桜井呪理

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「好きになれない、きらいになれない」





「アンタなんて、大ッ嫌い!」

屋上で言い放たれた1つの言葉。

「大丈夫」

「大丈夫だよ」

僕はそう答える。

毎日、毎日。



彼女は、ある病気にかかっている。

人に好意を伝えられなくなる、心の病気。

出会った頃は、そんな症状なかったのにな。

彼女は、いつもいろんな人から悪口を言われ、必死で耐えてきたらしい。

そんな時に僕は、彼女を好きになったんだ。

何度も何度も会話を重ね、なんとか仲良くなった。

仲良くなったのに。

彼女の病気は、発症した。

周りの人には、何も言ってないらしい。

嫌いな人たちばかりだから、好意を伝える必要はないそうだ。

やがて、彼女は僕に対して罵詈雑言をぶつけるようになった。

僕には、少しだけでも、好意を抱いてくれていたってことかな?

そう思うと、何もできない自分な腹が立った。

もしかしたら、もう彼女と関わらない方が、彼女に取っても幸せかもしれない。

汚い言葉を使わなくて済む。

傷つけるかもと思い悩む必要もなくなる。

でも。

やっぱり僕は、彼女のことを嫌いになれなかった。







「嫌い!早くいなくなれよぉ!」

「大丈夫」

僕は今日もそう言う。

彼女を傷つけないために。

彼女は泣き叫ぶ。

「どうして、どうして、、」

「あなたのこと、すきになれないの?」

僕は彼女を抱きしめる。

「大丈夫。
 僕は君のことを嫌いにならない。」

ひとつひとつ、確かめるように言う。

「大丈夫。
 絶対に嫌いにならないよ」

最後の言葉は、震えていた。

僕も泣いていたから。

「ほんとに?」

彼女は問う。

「本当だよ」

僕は答える。

「ありがとう」


僕たちは離れない。

君が僕をすきになれなくても。

だって。

僕は君を、嫌いになれないのだから。
 

4/30/2025, 7:58:14 AM