カーテンに反射する、やわらかな光。
その光の絵を、もうずっと描いている。
僕は、「外」というものを知らない。
物心ついた頃にはこの病室にいたから。
僕のいる重症棟には、長く入院する人はほとんどいない。
そもそも歩ける子が少ないし、同じ病室の子も、昨日は元気に笑っていたのに、目覚めたらもう帰ってこなかった、なんてことも少なくない。
僕はなんでここにいるんだろう。
なんでここから出ることも、もういないみんなのところにも行けないんだろう。
最近は1人部屋に移されて、もうすることなんてなくなってしまった。
だから僕は、光の絵を描いた。
1人の時でも、光を見てるだけで、見えない誰かと何かをしている気になれたから。
美しい、やわらかな光。
ずっと見ていたいよ。
光が消えると、苦しくて、なんでかわからないけど、夜が怖くて、自分で描いた光の絵を抱いて眠った。
ある日、光をかいていると、病室に、知らない人たちが入ってきた。
なんだろう。
これが病室にいたあの子が言っていた、「ミレンメンカイ」というものだろうか。
でもおかしい。
その「ミレンメンカイ」っていうのには、知っている人しか来ないはずなのに。
怖くて何も言えないでいると、知らない人が口を開いた。
宗佑。
かわいそうにね。
あんな病気にかかったから、あんなかわいそうな死に方したんだよね。
早く生まれ変わってね。
何を言っているんだろう、この人たちは。
でも。
なんでかの声を聞いたことが、
この人を知っている気が、
視界がぐるりと揺れる。
なんだこれ。
流れてくるこの風景はなんなんだ。
気持ち悪い。
ぐるぐるした頭を押さえているうちに、知らない人はいなくなった。
もう、夜になっていた。
それなのに、光が見えた。
揺れる光。
手を伸ばして振れると、コマ送りの、でも懐かしい風景がゆっくりと流れ込んだ。
なんとなく見ていたくて、最後まで頭の中で知らない風景を見ていると、声が聞こえた。
宗佑。
思い出して。
私だよ。
百合?
知らないはずの、名前が溢れる。
その時。
やわらかな光が、1人の少女に変わった。
今まで見ていた知らない風景が、一瞬で自分のものに変わる。
ああ。
なんで忘れていたんだろう。
泣き出す僕を宥めながら、彼女は全てを話してくれた。
僕が記憶を失う病気にかかって死んだこと。
ここが死んだ子供が未練を残して怨霊化しないために死を自覚させる施設だということ。
一緒に病室で死んだ彼女が、記憶を無くして生まれ変われないでいる僕のために、光のふりをしてそばにいてくれたこと。
全てを聞いて、自分が嫌になる。
彼女を愛したかった。
生まれ変わったら、好きという感情を失うのが怖い。
そんな僕に彼女は
大丈夫だよ。
生まれ変わったらまた次愛してね。
また次があるのなら、僕は彼女を愛したい。
愛してたいな。
待ちくたびれて薄れた彼女の手を取りながら、
僕らは、向こう側へ歩き出した。
10/17/2024, 12:00:53 PM