赤い目玉の蠍ー♪
あの日の夜に君と歌った星巡りの歌。
僕は屋上のはじに座り、ゆっくりと口を開き
その歌を歌い出した。
君の瞳は、星のようだった。
新入りで、何もわからなくて泣いていた僕に君はとても優しくしてくれた。
僕の瞳の青が海のようだと言って、僕のことをマリンと呼ぶ君の声が、忘れられない。
君の光が浮かぶ黒い瞳は夜空のようで、僕は君のことをスカイだなんて呼んだっけ。
そんな君は、殺された。
僕たちは人間じゃない。
世界にもう何人といない、特殊な能力を使える子供達。
保護という形で捉えられ、記憶を消され、組織の従順な兵器として生きていく。
そんな僕らだから、名前なんて存在せず、大人たちに怯えて暮らしている。
そんな中、彼女 スカイはこの施設でしぶとく生きていた。
記憶が消えて混乱したふりをして、記憶を消されなくする薬を盗んだのだ。
施設にとらえられた僕に彼女が薬をくれたおかげで、僕は僕でいられた。
僕達は、お互いに名前をつけ合った。
組織の兵器ではなく、小さな生き物であることの証明に。
怖い大人たちにいろんなことをされながら、僕とスカイは、二人が同じ能力を持った種族であることを突き止めた。
僕とスカイは驚き、泣いて喜んだ。
この能力は、ある村で代々受け継がれてきた。
その村は何千年も前に滅亡し、その時生き残った二つの家計がこの能力を繋いだ。
その二つの家系の末裔が、まさに僕らだった。
奇跡の家系と呼ばれた僕らが会う事が出来たのだ。
僕らは、二人ならどんなことも出来ると、奇跡を起こせると、涙目で誓い合った。
僕達は、この施設から、ここにいる子供たち全員を逃す計画を立てた。
計画はこうだった。
夜中の寝静まった頃に、瞬間移動を使える子供の能力で、倉庫から能力を消す薬を盗む。
その薬で、ほとんどの子の能力を消す。
次に、能力を消さない子達で、大人たちを攻撃し、逃げる。
最後に、施設を破壊する。
そのあとは、自分で近くの孤児院に助けを求めるなり、元いたところに帰るなり、自由にする。
今思えば、相当危険な計画だ。
でも、傷ついた僕達は、そうするしかなかった。
計画を実行した。
施設の子達は、大人に能力の本気を出してない子が多かったから、大人たちは油断していたみたい。
思い通りになり、ほとんどの子供が外に出られた。
残ったのは僕とスカイだけ。
その時だった。
一人の男が、毒薬を持って近づいてきた。
ここにいた大人は全員殺したと思っていた僕らは驚き、絶望した。
僕とスカイは、能力を使った。
僕らの能力は特殊。
歌うことで隕石や流れ星を操る。
下手をすれば世界を滅亡させられる、恐ろしい能力。
だからこそ、僕達は恐れない。
その想いで僕達は口を開き
歌い出し、死に物狂いで男を殺し、ソラの手を引いて逃げた。
施設の門を潜った。
あと少し。
最後の計画を実行しないと。
僕とソラは手を取り、歌う。
上空から隕石を落とすと、施設は粉々に崩れ去った。
これで自由だ。
施設の子供達を逃し、残ったのは僕達だけ。
誰もいなくなったのを確認すると、ソラの方を向いた。
ソラは血だらけだった。
僕は驚き慌てた。
なんでだ。
なんで。
必死に記憶を探る。
そうか。
あの時の毒か。
ソラの目はもう輝いていなかった。
ソラが口を開く。
マリン。
大好き。
いつまでも一緒にいたいよ。
愛しtー
僕もだよ。
大好きと叫ぶ僕の声は、夜の闇にこだまするばかりで、君には届かなかった。
ごめんね。
ソラ。
ごめん。
あの時君が死ぬ前に、好きと言ってあげればよかった。
でも大丈夫。
もう直ぐそっちにいくから。
僕は歌い出す。
もう直ぐ僕の元に隕石が落ちる。
きっとソラは優しいからそっち側に来た僕に怒るんだろうな。
でも、君も一人は嫌だよね。
僕は目を瞑る。
もう隕石は直ぐそこだ。
隕石がぶつかる音と共に、誰にも聴いてもらえない大好きが、
空に響いた。
2月29日。
閏年のこの日は特別な日。
この日の黄昏時に、夕焼け堂に、夕日を向いて入る。
すると
もう会えない、愛する人に会えるらしい。
よくありがちな、ありきたりな噂。
その噂を信じて私は、ここに足を踏み入れた。
私の彼は、事故で死んだ。
そんなことは知っている。
だって私もその現場にいたから。
彼の顔は、原形がないほどにぐちゃぐちゃで、見るに耐えない姿だった。
らしい。
その姿が私にとって、よほどショックだったのかもしれない。
私は彼の顔を覚えていない。
知りたかった。
彼を愛していると、会って言いたかった。
夕焼け堂に入った。
見覚えのある、柔らかい歌声が聞こえた。
彼だ。
彼の顔は、夕焼けのオレンジでよく見えない。
でも
彼だという事だけは、理解する事が出来た。
彼が気がつく。
絞り出すような声で、私は言い放った。
大好き。
一生一緒に居たかったよ
ずっと忘れない
彼も言った
俺もだよ
ずっと好きだから
そう言われた時、彼の顔が、頭の中に浮かび上がった。
ああ
なんだ忘れていたんだろう。
安堵の息を漏らす私のそばで
見えない彼の顔が、
ほころんだ気がした。
きっと明日は晴れるはず。
大丈夫だよ。
そう言って姉は眠りについた。
姉の言葉を信じた。
信じていたかった。
ある日地球の水は枯れ果てた。
馬鹿な人間が使いすぎたから。
世界は砂漠と化し、すべての生き物が自分の死を悟った。
そんな時科学者がある発明をした。
砂を原子分解して、雨雲を作る装置。
みんなで協力して使えば世界を救える大発明。
なのにね。
馬鹿な人間はそれを独り占めし、怒った他の人間は装置を壊した。
壊れた機械は、世界を水没させる兵器となった。
その日から、雨が止むのを見たものは、一人もいないのだと言う。
恐ろしい兵器は徐々に故障し、死んでいった。
あと二人だけ。
そう。
私と姉は、あの恐ろしい兵器だ。
姉は、明日は晴れると嘘をついて眠った。
もう目覚めることはない。
私の涙は、もう雨か涙かわからない。
私はこの世界の全てを砂と認識した。
温もりも感じない機械である姉を抱きながら、私のたつ地面は、私に吸い込まれ、雨となり、
埋もれていった。
はあ?
お前みたいなやつ好きになるわけないじゃん。
早く消えろ。
これが私の初恋の終わり方。
ずっと好きにさせるために頑張ってきた。
そんなのも無駄なんだって思うと苦しい。
苦しいよ。
君が好きだから毎日を生きてきた。
君が私をいらないと言うなら
私は明日目覚める理由などない。
依存と呼べるほどに好きなひと
あなたは私がいらないんだね。
あなたは私の告白など見向きもせず
この屋上から立ち去ろうとしている。
そんなの嫌。
別れ際の最後の一押しのように、彼の手を捕まえる。
彼は私の手を振り払おうとする。
離さない。
怒りと悲しみと無気力な気持ちが混ざって、もうどうでもいい。
気持ち悪いほど満面の笑みを浮かべる。
屋上の端へと彼を引っ張る私を見つめる彼の顔は、みたことのないほど引き攣っている。
「お前どこからこんな力が」
彼は叫ぶ。
まあそうだよね。
私はヴァンパイア。
恋に飢えた私を傷つけたあなたは、もう私と離れられないね。
ずーっと一緒だよ。
真っ白な腕で彼を抱きしめながら私は屋上の端を蹴り
共に宙に舞った
ジャングルジムに座る女の子が一人。
その子は歌を歌っている。
その歌を聞いてはダメよ。
人間で居たいなら–---
こんな言い伝えが、私の村にはある。
私はこの村に住む住民の一人。
私には特別な能力がある。
私は人間以外の話す言語がわかるのだ。
そのことは村の人には言っていない。
でも村の人たちは、親もいないのに森の中で一日中楽しく歌う私が、嫌いみたい。
いつも私が来ると意地悪するし、今度の儀式?では私を生贄にするらしい。
その時、この噂を聞いた。
その歌を聞きたいと思った。
女の子も私と同じだと思った。
村の人に嫌われている私でも、その子になら嫌われない気がした。
その歌は何を言っているか分からないらしいけど、そんなの気にしないと願った。
村は夜の闇に包まれた。
今なら動いても大丈夫。
私はジャングルジムに向かった。
歌が聞こえる。
何を言っているのかもはっきりと。
つまり。
あの子は人間じゃないと言うこと。
恐る恐る話しかける。
村の人なんて嫌い。
私を人間じゃなくして。
そう言うと女の子は満面の笑みで笑う。
いいよ。
この歌が聞こえるなら、
あなたは私の友達。
やっと一人じゃなくなったね。
お互いに。
その子は泣いていた。
その子の着ているものは、生贄にされる時に着る、白い着物だった。
死んでからずっと一人だったんだね。
これからは二人一緒だよ。
そう言う私も泣いていた。
女の子は歌を歌い出す。
その歌を聞きながら私は思い出した。
昨日私が生贄となって死んだことに。
でも
もう一人じゃないならどうでもいいと願い目を瞑った。
生贄の女の子二人は、人ではなく、二人の白いカラスとなって、天へと飛び立った。