桜井呪理

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2月29日。

閏年のこの日は特別な日。

この日の黄昏時に、夕焼け堂に、夕日を向いて入る。

すると

もう会えない、愛する人に会えるらしい。

よくありがちな、ありきたりな噂。

その噂を信じて私は、ここに足を踏み入れた。






私の彼は、事故で死んだ。

そんなことは知っている。

だって私もその現場にいたから。

彼の顔は、原形がないほどにぐちゃぐちゃで、見るに耐えない姿だった。

らしい。

その姿が私にとって、よほどショックだったのかもしれない。

私は彼の顔を覚えていない。

知りたかった。

彼を愛していると、会って言いたかった。








夕焼け堂に入った。

見覚えのある、柔らかい歌声が聞こえた。

彼だ。

彼の顔は、夕焼けのオレンジでよく見えない。

でも

彼だという事だけは、理解する事が出来た。

彼が気がつく。

絞り出すような声で、私は言い放った。

大好き。
一生一緒に居たかったよ
ずっと忘れない

彼も言った

俺もだよ
ずっと好きだから

そう言われた時、彼の顔が、頭の中に浮かび上がった。

ああ

なんだ忘れていたんだろう。

安堵の息を漏らす私のそばで

見えない彼の顔が、








ほころんだ気がした。

10/1/2024, 9:43:40 PM