け取る。

いつも通りにしなければ。

少女は笑う。

         「ありがとう」

少女は消えた。

涙が溢れる。

どうして。

どうして。

ふと、少女から守らった手紙に目がいく。

あける。

あなたへ。
いままでありがとう。
あなたのかみさまでいられてよかった。

        いきて

                 わたしより。

もうダメだった。

気づけば僕は教会にいて、あの子への祈りを捧げていた。

僕の神様へ。

小さな小さな、僕の生きる意味への祈りを。





僕は今も、教会に住んでいる。

あの子の手紙の言葉を守れるように。

どんなにあの子と離れたって、大丈夫。

あの子は神様だから。

あの子のくれた手紙に触れながら、僕は今日も祈りを捧げた。

願いは一つ。

かみさまに、会えますように。






1/13/2025, 7:27:03 AM

「あったかいね」

君に触れる。

その冷たい手の温度は、わたしにまで、伝わってくる。





私はアンドロイドだ。

感情が存在してはいけないAI。

そんな機械の心臓に、ほんの少しの自我が生まれたものがいた。

それが私。

私は変だった。

他のAIが従っているプログラムに逆らったり、

何度も脱走しようとした。

でも、そんな私を、みんなは許さなかった。

調教され、拘束され、感情は押し殺される。

私の感情は消えた。

「欠陥品」

そんなレッテルを貼られたまま、私は粗大ゴミに捨てられた。

充電が切れて、動けない。

その私を拾ったのが、君だった。

無邪気な君は、私を人間として過ごさせてくれた。

暖かい君。

君といると

ゆっくり

ゆっくりと

凍りついた私の感情が

自我が

溶けていくのを感じた。

そんな君は今、

私の腕の中にいる。

君を、ただの孤児だと思っていた。

でも違った。

君は、特別な一族の末裔で。

君は今、撃たれてしまった。

君を抱え、

逃げる。

逃げる。

銃声が聞こえる。

私の体から、たくさんのコードと、黒い液体が滲み出る。

痛みはない。

大丈夫。

家に着く。

君の温度は、ほとんど感じない。

なにもできない。

くるしい。

ごめん。ごめん。

私は冷たいから。

君を温められない。

そう呟く。

君は笑う。

大丈夫。

今、泣けてる、じゃん。

君は、つめたくなんか、ない。

息も絶え絶えになりながら、きみは続ける。

ね、逃げてよ。

きみだけなら、きっとたすかる。

生きてよ、ねえ。

きみが、好き、だよ。

ねえってば。

君の必死の訴えを聞いて、私は君に抱きつく。

逃げない。

君のいない世界でなんて、生きたくない。

大丈夫。

一生一緒。

君は笑う。

私はもう、動けない。

抱きしめあったまま。

お互いの終わりを感じながら、時間だけが流れていく。

目を閉じる前に、最後に放った言葉が、重なる。



       『あったかいね』




1/8/2025, 8:25:16 AM

「追い風」

僕は死んだ。

君は泣いている。

ごめんね。

1人にして。

僕は、自分の姿を、風に変える。

ああ。

どうか。

どうか。

僕の吹かせる風が。

あの子が幸せに向かって走る力となる

追い風と




なりますように。

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