とげねこ

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1/30/2024, 2:30:47 PM

二日後の昼に、廃棄された街へ辿り着いた。

替えの部品があれば僥倖だが、発見できる確率は五分より悪いかもしれない。
街が廃棄される主な理由を考えると、仕方ない。視界に確認できる限り、構造物は破壊しつくされ、有機物を主成分とするものは残っていない。
進蟲−蟲による進行−によるものだ。これにより、蟲族はじりじりとその勢力圏を拡大している。

ポポウは、瓦礫を漁りながら、自身が器械族で良かったと思う。人族と異なり、食糧の補給は不要だし、替えが効くだけ身体の破損にも強いのだから。

とはいえ、このまま部品がないと、逆に自己修復能力が皆無なポポウとチチュンは早晩動けなくなってしまう。
-器械族と共存していた街であればよいのだけれど…
もう常になった焦燥感を抑えながら、捜索を続けていく。
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※街へ のお題です

1/28/2024, 10:55:51 AM

ー疲れた…
それがアキラが床にへたり込んで、一番最初に脳内に去来した感情だった。
結果的にヒスイは助かる。
目の前の金属でできた寝台には、薬液が満たされており、ヒスイはその中に全裸で横たわり眠っている。伊−ハが言うには、蜘蛛の毒を排出、血液を薬液で洗浄し、同時に損傷箇所を修繕していくらしい。全工程が完了するのは丸七日間掛かるそうだ。
現在いる場所は、超極小器械撒布用移動式製造機、通称〝蟻塚〟内部、整備室の一画。床は病院で使用されているような、淡く光が反射する合成樹脂素材で出来ているようで、冷たさは感じない。
時計がないため詳細な時刻はわからないが、小さく曇った硝子窓からは、室内の光が反射してはっきりした外の様子は窺い知れないが、深い紺色に染まり、月ーだと思うがーは少しづつ移動しているようだった。
「あちらは、人用の寝具がある場所に行こうとしますか?」
入り口から声がかけられる。
「イハさん」
伊−ハ三六、蜘蛛に襲撃される死地にいた二人を助け、さらに死に瀕していたヒスイを救ってくれた機械だ。彼ー性別は不明だがーは自らを器械族と紹介し、この蟻塚を管理する無数の器械達と周遊しているという。ここがいわゆる彼等の集落なのだろう。
廊下から見える彼の現在の外観は、かつて欧州で流行した、黒死病治療にあたる医師がつけたとされる鳥の嘴がついた仮面のような頭部をもち、胴体は外で見たよりも短くずんぐりとしていて、両脇には細かく動く手指のついた腕に、脚は廊下に巡らされた線路に連結もできる無限軌道式のもの。総じて屋内での移動に適した仕様に換装していた。
ー部屋着、って感じなのかな?
ぼんやりと考える。
「それとも、糧食の補給をしますか」
食欲も睡眠欲も今はない。
「いや、要らないです…あ、でも、水を、頂けますか?」
「水ね。はいはい。わたくしがお持ちしますね。」
言い残して、廊下の奥に滑るように消えていく。
器械族自体があまり光を必要としていないのか、内部は全体的に暗い。
人族であるアキラがいるから、わざわざ整備室内の電灯をつけてくれているようだ。
ーこれから、どうなるのかな…
ヒスイの眠る寝台に背を預ける。
膝を抱えたその前で左手を右手で握って、座り直した。
不安に押し潰されそうになり、アキラはそれを抑えつけるように、右手の爪を左手に食い込ませていた。
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※ミッドナイトのお題です。

1/27/2024, 1:58:53 PM



その影の頭部は透明な何かを被せた円筒で、中は逆光で定かではないが、中央付近には赤い光が輝いていた。
頭部のすぐ下あたりから、外套がすとんと身体を覆い、足元まで起伏なくおりているせいか、出現の唐突さも相まって、幽鬼にように思えた。
「◼︎◼︎◼︎ーー◼︎◼︎ー」
非常に甲高い、不快な音が幽鬼から放たれ、アキラはうっとなるが、両手が塞がっておりどうすることもできない。
どうやら、こちらに向けて音を発しているようだ。意味がわからないでいると、先ほど頸を落とした蜘蛛の死骸を離れて、此方へ近寄ってきた。
「あ…う」
何も出来ず立ち竦んでいるアキラが、すっぽりとその幽鬼が落とす陰に覆われるほど、それの背は高く、近くで見る頭部は、まるで真空管だった。
「---◼︎◼︎」
少し慌てたように、微かにかしゃかしゃという音が外套の中から聞こえてきた。外套が盛り上がり、短い嘴が付いた鳥の頭のようなものを取り出すと、真空管とそれを徐に挿げ替えた。真空管は外套の中へ入っていった。
「-ー---@¥jんす」
嘴がぱくぱくと開閉し、うねるように音が続く。
なんとなく、無線機の周波数を合わせているようにも、楽器の調律をしているようにも聞こえた。
「aaaa—-ooooo——-」
そのうち音程が一定になっていき、「あーあー、わたくしのことばをわかりますか」とまだ少し甲高い声で問いかけられた。
「発話用頭部、久しぶりに使いました」
−日本語?通じるのか?
鳥頭がこちらを覗き込みながら頸を傾げる。
「あ、ああ、分かる、分かるよ」
「それはようございましたね?」
ぎこちない日本語ではあるが、意思疎通が出来そうだ。
「わたくしは、伊−ハ三六です。わたくしには、あなた方を護る使命があります。」
「ところで」つ、と外套の切れ目から枯れ木のように細い鉄の腕のようなものが、アキラの背負われるヒスイを指し示し「蜘蛛の毒がまわっています。とても強力です。だから、わたくしが直しても良いですか。」
妙に落ち着いた感じで同意を求める。
「ヒスイの治療が出来るのか!?さっき刺されて…あっ」
背中のヒスイを優しく地面に降ろして、アキラは叫び仰け反った。
破れた服から覗く背中側の腰の皮膚はぐずぐずになり、中の肉も爛れ溶け落ちている最中だった。
素人目にも一目で、致命的なものだと、ヒスイが死に向かっていると、そしてアキラにはそれをみているだけしか出来ないことを理解した。
「頼む!ヒスイを助けてくれ!ください!お願いします」
アキラは、伊−ハ三六に懇願する。
「承知しました。少し衝撃的ですけど、黙っててくださいね」
そういうと、その手に透明な薄い硝子板のようなものを持つと、それで躊躇いなくヒスイの首を切った。
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※安心と不安のお題です。

1/26/2024, 3:58:19 PM

顔に絶え間なく当たり続ける水滴に意識が覚醒する。
「ここは…どこだ…」
アキラの視界には四方を囲む木々と、その間から薄暗い空が広がっていた。
頭を左に向けると、妹のヒスイが寝巻き姿ですうすうと寝息を立てていた。
アキラもヒスイも濡れ鼠の状態で、もともとそれぞれの部屋で寝ていたはずだ。
上体を起こし、周囲をぐるりと見回す。
四方は遺跡のような、崩れかけて、アキラの膝下程度の高さの壁、それ以外は鬱蒼とした木々に囲まれ、下は草の生い茂る地面だった。
ただ事では無いと思い、アキラらヒスイを揺すって起こす。
「おい、おい…ヒスイ、起きろ」
周りがよく分からない状況のため、自然と小声になる。
「ん…なに…」眠そうに瞼を開けたヒスイに少しほっとする。「え…ここ…え?」
ヒスイの声は困惑していた。
「俺も分からない。さっき起きたけど、気づいたらここにいたんだ」
「さむ…どういうこと…?」
濡れた身体を暖めるように自分の腕で抱え込む。
「ともかく、周りを確認してみよう。立てるか?」
アキラは立ち上がると、少し膝を曲げてヒスイに手を伸ばした。
左手は身体を抱いたまま、ヒスイはその手を取って立ち上がった。

起きた場所を起点にして渦を描くように、徐々に確認範囲を拡げたが、見知った場所はおろか、人里のようなものも、森の切れ目も無かった。
その頃には雨も止んだが、慣れない裸足での行動や、雨に濡れたことによる体温の低下、異常な状況における緊張で、特にヒスイの体力の低下は著しかった。
「お兄ちゃん…さむいよ…」
背に担いだヒスイが左耳そばで弱々しく呟いた。
「ともかく、休めるところがあれば…」
アキラはゆっくりと宛所なく歩を進めた。
と、向こうから、がさと音がしアキラは身構え、叢から出てきたものを見て驚愕した。
鋭い一対の鋏角、複数ある漆黒の眼、少しずんぐりとした、身体に対しては細い脚…蜘蛛だ。しかし大きい。ゆっくりと全貌を顕したその蜘蛛は体高がアキラの腰くらい、体長もアキラの身長かそれ以上あるだろうか。
どこを見ているか分からない。
分からないが、アキラは本能的にこちらに狙いを定めた事を悟った。
-まずい
大きさ云々は今はどうでもいい。
アキラは出来るだけ刺激しないよう後退る。

背中から、どん!という衝撃。

まさかと思い右肩越しに背後を確認すると、いつの間にか、忍び寄っていたもう一体の蜘蛛が、ヒスイに接触しているようだった。

「う、うわぁぁぁ!!」
アキラは堪らず走り出した。
ずるりという嫌な感触。
きっとさっきヒスイに牙のようなものが刺されていて、それが抜けたのだろう。
前方の蜘蛛に捕まらなかったのは僥倖だが、後ろから二体が追ってきているのがわかる。
「なんだよ!なんなんだよ、ここは!!」
叫びながら我武者羅に走る。
小石や枝が素足に食込み、刺さる。
それでもアキラは走り続けた。

黒い何かが横を通り抜ける。

え、と思わず停止して、振り返る。
“それ”は鎌鼬のように二体の蜘蛛の頸に巻きついたと思うと、次の瞬間、ぼと、ぼとと蜘蛛の頭が落ちる。
唐突に頭を喪った蜘蛛の身体は、そのまま慣性に従って進み、アキラの両脇の地面に滑り込んで止まった。

呆気に取られるアキラには、外套のようなものを全身にまとっている“それ”が、ちょうど光を背に受けて影にしか見えなかったが、すくなくとも、すぐに危害を加えてくるようなものでは無いことも理解できたのだった。
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※逆光のテーマです。

1/24/2024, 11:58:21 AM

私はね、時間を遡行するなんてことは不可能だって悟ったんです。
空間を固定する、局所的に時間を逆進させる、空間を超越するほどの速度で打ち出す。色々考えたんですよ。
でも必要な運動量に対して、ヒトが再現可能な運動量は、砂粒ひとつにもなりません。
誰でも、一度だって、ちらっとでも、「もしこうだったなら」と思ったこと、あるでしょう?
貴女は?
ええ?ない?
……ふうん。
それは、素晴らしいし、幸せな半生だったんでしょう。同時に傲慢でもある。
ちっとも羨ましくないですがね!

……こほん。
ともかくね、私はやり直したい事ばかりですよ。貴女と違ってね。

だから、色々考えたんですよ。

でね?物質転送が当たり前になったいま、転送装置も各所にあるじゃないですか。
この装置は簡単に言ってしまえば、空間を飛び越えた物質の交換です。
時間も距離も関係ない。
今や魔法とともに社会に欠かせない資本の一つですよ。

でね?未来にもこの技術や装置が無くなることは無いと仮定するなら、百年後、二百年後未来に、その装置に物質を送り込むことは可能なんじゃないかって。逆もまた出来るんじゃないかって。

え?じゃあ、なんで今まで未来から物質が送り込まれなかったかって?
いい質問ですね。

そりゃあ…
まだ私がそれに対応した装置を作って無かったですもの。
(直後、後ろにある大きな装置から起動音がし、映像が乱れ、終了する)

-『最後の世界変革』前夜に撮られたとされる、ある博士の取材記録の三次元映像-
※タイムマシーンのお題です


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子どものすすり泣きが耳障りだ。
子どもの絶望した声が耳障りだ。
子どもの親を呼ぶ声が耳障りだ。

幾人もの子どもが繋がれ、押し込められ、閉じ込められた闇の中にある倉庫の中で、ノストラは他の子どもと同じように、目と口を塞がれ、手は後ろ手に、併せて膝と足を縛られ、床に転がされていた。
縛っている鎖は、太く、短く、壁に連結しており、到底ヒトの力では抜け出すことはできそうになかった。
既に彼の手枷には彼の皮と血がべったりと剥張り付いており、どれだけ激しくもがいたかを物語っていた。
-あの被虐趣味野郎が…くそ、いてぇ
彼の右の人差し指は折れていた。
先ほど自分の体重を乗せて折ったのだ。
とある人物に、彼の緊急事態を告げる魔法紋を、わざわざ“骨に直接彫り込んだ”もので、それが何らかの形で崩壊させることが、発動の引金だった。
もともとの拷問と手首や指の痛みで意識が飛びそうになる。

『ノストラァー。もし、もしだよ?ぼくにたすけて欲しくなったらぁ、すぐいってね?いつでも飛んで行くからさぁ!いゃぁー、そんな事ないかなぁ?あるといいねぇ』
にやにやとノストラの人差し指に話しかけられる。
『ふざけるな、死ね』と返すと、気を失うまで殴られ、そのあと、気を失うまで殴り返した。

-あいつの面が目に浮かぶ。年々面影に重なっていく。忌々しい…

『お互い酷い格好だな。臓物塗れ、糞尿塗れ、泥塗れ。おまけに血の川で洗い流さなきゃなんねえ。なぁノストラ、これこそ現世だ。全く最高だな!』
呵呵と、歯をむき出して無邪気に笑う。
『俺は死んだら是非とも地獄に行きたいぜ。ここよりゃなんぼっか良い所に違いない』
一声教(いっせいきょう)が、自身の教義を珍しく成就させ、下層に中型の蟲を大量発生させたことにより、下層はその人口密度も相まって阿鼻叫喚となった。
発生源である一声教の信者たち一団は、もとより蟲の最初の生餌も兼ねているため既に蟲の腹の中だ。
コーザ一家の先代と、従者のノストラの二人は住民を逃がすために、死地に臨んでいた。
『俺もお供します』
『いい、いい、ついてくんな。お前には息子の面倒を見て欲しい』
苦虫を噛み潰したような顔でノストラは応える。
『あいつですか?』
『ああ、あいつは性根こそ曲がっているが、これから下層が這い上がる為に必要なやつだ。支えて欲しい』

向こうからきこえた蛙を潰したような悲鳴で、自分が気を失いかけていたことに気付く。
“ぃぃぃいいい!やめてやめて、あ“げま“ず!あ“げま“ずがら”!”
がちゃんという鍵のようなものが開く音、
ぐちゃという何かが潰れる音、
直後、ぎぃぃという音。
「ノストラぁ!いたぁ!」
いま最も聞きたくない、ひどく嬉しそうな声が、ノストラには何より耳障りだった。

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※こんな夢を見たのお題です



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