「木漏れ日」
らん、ら、らん。
らら、らん、らん。
森の奥。
今日もそんな声が聞こえてくる。
ずっと。
ずっと。
僕の街には決まりがある。
たったひとつ。
一つだけ。
それは、街のはずれの森に入らないこと。
大人たちは、いつも口を揃えて言い放った。
いくら理由を聞いても、危ないから、としか言われない。
なんでだろう。
なんでだろう。
いつも僕の疑問の一つだった。
ある日、森の公園の近くで遊んでいた時、こえが聞こえた。
泣いてるような、甲高いこえ。
声のする方に向かう。
ぴしゃん!
足元から、そんな音がなった。
水たまりだろうか。
僕は視線を下に下ろす。
息を呑む。
そこには、血があったから。
まだ乾いていない、赤黒い液体が、僕の足元にあった。
鳴き声は、森の奥から聞こえる。
怪我をしているのだろうか。
でも。
森には入ってはいけない。
思わず足がすくんだ。
鳴き声が大きくなる。
僕より高い声。
子供なんだろうか。
迷い込んだのかもしれない。
僕の中の良心が、音を立てて痛む。
たすけなきゃ。
僕は、かけだしていた。
森の奥をしばらく走る。
声のするほうへ。
そこにいたのは、1人の少女だった。
大丈夫?
僕はそう言って近づく。
少女はびくり、と肩を振るわせ、あとずさった。
怖がっているのだろうか。
僕は笑顔を見せながら言う。
大丈夫。
その怪我、見せてくれる?
少女はしばらく僕を見ていたが、やがておずおずと足を差し出した。
ありがとう。
僕はそう言って少女の傷を見る。
撃たれ、切り付けれたような傷だ。
僕がその傷に触れる。
傷はみるみるうちに塞がっていく。
少女の目が見開かれる。
あなたも?
なんのことだろうか。
あなたもチカラをもってるの?
チカラ?
再生能力のこと?
少女は頷く?
このままじゃあなたもあぶない。
何が、と言う前に、パァン!という小気味いい音が鳴り響いた。
銃声。
頭が真っ白になる。
どうしよう。
早く逃げなきゃ。
でも、
どこに?
そのとき。
少女が口を開いた。
らん、ら、らん。
らら、らん、らん。
僕たちの周りを木漏れ日が包む。
光に覆われた空間ができる。
銃を持った人々は僕たちが見えなくなったみたいだ。
これが君のチカラ?
少女は答える。
そう。
木漏れ日を操るの。
チカラを持つ人は、この森に入ると能力が大きくなるの。
そうか。
それで森には入ってはいけなかったのか。
僕は少女に語りかける。
大丈夫。
僕の能力は、植物を操ること。
植物の再生能力、あとは、、、
僕は気の幹に触れる。
木は形を変え
大きな空洞を作った。
僕らは、この森に今もいる。
いつか殺されるかもしれない。
わからない。
それでもいいとさえ思ってしまう。
だって。
この木漏れ日の中にいる限り、僕らは幸せなのだから。
5/8/2025, 12:15:08 PM