とげねこ

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私はね、時間を遡行するなんてことは不可能だって悟ったんです。
空間を固定する、局所的に時間を逆進させる、空間を超越するほどの速度で打ち出す。色々考えたんですよ。
でも必要な運動量に対して、ヒトが再現可能な運動量は、砂粒ひとつにもなりません。
誰でも、一度だって、ちらっとでも、「もしこうだったなら」と思ったこと、あるでしょう?
貴女は?
ええ?ない?
……ふうん。
それは、素晴らしいし、幸せな半生だったんでしょう。同時に傲慢でもある。
ちっとも羨ましくないですがね!

……こほん。
ともかくね、私はやり直したい事ばかりですよ。貴女と違ってね。

だから、色々考えたんですよ。

でね?物質転送が当たり前になったいま、転送装置も各所にあるじゃないですか。
この装置は簡単に言ってしまえば、空間を飛び越えた物質の交換です。
時間も距離も関係ない。
今や魔法とともに社会に欠かせない資本の一つですよ。

でね?未来にもこの技術や装置が無くなることは無いと仮定するなら、百年後、二百年後未来に、その装置に物質を送り込むことは可能なんじゃないかって。逆もまた出来るんじゃないかって。

え?じゃあ、なんで今まで未来から物質が送り込まれなかったかって?
いい質問ですね。

そりゃあ…
まだ私がそれに対応した装置を作って無かったですもの。
(直後、後ろにある大きな装置から起動音がし、映像が乱れ、終了する)

-『最後の世界変革』前夜に撮られたとされる、ある博士の取材記録の三次元映像-
※タイムマシーンのお題です


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子どものすすり泣きが耳障りだ。
子どもの絶望した声が耳障りだ。
子どもの親を呼ぶ声が耳障りだ。

幾人もの子どもが繋がれ、押し込められ、閉じ込められた闇の中にある倉庫の中で、ノストラは他の子どもと同じように、目と口を塞がれ、手は後ろ手に、併せて膝と足を縛られ、床に転がされていた。
縛っている鎖は、太く、短く、壁に連結しており、到底ヒトの力では抜け出すことはできそうになかった。
既に彼の手枷には彼の皮と血がべったりと剥張り付いており、どれだけ激しくもがいたかを物語っていた。
-あの被虐趣味野郎が…くそ、いてぇ
彼の右の人差し指は折れていた。
先ほど自分の体重を乗せて折ったのだ。
とある人物に、彼の緊急事態を告げる魔法紋を、わざわざ“骨に直接彫り込んだ”もので、それが何らかの形で崩壊させることが、発動の引金だった。
もともとの拷問と手首や指の痛みで意識が飛びそうになる。

『ノストラァー。もし、もしだよ?ぼくにたすけて欲しくなったらぁ、すぐいってね?いつでも飛んで行くからさぁ!いゃぁー、そんな事ないかなぁ?あるといいねぇ』
にやにやとノストラの人差し指に話しかけられる。
『ふざけるな、死ね』と返すと、気を失うまで殴られ、そのあと、気を失うまで殴り返した。

-あいつの面が目に浮かぶ。年々面影に重なっていく。忌々しい…

『お互い酷い格好だな。臓物塗れ、糞尿塗れ、泥塗れ。おまけに血の川で洗い流さなきゃなんねえ。なぁノストラ、これこそ現世だ。全く最高だな!』
呵呵と、歯をむき出して無邪気に笑う。
『俺は死んだら是非とも地獄に行きたいぜ。ここよりゃなんぼっか良い所に違いない』
一声教(いっせいきょう)が、自身の教義を珍しく成就させ、下層に中型の蟲を大量発生させたことにより、下層はその人口密度も相まって阿鼻叫喚となった。
発生源である一声教の信者たち一団は、もとより蟲の最初の生餌も兼ねているため既に蟲の腹の中だ。
コーザ一家の先代と、従者のノストラの二人は住民を逃がすために、死地に臨んでいた。
『俺もお供します』
『いい、いい、ついてくんな。お前には息子の面倒を見て欲しい』
苦虫を噛み潰したような顔でノストラは応える。
『あいつですか?』
『ああ、あいつは性根こそ曲がっているが、これから下層が這い上がる為に必要なやつだ。支えて欲しい』

向こうからきこえた蛙を潰したような悲鳴で、自分が気を失いかけていたことに気付く。
“ぃぃぃいいい!やめてやめて、あ“げま“ず!あ“げま“ずがら”!”
がちゃんという鍵のようなものが開く音、
ぐちゃという何かが潰れる音、
直後、ぎぃぃという音。
「ノストラぁ!いたぁ!」
いま最も聞きたくない、ひどく嬉しそうな声が、ノストラには何より耳障りだった。

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※こんな夢を見たのお題です



1/24/2024, 11:58:21 AM