力を込めて、君を殴る。
そんな簡単なことさえ出来ない。
僕は幽霊。
この世界に未練があってここにいるらしい。
その願いは、彼女の唇に触れること。
僕は病気で、彼女に触れることさえも許されなかったから。
でも、そんなのは無理な話だ。
僕は幽霊なんだから。
僕が死んでから84年が経ち彼女の余命は残り少ない。
ねえ。
置いてかないでよ。
ひとりにしないで。
八つ当たりとわかっていても、腹いせに彼女を殴る。
僕は彼女をすり抜ける。
ああ。
僕はもう誰かに注目されて、怒ってもらうことすらできないんだ。
堪えきれなくなって流した一筋の涙は、
彼女の頬を濡らすこともなく、
空に溶けた。
10/7/2024, 12:10:11 PM